42.長旅
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
東京では終戦の記事が紙面を賑わせていた。
人々はようやく混乱が治まると喜び、戦地へ家族友人が出征した者達はその帰りが近いと喜んだ。
終戦からひと月も経つと実際に町で帰還の喜びを目にする事になる。
「いいなぁ……」
良かったと手を取り合う見知らぬ人々の再会を喜びながら、そんな羨ましさを感じるのが本音だ。
未だ戻らない斎藤を案じて心が落ち着かない日々が過ぎていく。
新聞に引き上げを知らせる記事が載るたび期待を持ち、夜更かしをして戻らぬ斎藤を待った。
斎藤の所属する部隊が分からず、記載された隊に待ち人がいるのか分からない。
夜中に玄関の扉が開くのでは、そう考えると寝ていられないのだ。
細い顔を更に細らせて帰って来るのではないか。珍しく疲れた顏を見せるかもしれない。帰ったら温かい食事と風呂で休んでほしい。
出迎える準備をして帰りを待ち望むが、この夜も斎藤は戻らなかった。
日が替わり新しく手にした新聞。
この日も九州から引き上げる部隊の記事が載っている。
「また引き上げの記事……」
今夜こそ戻ってくれるだろうか。
いつしか待ち疲れてしまった夢主は浮かない顔をしていた。
隣で新聞を覗いていた沖田は夢主に目を移し、これは良くないと気分転換の方法を考えた。
ふと別の記事に目が止まりひらめく案。夢主の好きそうな記事が載っている。
「ねぇ、上野で博覧会しているのを知っていますか」
「えっ、上野ですか」
突然の問いで夢主は頭が真っ白だ。
「博覧会……」
いつの日か妙と遊びに行った博覧会を思い出し、最近新たに聞いた話を思い出した。今も上野で催しが開かれているのだ。
以前の博覧会とは全く違う近代的な催しで、夜も人を集めて賑やかだと妙が騒いでいた。
沖田は「ほら」と新聞を指さした。
「これです、内国勧業博覧。うぅん僕も難しいことは分かりませんが、とても綺麗だそうですよ。夜になると提灯に火が入るそうです」
「提灯に……」
「気分転換、行きませんか。大盛況みたいですよ」
人ごみに紛れることで気持ちも紛れるのでは。
沖田が誘うと、夢主は疲れが見える顔で頷いた。
日が暮れて、二人が訪れた上野の内国勧業博覧会。
東照宮前から公園まで、人々の頭上を数千もの提灯が彩っている。
逢魔が時、この道を行けば何かに出会えるような、この世とあの世の繋がりを思わせる不思議な景色だ。
どこまでも途切れず続く灯り道は何かを吸い込んでしまいそうで、その先で懐かしい人に出会えそうで……立って眺めるうちに感じた、夢の中にいるような浮遊感。
周りの喧騒が遠ざかり、視界は温色の光で覆われていく。
「綺麗……」
人ごみの中で呟いた声は沖田にすら届かなかった。
橙色に輝く賑やかな通り、美しさに心を惹かれる。
だがどこか儚く見えるのはどうして……夢主は別の世界に引き込まれる心地で幻想的な景色を見つめていた。
「美しいですね、なんだか京の祭りを思い出しますよ」
「はぃ……祇園祭みたいです……あの時も人で溢れて、あちこちでぶつかって……」
「あの時?」
話す間にも通りすがりの男がぶつかって行く。小さな夢主が一、二歩よろめいた。
すぐさま沖田が夢主を守るように立つが人々が止めどなく行き来して、またも肩がぶつかる。
不安な思いで辺りを見回す夢主だが、背中に大きな体を感じて咄嗟に振り返った。
「一さっ……」
体格のいい男が怪訝な顔で夢主を見下ろしている。
人々はようやく混乱が治まると喜び、戦地へ家族友人が出征した者達はその帰りが近いと喜んだ。
終戦からひと月も経つと実際に町で帰還の喜びを目にする事になる。
「いいなぁ……」
良かったと手を取り合う見知らぬ人々の再会を喜びながら、そんな羨ましさを感じるのが本音だ。
未だ戻らない斎藤を案じて心が落ち着かない日々が過ぎていく。
新聞に引き上げを知らせる記事が載るたび期待を持ち、夜更かしをして戻らぬ斎藤を待った。
斎藤の所属する部隊が分からず、記載された隊に待ち人がいるのか分からない。
夜中に玄関の扉が開くのでは、そう考えると寝ていられないのだ。
細い顔を更に細らせて帰って来るのではないか。珍しく疲れた顏を見せるかもしれない。帰ったら温かい食事と風呂で休んでほしい。
出迎える準備をして帰りを待ち望むが、この夜も斎藤は戻らなかった。
日が替わり新しく手にした新聞。
この日も九州から引き上げる部隊の記事が載っている。
「また引き上げの記事……」
今夜こそ戻ってくれるだろうか。
いつしか待ち疲れてしまった夢主は浮かない顔をしていた。
隣で新聞を覗いていた沖田は夢主に目を移し、これは良くないと気分転換の方法を考えた。
ふと別の記事に目が止まりひらめく案。夢主の好きそうな記事が載っている。
「ねぇ、上野で博覧会しているのを知っていますか」
「えっ、上野ですか」
突然の問いで夢主は頭が真っ白だ。
「博覧会……」
いつの日か妙と遊びに行った博覧会を思い出し、最近新たに聞いた話を思い出した。今も上野で催しが開かれているのだ。
以前の博覧会とは全く違う近代的な催しで、夜も人を集めて賑やかだと妙が騒いでいた。
沖田は「ほら」と新聞を指さした。
「これです、内国勧業博覧。うぅん僕も難しいことは分かりませんが、とても綺麗だそうですよ。夜になると提灯に火が入るそうです」
「提灯に……」
「気分転換、行きませんか。大盛況みたいですよ」
人ごみに紛れることで気持ちも紛れるのでは。
沖田が誘うと、夢主は疲れが見える顔で頷いた。
日が暮れて、二人が訪れた上野の内国勧業博覧会。
東照宮前から公園まで、人々の頭上を数千もの提灯が彩っている。
逢魔が時、この道を行けば何かに出会えるような、この世とあの世の繋がりを思わせる不思議な景色だ。
どこまでも途切れず続く灯り道は何かを吸い込んでしまいそうで、その先で懐かしい人に出会えそうで……立って眺めるうちに感じた、夢の中にいるような浮遊感。
周りの喧騒が遠ざかり、視界は温色の光で覆われていく。
「綺麗……」
人ごみの中で呟いた声は沖田にすら届かなかった。
橙色に輝く賑やかな通り、美しさに心を惹かれる。
だがどこか儚く見えるのはどうして……夢主は別の世界に引き込まれる心地で幻想的な景色を見つめていた。
「美しいですね、なんだか京の祭りを思い出しますよ」
「はぃ……祇園祭みたいです……あの時も人で溢れて、あちこちでぶつかって……」
「あの時?」
話す間にも通りすがりの男がぶつかって行く。小さな夢主が一、二歩よろめいた。
すぐさま沖田が夢主を守るように立つが人々が止めどなく行き来して、またも肩がぶつかる。
不安な思いで辺りを見回す夢主だが、背中に大きな体を感じて咄嗟に振り返った。
「一さっ……」
体格のいい男が怪訝な顔で夢主を見下ろしている。