42.長旅
夢主名前設定
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「初めまして、神谷薫です。その……まさか」
うふふと嬉しそうに薫がにやけた。
仲良く歩く二人の間柄を勘違いしても仕方ない。赤べこで話した待ち人ではないと、慌てて両手を振って否定した。
「あぁっ、違いますよ!こちらは私の兄のように大切な方で、えぇっと……」
「初めまして、井上と申します。薫……さん?道着に竹刀を持ってどこに行かれるんですか」
「これは今から出稽古に……父の友人の道場でお稽古させてもらうんです」
「道場……貴方も剣術をされるんですか、これは驚きですね」
「貴方もって、井上さんもされるんですか」
腰には例の仕込み刀が差さっている。見た目は木刀だ。
帯刀は禁じられたが、武器を持ち歩きたいのなら短刀を持ち歩けばよい。
木刀を持ち歩くのは極めて珍しく、薫は不思議そうに沖田を観察した。手は空っぽ。稽古へ向かう姿でもない。
「えぇ、まぁ僕も色々と。出稽古お気をつけて」
「そうだ出稽古!ありがとうございます!行ってきます!」
走っていた自分は急いでいたのだと思い出し、薫は素早く頭を下げて元気に去って行った。
おてんばという言葉がぴったりの後ろ姿だ。
「あははっ、あの方が噂の剣術小町さんですね、聞いた事はありましたが成る程……ふぅん」
「えっ」
「噂になるだけありますね、元気で礼儀正しい人です」
「駄目ですよっ!!」
「へっ……」
「今、可愛いとか思いませんでしたか、薫さんは駄目ですからね!!」
「あの、夢主ちゃん何を……」
「薫さんだけは本当に駄目です!」
薫を見送った沖田の表情は、若くて愛らしい娘が剣術に励んでいる姿を愛おしむ顔だ。
しかし夢主は優しいその瞳を別の意味で解釈し、怒っていた。薫には出会うべき人がいる。その出会いだけは止めてはいけないと使命感を持っていた。
「薫さんは……」
「あれ、もしかしてやきもち妬いてるのかな」
「違いますっ!薫さんにはっ……とにかく駄目なんです!!」
「あははっ、何かあるんですね、分かりましたよ、安心してください。そもそも僕は年若い子は得意じゃありませんから。夢主ちゃんみたいな……」
冗談で和ませたつもりが、夢主の頬がむっと膨れていた。
どうせ私はもう若い娘じゃありません、沖田には恨めしそうな顔に見えた。
睨まれながら、その上目が可愛いですよと言いたくなり、苦笑いでごまかした。それこそ冗談か皮肉と受け取られてしまいそうだ。
「あっ、いや、そういう意味ではっ!夢主ちゃんはいつだって素敵ですよ、真剣な表情は美しいですし、ほら、それに見た目だけではなく……ねぇ、さっきから何をそんなに……参ったぁ、あはは」
ふぃっと顔を背ける夢主だが、突然大きな声が聞こえ、二人は耳を澄ました。
今さっき歩いていた通りからの声だ。
大きく張り上げる声と、がやがや騒ぐ周囲の声も聞こえてくる。
「新聞売りですね。新しい記事でしょうか」
「私、行ってきます!」
夢主は持っていた新聞の束を沖田に押し付けた。
走ってあっという間に元の通りへ出ると、すぐに人だかりが目に飛び込んできた。
大きな事件でもあったのか、新聞屋が囲まれている。
「私にも下さい!」
目の前で次々売れていく新聞。手にした者が「おぉ」と歓声を上げている。
売り手が持つ束がみるみる減っていくさまに焦るが、頑張って手を伸ばした夢主は売り切れてしまう前に刷られたての新聞を買うことが出来た。
うふふと嬉しそうに薫がにやけた。
仲良く歩く二人の間柄を勘違いしても仕方ない。赤べこで話した待ち人ではないと、慌てて両手を振って否定した。
「あぁっ、違いますよ!こちらは私の兄のように大切な方で、えぇっと……」
「初めまして、井上と申します。薫……さん?道着に竹刀を持ってどこに行かれるんですか」
「これは今から出稽古に……父の友人の道場でお稽古させてもらうんです」
「道場……貴方も剣術をされるんですか、これは驚きですね」
「貴方もって、井上さんもされるんですか」
腰には例の仕込み刀が差さっている。見た目は木刀だ。
帯刀は禁じられたが、武器を持ち歩きたいのなら短刀を持ち歩けばよい。
木刀を持ち歩くのは極めて珍しく、薫は不思議そうに沖田を観察した。手は空っぽ。稽古へ向かう姿でもない。
「えぇ、まぁ僕も色々と。出稽古お気をつけて」
「そうだ出稽古!ありがとうございます!行ってきます!」
走っていた自分は急いでいたのだと思い出し、薫は素早く頭を下げて元気に去って行った。
おてんばという言葉がぴったりの後ろ姿だ。
「あははっ、あの方が噂の剣術小町さんですね、聞いた事はありましたが成る程……ふぅん」
「えっ」
「噂になるだけありますね、元気で礼儀正しい人です」
「駄目ですよっ!!」
「へっ……」
「今、可愛いとか思いませんでしたか、薫さんは駄目ですからね!!」
「あの、夢主ちゃん何を……」
「薫さんだけは本当に駄目です!」
薫を見送った沖田の表情は、若くて愛らしい娘が剣術に励んでいる姿を愛おしむ顔だ。
しかし夢主は優しいその瞳を別の意味で解釈し、怒っていた。薫には出会うべき人がいる。その出会いだけは止めてはいけないと使命感を持っていた。
「薫さんは……」
「あれ、もしかしてやきもち妬いてるのかな」
「違いますっ!薫さんにはっ……とにかく駄目なんです!!」
「あははっ、何かあるんですね、分かりましたよ、安心してください。そもそも僕は年若い子は得意じゃありませんから。夢主ちゃんみたいな……」
冗談で和ませたつもりが、夢主の頬がむっと膨れていた。
どうせ私はもう若い娘じゃありません、沖田には恨めしそうな顔に見えた。
睨まれながら、その上目が可愛いですよと言いたくなり、苦笑いでごまかした。それこそ冗談か皮肉と受け取られてしまいそうだ。
「あっ、いや、そういう意味ではっ!夢主ちゃんはいつだって素敵ですよ、真剣な表情は美しいですし、ほら、それに見た目だけではなく……ねぇ、さっきから何をそんなに……参ったぁ、あはは」
ふぃっと顔を背ける夢主だが、突然大きな声が聞こえ、二人は耳を澄ました。
今さっき歩いていた通りからの声だ。
大きく張り上げる声と、がやがや騒ぐ周囲の声も聞こえてくる。
「新聞売りですね。新しい記事でしょうか」
「私、行ってきます!」
夢主は持っていた新聞の束を沖田に押し付けた。
走ってあっという間に元の通りへ出ると、すぐに人だかりが目に飛び込んできた。
大きな事件でもあったのか、新聞屋が囲まれている。
「私にも下さい!」
目の前で次々売れていく新聞。手にした者が「おぉ」と歓声を上げている。
売り手が持つ束がみるみる減っていくさまに焦るが、頑張って手を伸ばした夢主は売り切れてしまう前に刷られたての新聞を買うことが出来た。