1.コトハジメ
夢主名前設定
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「思い出したんですか」
「いや、気のせいだ」
……泣かすんじゃねぇぞ、……お前で良かった……
「フッ……」
頭に響いた声に目を伏せて一人笑みを溢した斎藤を、涙を湛えた夢主がそっと覗いた。
「一……さん?」
「いや、本当に何でもない。落ち着いたか、夢主」
「はぃ……私、土方さんの声が聞こえたんです。俺はお前の知っている土方歳三になれたかって……凄く哀しくて……もしそんな事を目指していたのなら……でも、土方さん、本当に凄い人でした。強くて、真っ直ぐで……優しい方でした。自信を持って、私の中の……土方歳三を越えていますって……伝えてあげたい……」
「夢主……」
夢主は頭に残る土方の言葉を口にし、土方の人生に深く関わってしまったと改めて実感した。
「大丈夫ですよ、きっと伝わっていますよ」
「……最期に、手を伸ばして……きっと私に触れてくれたんです、とても温かかったから……私、何もしてあげられなかった、その時、名前を呼ぶしか……」
「今際の際にお前に名前を呼んでもらえたなら最高だろう、喜んでるさ」
「えぇ、土方さんはきっと最期に会えただけで夢主ちゃんの気持ちを全て悟ったと思いますよ、優しい夢主ちゃんの想いを」
「一さん……総司さん……」
夢主は知らないが、二人はとっくの昔に気付いていた。土方の秘めた想い。
だからこそ最期に夢に姿を現し触れたいと望み、手を伸ばしたのだろう。
夢主の様子からして、土方は想いを本人に告げていない。
恐らくは夢主のこの先を考えての事、ならば最期に姿を見て名前を呼ばれた、それだけできっと土方は満足したはずだ。
斎藤と沖田は土方の意思に気付いて切なげに顔を見合わせた。
「夢主、鼻が赤いぞ」
「ぅっ……すみません」
堪えていた涙が再び込み上げ、今にも零れそうだ。
夢主は目尻を拭って、赤くなった鼻を手で隠した。
「泣き虫が直っていないとどうなるんだったか、覚えていないか」
斎藤はフフッと笑い、軽く牙を剥く表情をして見せた。
夢主は肩をすぼめて笑った。
「ふふっ、覚えていますよ、あの時の一さん面白かったですもん。泣き虫はきっと死ぬまで治りません……ふふっ、でもいいんです」
「えっ、泣き虫がどうかしましたか?」
覚えのない話題に沖田が首を傾げるが、斎藤は秘密だとばかりにいつもの表情を取り戻した。
夢主は嬉しそうにクスクスと笑っている。
「フンッ、なんでもないさ。それより夢主、飯、上手かったぞ」
「はっ、はい!ありがとうございます……」
思わぬ褒め言葉に顔が火照り、涙につられて赤くなっていた鼻はすっかり目立たなくなった。
しかし照れた顔を見せるのも恥ずかしい。
夢主は逃げ出そうと膳に手を掛けた。
「あの、私……お膳片付けてきますね。それに日も暮れてきたので……その、どう……しましょう」
斎藤と再会した今、二人で共に暮らすのならば今夜はどこでどう過ごすのか。
想像した夢主の顔は更に赤く染まっていった。
「フッ、顔に出てるぞ。お前、ここに沖田君と一緒に寝泊りしていたんだろう」
「はっ、はい、新しいお家探そうと思ったんですけど分からなくて……いいなと思った場所はその、旧会津藩の土地で」
夢主の言葉に斎藤はニッと口角を上げて応えた。
お前は流石だなと言いたくなる。
「そうか、お前が目をつけた土地はいい場所だな。実は会津候に土地建物を頂いた。俺の働きを認めてくださって、過ぎた賜り物だがな。今回ばかりは素直に頂戴した」
「凄い、一さん!じゃあ住む所は……」
「あぁ、もう困らなくていいぞ」
二人の会話を聞いて良かったと頷く沖田に、つと斎藤は目を合わせた。
自分は見守る立場だと一線を引いて話を聞いている。
「今度君も見に来い」
「えっ、いいんですか、だって僕は……お邪魔では……斎藤さんがよその男を家に上げるなんて思えません」
「ハハッ、俺はそこまで了見は狭くないさ。君には悔しいが夢主の事で恩がある。無下には出来まい。まぁ家の中に上げるのはもちろん俺がいる時に限るがな」
斎藤が構わないのならばと、夢主も嬉しそうに沖田の返事を待っている。
今までと同じとはいかないかもしれないけれど、大切な存在に変わりはないのだ。
「では、お言葉に甘えて。今度お伺いします」
「わぁっ、是非お待ちしています!」
「ははっ、嬉しいな。では今夜はこれで……正直まだ話し足りませんが」
「確かに時が惜しい。君が嫌でなければ」
ちらりと目で合図を見せる斎藤に沖田は顔を綻ばせて自らの膝を叩いた。
「では泊っていきますか、斎藤さんも夢主ちゃんも!」
突然の提案だが斎藤は夢主の目を見て小さく頷き、喜んだ夢主は大きく首を縦に振った。
「いや、気のせいだ」
……泣かすんじゃねぇぞ、……お前で良かった……
「フッ……」
頭に響いた声に目を伏せて一人笑みを溢した斎藤を、涙を湛えた夢主がそっと覗いた。
「一……さん?」
「いや、本当に何でもない。落ち着いたか、夢主」
「はぃ……私、土方さんの声が聞こえたんです。俺はお前の知っている土方歳三になれたかって……凄く哀しくて……もしそんな事を目指していたのなら……でも、土方さん、本当に凄い人でした。強くて、真っ直ぐで……優しい方でした。自信を持って、私の中の……土方歳三を越えていますって……伝えてあげたい……」
「夢主……」
夢主は頭に残る土方の言葉を口にし、土方の人生に深く関わってしまったと改めて実感した。
「大丈夫ですよ、きっと伝わっていますよ」
「……最期に、手を伸ばして……きっと私に触れてくれたんです、とても温かかったから……私、何もしてあげられなかった、その時、名前を呼ぶしか……」
「今際の際にお前に名前を呼んでもらえたなら最高だろう、喜んでるさ」
「えぇ、土方さんはきっと最期に会えただけで夢主ちゃんの気持ちを全て悟ったと思いますよ、優しい夢主ちゃんの想いを」
「一さん……総司さん……」
夢主は知らないが、二人はとっくの昔に気付いていた。土方の秘めた想い。
だからこそ最期に夢に姿を現し触れたいと望み、手を伸ばしたのだろう。
夢主の様子からして、土方は想いを本人に告げていない。
恐らくは夢主のこの先を考えての事、ならば最期に姿を見て名前を呼ばれた、それだけできっと土方は満足したはずだ。
斎藤と沖田は土方の意思に気付いて切なげに顔を見合わせた。
「夢主、鼻が赤いぞ」
「ぅっ……すみません」
堪えていた涙が再び込み上げ、今にも零れそうだ。
夢主は目尻を拭って、赤くなった鼻を手で隠した。
「泣き虫が直っていないとどうなるんだったか、覚えていないか」
斎藤はフフッと笑い、軽く牙を剥く表情をして見せた。
夢主は肩をすぼめて笑った。
「ふふっ、覚えていますよ、あの時の一さん面白かったですもん。泣き虫はきっと死ぬまで治りません……ふふっ、でもいいんです」
「えっ、泣き虫がどうかしましたか?」
覚えのない話題に沖田が首を傾げるが、斎藤は秘密だとばかりにいつもの表情を取り戻した。
夢主は嬉しそうにクスクスと笑っている。
「フンッ、なんでもないさ。それより夢主、飯、上手かったぞ」
「はっ、はい!ありがとうございます……」
思わぬ褒め言葉に顔が火照り、涙につられて赤くなっていた鼻はすっかり目立たなくなった。
しかし照れた顔を見せるのも恥ずかしい。
夢主は逃げ出そうと膳に手を掛けた。
「あの、私……お膳片付けてきますね。それに日も暮れてきたので……その、どう……しましょう」
斎藤と再会した今、二人で共に暮らすのならば今夜はどこでどう過ごすのか。
想像した夢主の顔は更に赤く染まっていった。
「フッ、顔に出てるぞ。お前、ここに沖田君と一緒に寝泊りしていたんだろう」
「はっ、はい、新しいお家探そうと思ったんですけど分からなくて……いいなと思った場所はその、旧会津藩の土地で」
夢主の言葉に斎藤はニッと口角を上げて応えた。
お前は流石だなと言いたくなる。
「そうか、お前が目をつけた土地はいい場所だな。実は会津候に土地建物を頂いた。俺の働きを認めてくださって、過ぎた賜り物だがな。今回ばかりは素直に頂戴した」
「凄い、一さん!じゃあ住む所は……」
「あぁ、もう困らなくていいぞ」
二人の会話を聞いて良かったと頷く沖田に、つと斎藤は目を合わせた。
自分は見守る立場だと一線を引いて話を聞いている。
「今度君も見に来い」
「えっ、いいんですか、だって僕は……お邪魔では……斎藤さんがよその男を家に上げるなんて思えません」
「ハハッ、俺はそこまで了見は狭くないさ。君には悔しいが夢主の事で恩がある。無下には出来まい。まぁ家の中に上げるのはもちろん俺がいる時に限るがな」
斎藤が構わないのならばと、夢主も嬉しそうに沖田の返事を待っている。
今までと同じとはいかないかもしれないけれど、大切な存在に変わりはないのだ。
「では、お言葉に甘えて。今度お伺いします」
「わぁっ、是非お待ちしています!」
「ははっ、嬉しいな。では今夜はこれで……正直まだ話し足りませんが」
「確かに時が惜しい。君が嫌でなければ」
ちらりと目で合図を見せる斎藤に沖田は顔を綻ばせて自らの膝を叩いた。
「では泊っていきますか、斎藤さんも夢主ちゃんも!」
突然の提案だが斎藤は夢主の目を見て小さく頷き、喜んだ夢主は大きく首を縦に振った。