43.錦絵
夢主名前設定
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「いやぁ運がいいねぇ、今日入った中に赤報隊隊長の絵があるよ」
「相楽さん……」
「良く知ってるねぇ!まさか売れるとは思わなかったよ」
「いえ、あの……他に月岡さんの新作はありませんか」
「あったんだけどもう売れちまったよ。月岡さんは人気だからね、唯一売れない絵になるかもしれないねぇ、この赤報隊の絵」
月岡津南は既に人気の絵師だった。
新作は午前中に売り切れたらしい。残っているのは赤報隊隊長・相楽総三の絵のみ。
今後の出会いを想定すれば、これを妙に買って行くのは宜しくないだろう。
「あの、土方歳三の絵が入ったと聞いたんですが」
「あぁこれは人気の絵だね、最後の二枚だ。あんたやっぱり運がいいよ!こっちの赤報隊はどうする」
「土方さんは二枚、赤報隊は……一枚下さい」
主人から漂う特有の煙草の臭いが近付いた。
受け取った絵には、記憶通り少年が二人描かれている。
隊長を挟むように立つ幼い左之助と月岡の姿だ。
幕末の呪いに憑りつかれたまま明治を生きる月岡、いつか左之助が目を覚まさせる日がやって来る。
夢主は相楽総三の絵を懐に隠し、土方歳三の錦絵を手に赤べこへ戻って行った。
「あぁぁかっこえぇええ!!」
「すみません、月岡津南の新作は売り切れで」
「えぇのよ、土方歳三が手に入っただけで幸せやわぁ」
「妙さん、本当にお好きなんですね」
「うふふ、恰好えぇよなぁ、うちの宝物にするわぁ、ほんにありがとう!」
「良かった、私の分までありがとうございます」
「えぇのよぉ、夢主ちゃんも宝物にしたらえぇ」
「ふふっ、そうですね。確かに宝物です」
土方が箱館で撮ったであろう写真はこの時代、人々は見ることが出来ない。
この錦絵は土方を思い出させてくれる大切な一枚になる。記憶する姿に比べ随分逞しいが、それもご愛敬。
忘れ得ぬ本人の顔が重なって脳裏に浮かぶ。ちょっと不器用で真っ直ぐなあの人が「恰好いいだろう」と得意げに笑っているようだ。
「そういえば夢主ちゃんのいない間に薫ちゃんが来たんよ、久しぶりやったわぁ」
「薫さんが」
「お父さんがまだ帰らへん言うて落ち込んではったわ、可哀想になぁ……夢主ちゃんの旦那はんが無事なの分かっただけでも嬉しいけど、薫ちゃんのお父さんも早く帰るといいなぁ」
「はぃ……」
絵に頬ずりをしていた妙が我に返った。
気掛かりな話だ。本当にこのまま戻らないのだろうか。
薫の元へ父が戻る日はやって来ないかもしれない。仮定でも言える話ではなかった。
大切な人を失う辛さは身に染みて知っている。
思い浮かべた土方の姿が、どこか悲しそうに変わっていた。
家へ戻り、日が暮れると斎藤が帰って来る。
自分の待ち人は戦場から戻ってくれた。夜になれば顔が見られる。
今宵も仕事から帰った夫が一緒にいた。
嬉しさで顔が和らぐが、薫の話を思い出してすぐに憂えげな表情に戻ってしまった。
折角買った土方の絵を斎藤に見せようと思ったが、浮かれる気分になれず、着替える夫の傍で一人錦絵を見つめた。
「相楽さん……」
「良く知ってるねぇ!まさか売れるとは思わなかったよ」
「いえ、あの……他に月岡さんの新作はありませんか」
「あったんだけどもう売れちまったよ。月岡さんは人気だからね、唯一売れない絵になるかもしれないねぇ、この赤報隊の絵」
月岡津南は既に人気の絵師だった。
新作は午前中に売り切れたらしい。残っているのは赤報隊隊長・相楽総三の絵のみ。
今後の出会いを想定すれば、これを妙に買って行くのは宜しくないだろう。
「あの、土方歳三の絵が入ったと聞いたんですが」
「あぁこれは人気の絵だね、最後の二枚だ。あんたやっぱり運がいいよ!こっちの赤報隊はどうする」
「土方さんは二枚、赤報隊は……一枚下さい」
主人から漂う特有の煙草の臭いが近付いた。
受け取った絵には、記憶通り少年が二人描かれている。
隊長を挟むように立つ幼い左之助と月岡の姿だ。
幕末の呪いに憑りつかれたまま明治を生きる月岡、いつか左之助が目を覚まさせる日がやって来る。
夢主は相楽総三の絵を懐に隠し、土方歳三の錦絵を手に赤べこへ戻って行った。
「あぁぁかっこえぇええ!!」
「すみません、月岡津南の新作は売り切れで」
「えぇのよ、土方歳三が手に入っただけで幸せやわぁ」
「妙さん、本当にお好きなんですね」
「うふふ、恰好えぇよなぁ、うちの宝物にするわぁ、ほんにありがとう!」
「良かった、私の分までありがとうございます」
「えぇのよぉ、夢主ちゃんも宝物にしたらえぇ」
「ふふっ、そうですね。確かに宝物です」
土方が箱館で撮ったであろう写真はこの時代、人々は見ることが出来ない。
この錦絵は土方を思い出させてくれる大切な一枚になる。記憶する姿に比べ随分逞しいが、それもご愛敬。
忘れ得ぬ本人の顔が重なって脳裏に浮かぶ。ちょっと不器用で真っ直ぐなあの人が「恰好いいだろう」と得意げに笑っているようだ。
「そういえば夢主ちゃんのいない間に薫ちゃんが来たんよ、久しぶりやったわぁ」
「薫さんが」
「お父さんがまだ帰らへん言うて落ち込んではったわ、可哀想になぁ……夢主ちゃんの旦那はんが無事なの分かっただけでも嬉しいけど、薫ちゃんのお父さんも早く帰るといいなぁ」
「はぃ……」
絵に頬ずりをしていた妙が我に返った。
気掛かりな話だ。本当にこのまま戻らないのだろうか。
薫の元へ父が戻る日はやって来ないかもしれない。仮定でも言える話ではなかった。
大切な人を失う辛さは身に染みて知っている。
思い浮かべた土方の姿が、どこか悲しそうに変わっていた。
家へ戻り、日が暮れると斎藤が帰って来る。
自分の待ち人は戦場から戻ってくれた。夜になれば顔が見られる。
今宵も仕事から帰った夫が一緒にいた。
嬉しさで顔が和らぐが、薫の話を思い出してすぐに憂えげな表情に戻ってしまった。
折角買った土方の絵を斎藤に見せようと思ったが、浮かれる気分になれず、着替える夫の傍で一人錦絵を見つめた。