4.上野の山
夢主名前設定
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「俺は皆を裏切った。帰藩なんてしちまってよ、しかも松前藩は幕府を裏切った藩だ。どの面下げて会いに行ける……だからちょうどいいのさ」
「そんな……そんなことを気にする斎藤さんじゃありません!総司さんだって……」
「戦わずして逃げた、それが俺だ。役目を負って戦から遠ざかった総司とは違う。俺はただ家老が掛けてくれた甘い言葉に乗ったんだ。脱藩したくせにな……情け無いぜ」
「そんな事は……永倉さんだって充分過ぎるほど戦ったじゃありませんか!どうしてそんな……情けなくなんかありません!会わずに行っちゃうほうが逃げじゃありませんか!」
「ははっ、厳しいな。いいんだよ、俺はあいつらの中で卑怯者として残ればいい。そんな存在だって時には必要だ」
「そんな……」
「ちょうどいいんだよ。養子の話を貰ったんだ。婿養子さ、医者の家だから食うに困らねぇし、好きな剣術を続けることも認めてくれてる」
永倉は医者の家に婿養子に入り、夢主のいた世でもその家は続いていた。
それが歴史であり、永倉にとっても良い道なのだろう。
「でも……永倉さんにもお子さんがいるじゃありませんか、連れて行ってあげないんですか、会いに行ってあげないんですか……」
「子連れじゃ新しい嫁さんがすっかり後妻扱いだ。それじゃあ悪いだろう。何より、娘にとっては父親が新選組だなんて知らないほうがいい。この明治を生きる上では邪魔でしかない」
「そんな事!」
「そんな事あるのさ」
「お子さんが綺麗になって会いに来て、後悔しても知りませんよ、失った時間は決して戻らないんですから……」
「そうだな、だがそれが俺への罰だ」
「罰なんて……お子さんこそ可哀相です、父親が生きてるって知ったら探さないはずがありません!」
「これが俺の選んだ生き方なのさ、すまねぇな……俺は松前に帰るぜ」
「永倉さん……」
それでいい、歴史通りに永倉は北海道に渡るのがいいのだろう。
そこからまた思いのまま旅人のように住まいを変える永倉、何も感じていない訳ではないのだ。
「本当に……ずるいんです、止められないじゃありませんか……」
「夢主……」
「だからどうか、お願いです……語り部になってください……」
「語り部?」
夢主は大きく頷いて涙を拭った。
永倉は逃げ出した自分に果たせる役割があるのかと、夢主の言葉に耳を傾けた。
「はい……斎藤さんは柄じゃないし、総司さんには出来ない事です。だから、永倉さんが……」
「そうだなぁ……そんな時が来ればな。俺も人に堂々と話せる時が来るかもしれないな」
「来ますよ!永倉さんは何も恥じるような事はして無いじゃありませんか!」
「しかしな……」
「逃げてなんかいません!京にいた時だって、戊辰の時だって、存分に戦ったじゃありませんか!松前に帰藩出来たのもきっと時代の流れ……だから何も恥じる事は……無いはずです」
「そうか、ありがとうよ」
情けない自分をいつも鼓舞してくれた夢主が、新時代に至っても懸命に励ましてくれた。その目から涙が落ちては、永倉も申し訳なさで苦笑いをした。
永倉が手にある祝いの酒を手渡すと、夢主は黙って受け取った。
「それから気をつけろ、御陵衛士の生き残りがこの東京にいやがる。俺も遭遇して実は危なかったんだよ、なんせ刀を持ってなかったからな」
「そうなんですか……永倉さん、油断しちゃ駄目ですよ」
「ははっ、そうだな。あいつらは法で縛れるような連中じゃないからな。お前も気をつけろ」
「行っちゃうんですか……」
「あぁ。斎藤と総司に……許されるんなら宜しくって伝えてくれ」
「もちろんです!あの……また会いに来てくださいね」
「あぁ。お前らの幸せを見届けるって約束がこんなんで悪いな。幸せに暮らせよ」
「永倉さんも……お元気で……」
夢主は中身が入った重たい瓶を両手で抱えて、立ち去る永倉が見えなくなるまで立っていた。
また一人、去って行った。
夢主は酒瓶を抱えて上野の山を出て、その足で沖田の道場へ向かった。
「そんな……そんなことを気にする斎藤さんじゃありません!総司さんだって……」
「戦わずして逃げた、それが俺だ。役目を負って戦から遠ざかった総司とは違う。俺はただ家老が掛けてくれた甘い言葉に乗ったんだ。脱藩したくせにな……情け無いぜ」
「そんな事は……永倉さんだって充分過ぎるほど戦ったじゃありませんか!どうしてそんな……情けなくなんかありません!会わずに行っちゃうほうが逃げじゃありませんか!」
「ははっ、厳しいな。いいんだよ、俺はあいつらの中で卑怯者として残ればいい。そんな存在だって時には必要だ」
「そんな……」
「ちょうどいいんだよ。養子の話を貰ったんだ。婿養子さ、医者の家だから食うに困らねぇし、好きな剣術を続けることも認めてくれてる」
永倉は医者の家に婿養子に入り、夢主のいた世でもその家は続いていた。
それが歴史であり、永倉にとっても良い道なのだろう。
「でも……永倉さんにもお子さんがいるじゃありませんか、連れて行ってあげないんですか、会いに行ってあげないんですか……」
「子連れじゃ新しい嫁さんがすっかり後妻扱いだ。それじゃあ悪いだろう。何より、娘にとっては父親が新選組だなんて知らないほうがいい。この明治を生きる上では邪魔でしかない」
「そんな事!」
「そんな事あるのさ」
「お子さんが綺麗になって会いに来て、後悔しても知りませんよ、失った時間は決して戻らないんですから……」
「そうだな、だがそれが俺への罰だ」
「罰なんて……お子さんこそ可哀相です、父親が生きてるって知ったら探さないはずがありません!」
「これが俺の選んだ生き方なのさ、すまねぇな……俺は松前に帰るぜ」
「永倉さん……」
それでいい、歴史通りに永倉は北海道に渡るのがいいのだろう。
そこからまた思いのまま旅人のように住まいを変える永倉、何も感じていない訳ではないのだ。
「本当に……ずるいんです、止められないじゃありませんか……」
「夢主……」
「だからどうか、お願いです……語り部になってください……」
「語り部?」
夢主は大きく頷いて涙を拭った。
永倉は逃げ出した自分に果たせる役割があるのかと、夢主の言葉に耳を傾けた。
「はい……斎藤さんは柄じゃないし、総司さんには出来ない事です。だから、永倉さんが……」
「そうだなぁ……そんな時が来ればな。俺も人に堂々と話せる時が来るかもしれないな」
「来ますよ!永倉さんは何も恥じるような事はして無いじゃありませんか!」
「しかしな……」
「逃げてなんかいません!京にいた時だって、戊辰の時だって、存分に戦ったじゃありませんか!松前に帰藩出来たのもきっと時代の流れ……だから何も恥じる事は……無いはずです」
「そうか、ありがとうよ」
情けない自分をいつも鼓舞してくれた夢主が、新時代に至っても懸命に励ましてくれた。その目から涙が落ちては、永倉も申し訳なさで苦笑いをした。
永倉が手にある祝いの酒を手渡すと、夢主は黙って受け取った。
「それから気をつけろ、御陵衛士の生き残りがこの東京にいやがる。俺も遭遇して実は危なかったんだよ、なんせ刀を持ってなかったからな」
「そうなんですか……永倉さん、油断しちゃ駄目ですよ」
「ははっ、そうだな。あいつらは法で縛れるような連中じゃないからな。お前も気をつけろ」
「行っちゃうんですか……」
「あぁ。斎藤と総司に……許されるんなら宜しくって伝えてくれ」
「もちろんです!あの……また会いに来てくださいね」
「あぁ。お前らの幸せを見届けるって約束がこんなんで悪いな。幸せに暮らせよ」
「永倉さんも……お元気で……」
夢主は中身が入った重たい瓶を両手で抱えて、立ち去る永倉が見えなくなるまで立っていた。
また一人、去って行った。
夢主は酒瓶を抱えて上野の山を出て、その足で沖田の道場へ向かった。