38.鳴動の時
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「抜刀斎と言った。緋村抜刀斎、あれが動いているらしい」
「動いているとは、奴が騒乱を引き起こしているのか」
嫌でも言葉に力が入る。
鳥羽伏見を最後に姿を消した男。散々幕末の世を掻き回しておきながら、自らは何処かへ消え去ってしまった。
責任を放り出した奴に多少なりと腹が立っている。勝負の決着も望むところだ。
もう一度世の中を引っ掻き回そうというのなら、許せはしまい。
「いいや、その反対だ。騒乱が起きた地で度々目撃されておるのだ。赤い髪に左頬を隠した男」
「左頬を隠した男だと」
「十字傷を隠しているのだろう。反乱軍が騒ぎを起こした付近で住民が助けられているようだ。狼藉を働く者がいると兵士が呼ばれ、駆けつけると浪士崩れの反乱軍が、どいつも気を失って倒れていたそうだ」
「気を失って」
「そうだ。倒れた者達には刀の峰で打たれたような痣があった。そのような事件がいくつも起きている。みんな揃って証言しているのが『単身痩躯な赤毛の男、一瞬で男達を倒してしまった』と」
「単身痩躯、赤毛、神速……」
抑えていた興奮が全身を駆け巡った。落ち着いていた肌が再びざわめいている。
間違いなく人斬り抜刀斎が現れたのだ。
「だが相手は悪党、何故殺さん。あの男ならば簡単だろう」
「分からん。だが騒乱が起きれば彼は現れる。どうか今度の戦場で、彼を探してはくれんか」
「見つけてどうする」
「連れて帰って欲しい」
「何だと」
「聞け、斎藤!」
斎藤が反発すると、すかさず川路が割って入った。
山縣卿の願いは政府の方針なのだ。
「奴の力が必要だ。お前にも分かるだろう、斎藤!あの男は好きで人を斬っていた訳じゃない。信念の為に刀を振るった。今の時代、奴はきっと正しい道を選ぶはずだ」
「そうでなければどうする」
「その時は構わん」
「だが勝手に殺すことは許さんぞ!」
山縣卿の静かな返答で、斎藤の顔に薄ら笑いが浮かび、またも川路が言葉を荒げて割り込んだ。
なんだかんだで川路が斎藤を一番うまく扱っている。一番の任務に支障をきたさない程度に飴を与え、結果を約束させる。
「そもそも腕は互角であろう、戦場でお前達のような手練れが暴れれば周りへの被害も必須だ。必ず連れて戻れ!いいな!」
「見つかったらな」
飛び交う弾丸を気にしながら人捜しをする。
過酷な任務だが、斎藤には最高の命令だった。
「言っておくがこれは極秘任務だ。絶対に口外するな。抜刀斎が出現している話もだぞ」
「分かったよ、横取りは御免だからな」
そう言って素直に応じ、部屋をあとにした。
必要以上に重たい扉は見た目に反し、音も無く閉じられた。
「動いているとは、奴が騒乱を引き起こしているのか」
嫌でも言葉に力が入る。
鳥羽伏見を最後に姿を消した男。散々幕末の世を掻き回しておきながら、自らは何処かへ消え去ってしまった。
責任を放り出した奴に多少なりと腹が立っている。勝負の決着も望むところだ。
もう一度世の中を引っ掻き回そうというのなら、許せはしまい。
「いいや、その反対だ。騒乱が起きた地で度々目撃されておるのだ。赤い髪に左頬を隠した男」
「左頬を隠した男だと」
「十字傷を隠しているのだろう。反乱軍が騒ぎを起こした付近で住民が助けられているようだ。狼藉を働く者がいると兵士が呼ばれ、駆けつけると浪士崩れの反乱軍が、どいつも気を失って倒れていたそうだ」
「気を失って」
「そうだ。倒れた者達には刀の峰で打たれたような痣があった。そのような事件がいくつも起きている。みんな揃って証言しているのが『単身痩躯な赤毛の男、一瞬で男達を倒してしまった』と」
「単身痩躯、赤毛、神速……」
抑えていた興奮が全身を駆け巡った。落ち着いていた肌が再びざわめいている。
間違いなく人斬り抜刀斎が現れたのだ。
「だが相手は悪党、何故殺さん。あの男ならば簡単だろう」
「分からん。だが騒乱が起きれば彼は現れる。どうか今度の戦場で、彼を探してはくれんか」
「見つけてどうする」
「連れて帰って欲しい」
「何だと」
「聞け、斎藤!」
斎藤が反発すると、すかさず川路が割って入った。
山縣卿の願いは政府の方針なのだ。
「奴の力が必要だ。お前にも分かるだろう、斎藤!あの男は好きで人を斬っていた訳じゃない。信念の為に刀を振るった。今の時代、奴はきっと正しい道を選ぶはずだ」
「そうでなければどうする」
「その時は構わん」
「だが勝手に殺すことは許さんぞ!」
山縣卿の静かな返答で、斎藤の顔に薄ら笑いが浮かび、またも川路が言葉を荒げて割り込んだ。
なんだかんだで川路が斎藤を一番うまく扱っている。一番の任務に支障をきたさない程度に飴を与え、結果を約束させる。
「そもそも腕は互角であろう、戦場でお前達のような手練れが暴れれば周りへの被害も必須だ。必ず連れて戻れ!いいな!」
「見つかったらな」
飛び交う弾丸を気にしながら人捜しをする。
過酷な任務だが、斎藤には最高の命令だった。
「言っておくがこれは極秘任務だ。絶対に口外するな。抜刀斎が出現している話もだぞ」
「分かったよ、横取りは御免だからな」
そう言って素直に応じ、部屋をあとにした。
必要以上に重たい扉は見た目に反し、音も無く閉じられた。