42.長旅
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「傷は……大丈夫ですか」
夢主が指を動かし、斎藤は被弾の瞬間を思い出した。微かに眉間に皺が出来るがそれはすぐに消えた。
そして出征前にも同じ場所に触れられた感触を思い出す。
……こいつ、全て知ってやがったのか……
喉を鳴らして笑いたくなるが、必死にすがりつく姿に悪戯心は影を潜めた。
「あぁ、もう痛みもない。そうか、軍が余計な電信を送ったな」
「余計だなんて、ずっと知りたかったんです。一さんが無事なのか、どこにいるのか……だから、入院のお知らせが嬉しかったです」
「ははっ、入院が嬉しいとはなかなか言ってくれる」
「だって!何もわからなかったから!」
「あぁ、俺が悪かったよ、本当にすまなかったな」
郵便を出す発想が戦地の己にはなかった。
余計な電信は待つ者を不安にさせると思ったが、現実は逆だった。
斎藤は無事を喜んでくれる夢主をあやすように笑い、涙を拭いながら顔に触れた。
思い出したように頬を染める夢主、ハッと顔を離した。
「あっ、あの……上野の博覧会をご存知ですか」
「博覧会?あぁ大久保卿が開催しているやつだろう、聞いてはいるが」
「一緒に行きたいです!」
「おいおい、俺は戦帰りなんだぞ」
突然の申し出を笑うが、分かったと頷いている。
急に言い出すからには何かあるのだろう。
相変わらずの唐突さを愛おしくさえ感じた。
「さて、俺はゆっくり休ませてもらえるのか」
まるでどうして欲しいと誘うような言葉で夢主は我に返った。
長い戦を終えて、更に長旅を終えて戻った夫だ。
何かを望む前にしっかり休息してもらう事が優先だ。
「もっ、もちろんです!今、温かいお食事を……お風呂も沸かしますから!」
「ククッ、順番でいいぞ。お前の声で幾らか安らいだ」
「一さん……」
「家が一番とはよく言ったもんだ。俺は動き回る性分だと思っていたが、今回はさすがに長かったな」
「……はぃ……長かったです……」
何から支度すべきか狼狽する夢主を落ち着かせた言葉には、斎藤の本音が漏れていた。
長かった。
戦い続けるにも、待たせ続けるにも長かった。
「約束、お前は守ってくれた」
「え……」
「待っていてくれたな」
離した体が引き寄せられた。
再び強く抱かれて、夢主は耳元で感謝の言葉を聞いた。
「ありがとう」
似合わない言葉、驚きで固まる夢主の瞳がまた潤み始める。
約束を守ってくれたのは一さん……そう言い返したいが、思うように唇が動いてくれない。
「ぁ……」
声が出せない唇を、熱を帯びた斎藤の唇が塞いだ。
どれほど離れていたかを忘れさせる熱。
無意識に互いの求めに応じて触れては離れを繰り返す唇と濡れた舌先。
このまま朝まで熱を与え合いたい、我を忘れそうになった二人だが、辛うじて己を保ったのは斎藤だった。
「まずは飯をいいか、それから風呂、その後……お前だ」
「っはじめさんたら……でも……」
恥ずかしそうに頷いて、夢主は思い出したように微笑んだ。
「一さんこそ、約束……守ってくれてありがとうございます。無事に帰って来てくれて……嬉しいです。ゆっくり休んでくださいね」
「あぁ。ゆっくりは出来んがな」
「ひぁ」
つつっと夢主の首筋に触れて揶揄うと、斎藤は笑いながら先に部屋へ入って行った。
一人の夜は長い幻だったのか、当たり前のように二人の声が響いている。
ゆっくり一晩を過ごした二人。
次の夜、二人は上野の提灯道を並んで歩いていた。
夢主が指を動かし、斎藤は被弾の瞬間を思い出した。微かに眉間に皺が出来るがそれはすぐに消えた。
そして出征前にも同じ場所に触れられた感触を思い出す。
……こいつ、全て知ってやがったのか……
喉を鳴らして笑いたくなるが、必死にすがりつく姿に悪戯心は影を潜めた。
「あぁ、もう痛みもない。そうか、軍が余計な電信を送ったな」
「余計だなんて、ずっと知りたかったんです。一さんが無事なのか、どこにいるのか……だから、入院のお知らせが嬉しかったです」
「ははっ、入院が嬉しいとはなかなか言ってくれる」
「だって!何もわからなかったから!」
「あぁ、俺が悪かったよ、本当にすまなかったな」
郵便を出す発想が戦地の己にはなかった。
余計な電信は待つ者を不安にさせると思ったが、現実は逆だった。
斎藤は無事を喜んでくれる夢主をあやすように笑い、涙を拭いながら顔に触れた。
思い出したように頬を染める夢主、ハッと顔を離した。
「あっ、あの……上野の博覧会をご存知ですか」
「博覧会?あぁ大久保卿が開催しているやつだろう、聞いてはいるが」
「一緒に行きたいです!」
「おいおい、俺は戦帰りなんだぞ」
突然の申し出を笑うが、分かったと頷いている。
急に言い出すからには何かあるのだろう。
相変わらずの唐突さを愛おしくさえ感じた。
「さて、俺はゆっくり休ませてもらえるのか」
まるでどうして欲しいと誘うような言葉で夢主は我に返った。
長い戦を終えて、更に長旅を終えて戻った夫だ。
何かを望む前にしっかり休息してもらう事が優先だ。
「もっ、もちろんです!今、温かいお食事を……お風呂も沸かしますから!」
「ククッ、順番でいいぞ。お前の声で幾らか安らいだ」
「一さん……」
「家が一番とはよく言ったもんだ。俺は動き回る性分だと思っていたが、今回はさすがに長かったな」
「……はぃ……長かったです……」
何から支度すべきか狼狽する夢主を落ち着かせた言葉には、斎藤の本音が漏れていた。
長かった。
戦い続けるにも、待たせ続けるにも長かった。
「約束、お前は守ってくれた」
「え……」
「待っていてくれたな」
離した体が引き寄せられた。
再び強く抱かれて、夢主は耳元で感謝の言葉を聞いた。
「ありがとう」
似合わない言葉、驚きで固まる夢主の瞳がまた潤み始める。
約束を守ってくれたのは一さん……そう言い返したいが、思うように唇が動いてくれない。
「ぁ……」
声が出せない唇を、熱を帯びた斎藤の唇が塞いだ。
どれほど離れていたかを忘れさせる熱。
無意識に互いの求めに応じて触れては離れを繰り返す唇と濡れた舌先。
このまま朝まで熱を与え合いたい、我を忘れそうになった二人だが、辛うじて己を保ったのは斎藤だった。
「まずは飯をいいか、それから風呂、その後……お前だ」
「っはじめさんたら……でも……」
恥ずかしそうに頷いて、夢主は思い出したように微笑んだ。
「一さんこそ、約束……守ってくれてありがとうございます。無事に帰って来てくれて……嬉しいです。ゆっくり休んでくださいね」
「あぁ。ゆっくりは出来んがな」
「ひぁ」
つつっと夢主の首筋に触れて揶揄うと、斎藤は笑いながら先に部屋へ入って行った。
一人の夜は長い幻だったのか、当たり前のように二人の声が響いている。
ゆっくり一晩を過ごした二人。
次の夜、二人は上野の提灯道を並んで歩いていた。