42.長旅
夢主名前設定
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「すみません、人違いです……」
男は「気を付けろ」と言い捨てて連れと姿を消した。
見ていた沖田は夢主が呼んだ名に眉根を寄せた。人ごみの中に愛しい人を探していたのか。いるはずのない斎藤一を感じてしまったのか。
悲し気な夢主の顔に沖田の表情も切なく変わっていく。
「夢主ちゃん……」
「ごめんなさい、本当にただの勘違いです。一さんがいるわけないのに……」
まるで祇園祭のよう、錯覚してしまった。
そうであったならばと望んだ故か、喧騒と幻想のはざまで体まで勘違いを起こしたのか、背中に感じた大きな存在をあの時の斎藤と勘違いしてしまった。
振り向けばあの顔が見えるのでは、抱きしめてもらえるのでは。
「一さんは……いないのに……」
帰還の知らせは届いていない。
まだ帰らない。
ここにはいない。
現実を確かめるよう静かに呟いた。明るい灯りが滲んで見える。
「夢主ちゃん……少し、歩きましょう」
「……はぃ……」
人々の笑い声の中を二人は黙って歩いた。
長く続く提灯明かりの道。
離れた地で男達の血が流れた現実が嘘のようだ。目の前の景色は楽しく華やかで、幸せな光景だった。
「総司さんはご存知ありませんでしたよね……」
「んっ」
突然の問いが何を示すのか見当もつかず、沖田はただ首を傾げた。
その様子に、淋しい目を伏せて夢主は小さく微笑んだ。淋しいのに綺麗な笑顔は見る者の胸を締め付ける。
「祇園祭……私、行ったことがあるんです。比古師匠の元にいる時……」
「比古さんと……」
夢主はゆっくり深く頷いて、同じ色をしていた祭を思い出した。
「比古師匠に連れられて行った祇園祭で、斎藤さんに会ったんです」
「えっ、御陵衛士にいた頃ですよね」
「はぃ……比古師匠には全てお見通しだったようです。行けばいると知っていて……私を連れ出してくれたんです」
「そうだったんですか……そうか、この祭の色は夢主ちゃんにとっては……申し訳ない」
「そんな、総司さんは悪くありません、謝らないでください。勝手に思い出してしまっただけで、それに祇園祭は私にとって素敵な思い出ですから」
「斎藤さんがいる時ならそうでしょうけど、今は……こんな場所へ連れてきてしまったのは僕の失策です。本当にごめんね、悲しい気持ちにさせてしまったね」
「違います、本当に……一さんがいそうって……思っただけで……勝手に、私が」
無事だと知り、前線を離れて入院したと聞いて安心した。
だがそれ以来の音信不通。それなのに何を期待してしまったのか。
「本当に、ただの錯覚です……」
思い出す同じ色の夜、あの温かで力強い抱擁を感じたい。
夢主は目を細めて雑踏の中で斎藤の存在を想った。
男は「気を付けろ」と言い捨てて連れと姿を消した。
見ていた沖田は夢主が呼んだ名に眉根を寄せた。人ごみの中に愛しい人を探していたのか。いるはずのない斎藤一を感じてしまったのか。
悲し気な夢主の顔に沖田の表情も切なく変わっていく。
「夢主ちゃん……」
「ごめんなさい、本当にただの勘違いです。一さんがいるわけないのに……」
まるで祇園祭のよう、錯覚してしまった。
そうであったならばと望んだ故か、喧騒と幻想のはざまで体まで勘違いを起こしたのか、背中に感じた大きな存在をあの時の斎藤と勘違いしてしまった。
振り向けばあの顔が見えるのでは、抱きしめてもらえるのでは。
「一さんは……いないのに……」
帰還の知らせは届いていない。
まだ帰らない。
ここにはいない。
現実を確かめるよう静かに呟いた。明るい灯りが滲んで見える。
「夢主ちゃん……少し、歩きましょう」
「……はぃ……」
人々の笑い声の中を二人は黙って歩いた。
長く続く提灯明かりの道。
離れた地で男達の血が流れた現実が嘘のようだ。目の前の景色は楽しく華やかで、幸せな光景だった。
「総司さんはご存知ありませんでしたよね……」
「んっ」
突然の問いが何を示すのか見当もつかず、沖田はただ首を傾げた。
その様子に、淋しい目を伏せて夢主は小さく微笑んだ。淋しいのに綺麗な笑顔は見る者の胸を締め付ける。
「祇園祭……私、行ったことがあるんです。比古師匠の元にいる時……」
「比古さんと……」
夢主はゆっくり深く頷いて、同じ色をしていた祭を思い出した。
「比古師匠に連れられて行った祇園祭で、斎藤さんに会ったんです」
「えっ、御陵衛士にいた頃ですよね」
「はぃ……比古師匠には全てお見通しだったようです。行けばいると知っていて……私を連れ出してくれたんです」
「そうだったんですか……そうか、この祭の色は夢主ちゃんにとっては……申し訳ない」
「そんな、総司さんは悪くありません、謝らないでください。勝手に思い出してしまっただけで、それに祇園祭は私にとって素敵な思い出ですから」
「斎藤さんがいる時ならそうでしょうけど、今は……こんな場所へ連れてきてしまったのは僕の失策です。本当にごめんね、悲しい気持ちにさせてしまったね」
「違います、本当に……一さんがいそうって……思っただけで……勝手に、私が」
無事だと知り、前線を離れて入院したと聞いて安心した。
だがそれ以来の音信不通。それなのに何を期待してしまったのか。
「本当に、ただの錯覚です……」
思い出す同じ色の夜、あの温かで力強い抱擁を感じたい。
夢主は目を細めて雑踏の中で斎藤の存在を想った。