40.相楽左之助
夢主名前設定
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「行っちゃった……」
一度顔を見せてくれて、それからは振り向かずに去って行った。
大人の男の後ろ姿、そんな言葉が似合う自信に満ちた背中だった。
「一さんなら大丈夫……」
夢主はすぐ家に戻り、庭の箒掛けを始めた。
自分にもすべき事はある。日々の仕事を滞りなくこなし、帰るべき場所を守る。
地面に掃いた跡が筋となり、十本、二十本と線が増えていく。
春の終わり、庭に落ち葉は無い。綺麗な庭だ。それでも夢主は庭を掃き続けた。
いつしか、土の上にぽたぽたと雨粒が落ちたような痕が出来ていた。
ひとつ、ふたつ……痕は増えていき、すぐに夢主はしゃがみこんだ。
抱えていた箒が倒れ、綺麗に出来ていた掃き筋が乱れる。
小刻みに震えていたが、やがてしゃくりあげて泣き出した。
慟哭。
堪えていた声は大きな泣き声に変わり、途切れ途切れ落ちていた涙は溢れて流れ、止まらなくなった。
……どうか無事に、どうか無事に……どうか、無事に……
夢主は泣き叫びながら同じ願いを繰り返した。
それから間もなく、異変に気付いた隣人がやって来た。
斎藤は隣家を通り抜けずに旅立ったが、沖田は先程の大声を耳にして旅立ちを知ったのだ。
元気そうな声に安心した。
てっきり落ち込んでしょげると考えていたのに、聞こえたのはいつもの声。
だが、安心しきって庭で素振りを始めた途端、違和感を覚えた。
こんな近くで虫の報せとはおかしいが、奇妙な空気を感じ様子を見に来たのだ。
裏口を出てすぐに聞こえた泣き声に慌てて敷地へ侵入した。
夢主が庭にしゃがみこみ、顔を覆って泣きじゃくっている。
そばに倒れた箒と何度も繰り返えされたと見える掃き跡で、その動揺を知った。
「夢主ちゃん」
「総司さん、総司さんっ!!」
突然現れた隣人に驚きもせず、夢主は縋りついた。
一度は呑み込んだ本音が堰を切ったように溢れ出した。
泣き声が叫び声に変わり、沖田の耳に痛いほど響く。
「……っ行って欲しくないよ、寂しっ……嫌です、怖いよ!怖いよ!一さん!一さっ……」
「あははっ、困りましたね」
しがみつく夢主の涙で沖田の胸元が濡れている。
勢いに押されこのまま押し倒されてしまいそうだ。
本音を吐き出し泣く姿がいやに愛らしい。死地へ赴いた想い人への愛情がそうさせるのか。
泣き乱れる夢主の心情を思うと胸が締め付けられるが、縋りついて泣く弱々しい姿は守ってあげたくなる。男心がくすぐられた。
「斎藤さんが帰るまで僕が一緒にいます。貴女が困った時には力になります。ねっ」
にこりと微笑む優しい姿に、夢主の慟哭が治まりを見せた。
「さぁ、少し座りましょう」
沖田は地面に座り込んでしまいそうな体を起こし、縁側まで導いた。
夢主は、ぐすんぐすんと子供のように肩を揺らしている。
一度顔を見せてくれて、それからは振り向かずに去って行った。
大人の男の後ろ姿、そんな言葉が似合う自信に満ちた背中だった。
「一さんなら大丈夫……」
夢主はすぐ家に戻り、庭の箒掛けを始めた。
自分にもすべき事はある。日々の仕事を滞りなくこなし、帰るべき場所を守る。
地面に掃いた跡が筋となり、十本、二十本と線が増えていく。
春の終わり、庭に落ち葉は無い。綺麗な庭だ。それでも夢主は庭を掃き続けた。
いつしか、土の上にぽたぽたと雨粒が落ちたような痕が出来ていた。
ひとつ、ふたつ……痕は増えていき、すぐに夢主はしゃがみこんだ。
抱えていた箒が倒れ、綺麗に出来ていた掃き筋が乱れる。
小刻みに震えていたが、やがてしゃくりあげて泣き出した。
慟哭。
堪えていた声は大きな泣き声に変わり、途切れ途切れ落ちていた涙は溢れて流れ、止まらなくなった。
……どうか無事に、どうか無事に……どうか、無事に……
夢主は泣き叫びながら同じ願いを繰り返した。
それから間もなく、異変に気付いた隣人がやって来た。
斎藤は隣家を通り抜けずに旅立ったが、沖田は先程の大声を耳にして旅立ちを知ったのだ。
元気そうな声に安心した。
てっきり落ち込んでしょげると考えていたのに、聞こえたのはいつもの声。
だが、安心しきって庭で素振りを始めた途端、違和感を覚えた。
こんな近くで虫の報せとはおかしいが、奇妙な空気を感じ様子を見に来たのだ。
裏口を出てすぐに聞こえた泣き声に慌てて敷地へ侵入した。
夢主が庭にしゃがみこみ、顔を覆って泣きじゃくっている。
そばに倒れた箒と何度も繰り返えされたと見える掃き跡で、その動揺を知った。
「夢主ちゃん」
「総司さん、総司さんっ!!」
突然現れた隣人に驚きもせず、夢主は縋りついた。
一度は呑み込んだ本音が堰を切ったように溢れ出した。
泣き声が叫び声に変わり、沖田の耳に痛いほど響く。
「……っ行って欲しくないよ、寂しっ……嫌です、怖いよ!怖いよ!一さん!一さっ……」
「あははっ、困りましたね」
しがみつく夢主の涙で沖田の胸元が濡れている。
勢いに押されこのまま押し倒されてしまいそうだ。
本音を吐き出し泣く姿がいやに愛らしい。死地へ赴いた想い人への愛情がそうさせるのか。
泣き乱れる夢主の心情を思うと胸が締め付けられるが、縋りついて泣く弱々しい姿は守ってあげたくなる。男心がくすぐられた。
「斎藤さんが帰るまで僕が一緒にいます。貴女が困った時には力になります。ねっ」
にこりと微笑む優しい姿に、夢主の慟哭が治まりを見せた。
「さぁ、少し座りましょう」
沖田は地面に座り込んでしまいそうな体を起こし、縁側まで導いた。
夢主は、ぐすんぐすんと子供のように肩を揺らしている。