4.上野の山
夢主名前設定
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「でも総司さん、おひとりで困っていませんか」
「ははっ、僕はこれでも下働きをしていましたからね、大体のことは出来ますから平気ですよ。今にして思えば、生きる術を与えたくて姉は僕を家から出したのでしょうね……食い扶持を減らすはもちろんですけど」
「総司さん……」
「試衛館にいた頃、引き取られた僕は食客でもなければ養子でも無いただの下働き、最初は稽古も隠れてしたものです。すぐにバレちゃいましたけどね、余りに素質があるもんだからって先生と近藤さんが……嬉しかったなぁ」
「懐かしいですね、そんな頃が」
夢主は知らない沖田の幼少期、だが懐かしく大切な時間に違いない。
語る沖田の瞳が柔らかく輝いていた。
「ははっ、懐かしいですね」
「行ってみては……いかがですか、試衛館に」
「もう道場は閉じていると思いますよ」
「でもそこに住んでいるのでは……」
「先生はもう亡くなっているし、お女将さんは僕の事が好きじゃなかったみたいですから……近藤さんを守れなかった僕が顔を見せられませんよ」
「そんな事は……総司さんが永倉さんに来れば良いと言ったように、きっとお女将さんだって……」
永倉も沖田もどうして会いたいはずの人物に会うのを拒むのか、夢主は解せないと沖田を見つめた。
沖田はごめんねと、優しさを含んだ困り顔を返した。夢主にそんな顔をさせたくは無いが、こればかりは譲れないと。
「確かにお女将さんも本音では僕を憎くは思っていないでしょう。真面目で厳しい方ですからけじめを付けたかったんだと思います。それは先生や近藤さんが亡くなった今でも同じ……それに、近藤さんを待つご妻女にも僕は合わせる顔がありません」
「それでもきっと、京でのご活躍を知りたいと思いますよ」
「そうですね……でももし会いに行けるとしても……今は無理です。僕は行きたいくないんだ」
「そうなんですね……ごめんなさい、変なことを勧めてしまって……」
「いえ、お心遣いは嬉しいですよ」
死んだ話になっている人間が会いに行くのは不味い、それだけではない沖田の気持ちがあると知り、夢主は複雑な思いだった。
死や別れを乗り越えて今ここに居る。
命ある者同士が会うのを拒んでいる現実が、とても切なかった。
この日は夕方まで沖田と共に過ごし、永倉に貰った酒を抱えて家路に着いた。
家路と言っても裏ですぐ繋がっている。沖田に見送られると、まだその姿が見えるうちに夢主は自分の家の裏口に辿り着いた。
一人になった夢主は、一日の出来事を振り返りながら夕餉の支度をし、またも完全に日が暮れてから食事を済ませた。
今日は言いつけを守ろう。
夢主は寝仕度を済ませると、布団の脇に斎藤の寝巻を置いた。
家に戻ってどう動くか分からないが、きっと一度部屋を覗いてくれるだろう。そうすれば寝巻に目が届くはず。
次に庭に目をやり、雨戸をどうするか考えた。
暗い中でも目が利く斎藤だ、完全に閉めても問題は無いだろう。
この夜は斎藤に言われた事を全て守り、雨戸を完全に閉めて先に布団に潜り込んだ。
「おやすみなさい、一さん……」
暗闇の中で主のいない文机を夫代わりに一声掛けて、目を閉じた。
一日中考えて疲れていた夢主はすぐに眠りに落ちていった。
「ははっ、僕はこれでも下働きをしていましたからね、大体のことは出来ますから平気ですよ。今にして思えば、生きる術を与えたくて姉は僕を家から出したのでしょうね……食い扶持を減らすはもちろんですけど」
「総司さん……」
「試衛館にいた頃、引き取られた僕は食客でもなければ養子でも無いただの下働き、最初は稽古も隠れてしたものです。すぐにバレちゃいましたけどね、余りに素質があるもんだからって先生と近藤さんが……嬉しかったなぁ」
「懐かしいですね、そんな頃が」
夢主は知らない沖田の幼少期、だが懐かしく大切な時間に違いない。
語る沖田の瞳が柔らかく輝いていた。
「ははっ、懐かしいですね」
「行ってみては……いかがですか、試衛館に」
「もう道場は閉じていると思いますよ」
「でもそこに住んでいるのでは……」
「先生はもう亡くなっているし、お女将さんは僕の事が好きじゃなかったみたいですから……近藤さんを守れなかった僕が顔を見せられませんよ」
「そんな事は……総司さんが永倉さんに来れば良いと言ったように、きっとお女将さんだって……」
永倉も沖田もどうして会いたいはずの人物に会うのを拒むのか、夢主は解せないと沖田を見つめた。
沖田はごめんねと、優しさを含んだ困り顔を返した。夢主にそんな顔をさせたくは無いが、こればかりは譲れないと。
「確かにお女将さんも本音では僕を憎くは思っていないでしょう。真面目で厳しい方ですからけじめを付けたかったんだと思います。それは先生や近藤さんが亡くなった今でも同じ……それに、近藤さんを待つご妻女にも僕は合わせる顔がありません」
「それでもきっと、京でのご活躍を知りたいと思いますよ」
「そうですね……でももし会いに行けるとしても……今は無理です。僕は行きたいくないんだ」
「そうなんですね……ごめんなさい、変なことを勧めてしまって……」
「いえ、お心遣いは嬉しいですよ」
死んだ話になっている人間が会いに行くのは不味い、それだけではない沖田の気持ちがあると知り、夢主は複雑な思いだった。
死や別れを乗り越えて今ここに居る。
命ある者同士が会うのを拒んでいる現実が、とても切なかった。
この日は夕方まで沖田と共に過ごし、永倉に貰った酒を抱えて家路に着いた。
家路と言っても裏ですぐ繋がっている。沖田に見送られると、まだその姿が見えるうちに夢主は自分の家の裏口に辿り着いた。
一人になった夢主は、一日の出来事を振り返りながら夕餉の支度をし、またも完全に日が暮れてから食事を済ませた。
今日は言いつけを守ろう。
夢主は寝仕度を済ませると、布団の脇に斎藤の寝巻を置いた。
家に戻ってどう動くか分からないが、きっと一度部屋を覗いてくれるだろう。そうすれば寝巻に目が届くはず。
次に庭に目をやり、雨戸をどうするか考えた。
暗い中でも目が利く斎藤だ、完全に閉めても問題は無いだろう。
この夜は斎藤に言われた事を全て守り、雨戸を完全に閉めて先に布団に潜り込んだ。
「おやすみなさい、一さん……」
暗闇の中で主のいない文机を夫代わりに一声掛けて、目を閉じた。
一日中考えて疲れていた夢主はすぐに眠りに落ちていった。