42.長旅
夢主名前設定
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政府内の争いが戦争に変わってからどれ程の月日が経っただろうか。
西郷隆盛切腹の新聞が飛ぶように売れ、薩摩軍の解散令も広まっていた。
戦争は終わりだと人々は喜んでいる。
それでも一向に戻らぬ斎藤。
一通の電信が届いて以降、警視局からの使いもない。
知らせが無いのは無事の証……日が暮れて、夢主は台所で冷めた鍋をかき混ぜながら溜め息を漏らした。
夜が斎藤の帰宅を待つだけの時間になっている。
せめて上野の博覧会が終わるまでに帰って欲しいと願っていた。
博覧会はまだふた月は続くと聞いた。終戦したのだからせめて二ヶ月の内に、それ以上は待ちたくない。
切ない想いで見つめた灯り道も、斎藤がそばにいれば温かく美しい景色に変わる。
優しい思い出として記憶に残したい。祇園祭と同じ優しい思い出として胸に抱いていきたかった。
「早く二人でご飯食べたいな……」
自分一人と分かっていても二人分の食事を用意してしまう。
大丈夫、余ったら翌日に食せば良い。
沖田に持って行ってもいい。
誰かと食べれば良い。
「でも……一さんがいいよ……」
「美味いな」と褒めてくれる声が蘇る。
二人で膳を並べる夫婦の時間。思い出した夜に目頭が熱くなる。
込み上げてきた涙が鍋に入らぬよう、そっと拭った。
鍋の中を行き来させていたお玉を置いた時、夢主は自分の耳を疑った。
久しく聞いていなかった、玄関扉を引く音が聞こえた。自分で開く音とは違う、誰かが扉を開けた音。
総司さんかもしれない、気のせいかもしれない。
自らの心を守るように言い訳をして玄関へ向かう。夢主の頬は幾筋にも濡れていた。
「ぁ……」
「よぉ、待たせたな」
「はじめ……さん……」
斎藤が立っていた。
帰りを待ち詫びた人が、少しはにかんで立っている。
変わらない澄ました笑顔、こけた頬がまた少し痩せて見える。
「お帰り……なさい……お帰りなさいっ」
「あぁ、ただいま」
柄にもない一言だ。戻ったと流すつもりが夢主の調子に巻き込まれ「ただいま」などと言ってしまった。
照れ臭ささで口元がにやけるが、それ以上に嬉しさで顔が緩んでいた。
斎藤はしがみついてきた夢主をしっかりと抱きしめてやった。
半年以上、待たせてしまった。
ひたすら淋しさと不安に耐えていただろう。
「遅くなってすまない」
自然と言葉が出ていた。
夢主は応える代わりに、必死に顔を擦りつけるよう首を振っている。
伝わる温もりと体を包んでくれる力強さが涙を止めてくれない。
優しい声は足先まで響き、夢主の全てを満たしていった。
西郷隆盛切腹の新聞が飛ぶように売れ、薩摩軍の解散令も広まっていた。
戦争は終わりだと人々は喜んでいる。
それでも一向に戻らぬ斎藤。
一通の電信が届いて以降、警視局からの使いもない。
知らせが無いのは無事の証……日が暮れて、夢主は台所で冷めた鍋をかき混ぜながら溜め息を漏らした。
夜が斎藤の帰宅を待つだけの時間になっている。
せめて上野の博覧会が終わるまでに帰って欲しいと願っていた。
博覧会はまだふた月は続くと聞いた。終戦したのだからせめて二ヶ月の内に、それ以上は待ちたくない。
切ない想いで見つめた灯り道も、斎藤がそばにいれば温かく美しい景色に変わる。
優しい思い出として記憶に残したい。祇園祭と同じ優しい思い出として胸に抱いていきたかった。
「早く二人でご飯食べたいな……」
自分一人と分かっていても二人分の食事を用意してしまう。
大丈夫、余ったら翌日に食せば良い。
沖田に持って行ってもいい。
誰かと食べれば良い。
「でも……一さんがいいよ……」
「美味いな」と褒めてくれる声が蘇る。
二人で膳を並べる夫婦の時間。思い出した夜に目頭が熱くなる。
込み上げてきた涙が鍋に入らぬよう、そっと拭った。
鍋の中を行き来させていたお玉を置いた時、夢主は自分の耳を疑った。
久しく聞いていなかった、玄関扉を引く音が聞こえた。自分で開く音とは違う、誰かが扉を開けた音。
総司さんかもしれない、気のせいかもしれない。
自らの心を守るように言い訳をして玄関へ向かう。夢主の頬は幾筋にも濡れていた。
「ぁ……」
「よぉ、待たせたな」
「はじめ……さん……」
斎藤が立っていた。
帰りを待ち詫びた人が、少しはにかんで立っている。
変わらない澄ました笑顔、こけた頬がまた少し痩せて見える。
「お帰り……なさい……お帰りなさいっ」
「あぁ、ただいま」
柄にもない一言だ。戻ったと流すつもりが夢主の調子に巻き込まれ「ただいま」などと言ってしまった。
照れ臭ささで口元がにやけるが、それ以上に嬉しさで顔が緩んでいた。
斎藤はしがみついてきた夢主をしっかりと抱きしめてやった。
半年以上、待たせてしまった。
ひたすら淋しさと不安に耐えていただろう。
「遅くなってすまない」
自然と言葉が出ていた。
夢主は応える代わりに、必死に顔を擦りつけるよう首を振っている。
伝わる温もりと体を包んでくれる力強さが涙を止めてくれない。
優しい声は足先まで響き、夢主の全てを満たしていった。