43.錦絵
夢主名前設定
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「何だそれは、嫌な便りでも受け取ったか」
「いえ、これは……」
「何だこれは」
夢主が紙に目を落として暗い顔をしている。
奇妙な手紙でも渡されたかと案じて覗けば、紙には猛々しい一人の男が描かれていた。
よくよく見ると『土方歳三』と書かれている。斎藤の眉間に皺が寄った。
何かの間違いではないか、寝巻の衿元を整えながら見ていると、夢主が顔を上げた。
「これは土方さんです」
「フッ、似てないな。どうしたこんなもの」
似てないと笑うが、どこか嬉しそうだ。
懐かしい面影に頬が緩んだが、いや似てないだろうと自分が慕った男の顔を思い浮かべていた。
そんな横顔に夢主も笑顔を取り戻した。
「ちょっとついでがあって絵草子屋さんで買ったんです。中島登さんが描かれたそうですよ」
「ほぅ、あの中島が」
中島登は新選組に在籍し伍長を勤め、戊辰戦争では箱館まで渡った男。今もなお健在と聞いてはいたが、まさか描いた絵が出てくるとは思わなかった。
似てはいないが絵としては見事だ。斎藤はフンと頷いた。
「お上手ですよね。一さんの絵も売ってたのかな」
「無いだろう」
「あるかもしれませんよ!」
「探すなよ。あっても買ってくるな」
「ふふっ、わかりました」
探しちゃおう……密かに笑う夢主に対し、斎藤の眉間に再び皺が浮かんだ。
「お前、探す気でいるな」
「だって、あったら見てみたいですもん!一さんなら絶対に格好良く描かれているはずです!」
見た記憶があるんですから!
言いたいのを我慢して夢主は勢いよく続けた。
「土方さんがあるなら他の皆さんのもあるかもしれませんし、あるなら絶対に一さんの絵も描かれているはずです!」
「そうかもしれんが探さんでいい」
「じゃあ、これ飾ってもいいですか、土方さん!」
「やめろ」
「どうしてですか、土方さんが守ってくれる気がしませんか」
「せんな」
「貼りたいです!」
「駄目だ」
問答空しく願いは聞き入れられず、夢主の眉尻が淋しそうに下がった。胸の奥をチクチクやられる表情だ。
斎藤は良い案はないか考えた。
貼るだと、寝間は絶対に駄目だ。隣の客間か、いいや客が驚く。客など来るか、いや来るかもしれんだろう。
ならば二階か。武器を取りに行くたび顔を見るんじゃ落ち着かん。舅に睨まれている気分だ。
短い時間であれこれ考えてみるが、答えは変わらなかった。
「やはり駄目だ」
「そんなぁ……」
更に落ち込みそうな夢主を見て、名案が浮かんだ。
押し付けるいい相手がいるではないか。
「沖田君の道場に貼ったらどうだ」
「それ……名案です!きっと総司さんも喜びますね!」
「あぁ、そうだろう」
ククッ、上手くいった。お前があられもない姿を晒す部屋に貼れるか阿呆。
そんな言い訳をしてみるが、面白くない理由は斎藤自身にもある。似ていなくとも、あれほど近しかった副長・土方歳三の存在を感じるのはくすぐったい。
部屋に貼らせない理由を作ると夢主はすんなり受け入れ、斎藤はやれやれと肩を下げた。
「総司さん喜んでくれるかな」
「あぁ、喜んでくれるだろう」
さりげなく夢主の手から錦絵を取り上げて、文机の上に追いやった。
裏向けて置く、これで覗かれはしまい。斎藤はふざけて絵の裏側に念を飛ばした。
斎藤は整えたばかりの衿元を自ら崩し、悪戯に笑った。
悪ぶった笑みにハッと気付いた夢主、しなやかな指に掴まれて、ゆっくり床に押し倒されていった。
悦ばしい夫婦二人きりの時間に邪魔者はいらない、斎藤の目がそう語っている。
夢主は頑なに拒んだ理由が分かった気がして、恥じらいながら小さく頷いた。
「いえ、これは……」
「何だこれは」
夢主が紙に目を落として暗い顔をしている。
奇妙な手紙でも渡されたかと案じて覗けば、紙には猛々しい一人の男が描かれていた。
よくよく見ると『土方歳三』と書かれている。斎藤の眉間に皺が寄った。
何かの間違いではないか、寝巻の衿元を整えながら見ていると、夢主が顔を上げた。
「これは土方さんです」
「フッ、似てないな。どうしたこんなもの」
似てないと笑うが、どこか嬉しそうだ。
懐かしい面影に頬が緩んだが、いや似てないだろうと自分が慕った男の顔を思い浮かべていた。
そんな横顔に夢主も笑顔を取り戻した。
「ちょっとついでがあって絵草子屋さんで買ったんです。中島登さんが描かれたそうですよ」
「ほぅ、あの中島が」
中島登は新選組に在籍し伍長を勤め、戊辰戦争では箱館まで渡った男。今もなお健在と聞いてはいたが、まさか描いた絵が出てくるとは思わなかった。
似てはいないが絵としては見事だ。斎藤はフンと頷いた。
「お上手ですよね。一さんの絵も売ってたのかな」
「無いだろう」
「あるかもしれませんよ!」
「探すなよ。あっても買ってくるな」
「ふふっ、わかりました」
探しちゃおう……密かに笑う夢主に対し、斎藤の眉間に再び皺が浮かんだ。
「お前、探す気でいるな」
「だって、あったら見てみたいですもん!一さんなら絶対に格好良く描かれているはずです!」
見た記憶があるんですから!
言いたいのを我慢して夢主は勢いよく続けた。
「土方さんがあるなら他の皆さんのもあるかもしれませんし、あるなら絶対に一さんの絵も描かれているはずです!」
「そうかもしれんが探さんでいい」
「じゃあ、これ飾ってもいいですか、土方さん!」
「やめろ」
「どうしてですか、土方さんが守ってくれる気がしませんか」
「せんな」
「貼りたいです!」
「駄目だ」
問答空しく願いは聞き入れられず、夢主の眉尻が淋しそうに下がった。胸の奥をチクチクやられる表情だ。
斎藤は良い案はないか考えた。
貼るだと、寝間は絶対に駄目だ。隣の客間か、いいや客が驚く。客など来るか、いや来るかもしれんだろう。
ならば二階か。武器を取りに行くたび顔を見るんじゃ落ち着かん。舅に睨まれている気分だ。
短い時間であれこれ考えてみるが、答えは変わらなかった。
「やはり駄目だ」
「そんなぁ……」
更に落ち込みそうな夢主を見て、名案が浮かんだ。
押し付けるいい相手がいるではないか。
「沖田君の道場に貼ったらどうだ」
「それ……名案です!きっと総司さんも喜びますね!」
「あぁ、そうだろう」
ククッ、上手くいった。お前があられもない姿を晒す部屋に貼れるか阿呆。
そんな言い訳をしてみるが、面白くない理由は斎藤自身にもある。似ていなくとも、あれほど近しかった副長・土方歳三の存在を感じるのはくすぐったい。
部屋に貼らせない理由を作ると夢主はすんなり受け入れ、斎藤はやれやれと肩を下げた。
「総司さん喜んでくれるかな」
「あぁ、喜んでくれるだろう」
さりげなく夢主の手から錦絵を取り上げて、文机の上に追いやった。
裏向けて置く、これで覗かれはしまい。斎藤はふざけて絵の裏側に念を飛ばした。
斎藤は整えたばかりの衿元を自ら崩し、悪戯に笑った。
悪ぶった笑みにハッと気付いた夢主、しなやかな指に掴まれて、ゆっくり床に押し倒されていった。
悦ばしい夫婦二人きりの時間に邪魔者はいらない、斎藤の目がそう語っている。
夢主は頑なに拒んだ理由が分かった気がして、恥じらいながら小さく頷いた。