38.鳴動の時
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夢主が神谷家を案内されて様々な話を聞いている頃、斎藤は山縣卿に呼び出されていた。
直属の上司・川路も同席している。
「陸軍卿ともあろうお方が俺になんの用で」
「こら斎藤!口を慎まんか」
「構わん……久しぶりだな、斎藤一。今の名は藤田五郎か」
訊ねられた斎藤は反応を見せず、ただ真っすぐ視線をぶつけて続きを待った。
山縣卿は川路より年若いはずだが、額には深い皺が刻まれ、頬もこけている。明治に入り辛苦しているのか。
太く整えた髭だけは黒々として、川路より若いことを表していた。
そんな苦労が滲む顔を見るうちに、斎藤は以前、山縣卿の屋敷前にいた不審な男達を思い出した。
男達は結局狙いを岩倉卿に変え、現場に居合わせた斎藤が事態を解決した。
あの時、一瞬だが己も屋敷の中へ刃を向けんとした。黒い噂が立ち、力ある者から者へと二心を持ち、ふらふらだらしない政治家にも見えた。
実際に会い、見えている眼は少し迷いが見られるが、くすんではいない。
自らの政治に自信がないのか……斎藤はそう踏んだ。
「薩摩で若者達が暴走しているのは知っているだろう」
「あぁ」
「話し合いや工作で抑えられぬ所まで来てしまってな」
山縣卿は川路と目を合わせ、川路が大きく頷くのを見て話を続けた。
ただならぬ空気を感じる。斎藤は俄かに期待に包まれていった。
「討伐が決まった」
「そうですか」
予想通りだ。内乱が起きる、誰もが予想していた。
こんな事で気を乱すなど下らない。だが斎藤の肌は微かに粟立った。
「川路君に陸軍少将としてある部隊を率いてもらう」
「勿体ぶった言い方だな。何を企んでいる」
前置きはいいから本題を伝えろ。
斎藤は落ち着き払った声で言い、鋭い目で相手を捉えて剣気をぶつけた。
「相変わらずだな、いい剣気だ。川路君に率いてもらうのは警視局から選抜された強者、つまり警官による抜刀隊だ」
警官が戦場へ。
国民の生活と安全を守る仕事、ならば内乱への介入も当然。斎藤は黙って睨み続けた。
「君には小隊半隊長になってもらう」
「小隊半隊長」
「そうだ。戦況により変わるがおおよそ十名から五十名を率いると考えてくれ。君が得意な人数だろう」
ククッ……喉が鳴りそうになり、斎藤は口を引き締めた。
新選組で三番隊を率いた頃、戊辰戦争で急襲の際に指揮した隊士達と似たような人数。それがお前の得意だと言われ、懐かしさのような可笑しさを感じた。
「承知しました。遠征はいつ頃で」
「逸るな、戦局を見極めねばならん。今暫くは東京で待機だ。安心しろ、家族がいることは知っている。前もって知らせるさ」
「お心遣い感謝いたします」
命を預けて戦場に行く軍の長は分別ある男のようだ。斎藤は従うに値すると頷いた。
話は以上か、山縣卿と川路の顔を確認するが終わりではないらしい。
何か言い辛い任務を与えたいと見える。
「遠慮はいらん。なんだ。西郷の暗殺か」
「違う」
物騒なことを言うな、川路が咄嗟に否定する間に、山縣卿は意を決する為の大きな呼吸をした。
「抜刀斎を捜して欲しい」
「なっ……何と言った」
細い目が珍しく見開かれた。
随分長いこと耳にしていなかった名だ。聞き間違いか、何を言っている。
斎藤は自分の耳と山縣卿の言葉を疑った。
直属の上司・川路も同席している。
「陸軍卿ともあろうお方が俺になんの用で」
「こら斎藤!口を慎まんか」
「構わん……久しぶりだな、斎藤一。今の名は藤田五郎か」
訊ねられた斎藤は反応を見せず、ただ真っすぐ視線をぶつけて続きを待った。
山縣卿は川路より年若いはずだが、額には深い皺が刻まれ、頬もこけている。明治に入り辛苦しているのか。
太く整えた髭だけは黒々として、川路より若いことを表していた。
そんな苦労が滲む顔を見るうちに、斎藤は以前、山縣卿の屋敷前にいた不審な男達を思い出した。
男達は結局狙いを岩倉卿に変え、現場に居合わせた斎藤が事態を解決した。
あの時、一瞬だが己も屋敷の中へ刃を向けんとした。黒い噂が立ち、力ある者から者へと二心を持ち、ふらふらだらしない政治家にも見えた。
実際に会い、見えている眼は少し迷いが見られるが、くすんではいない。
自らの政治に自信がないのか……斎藤はそう踏んだ。
「薩摩で若者達が暴走しているのは知っているだろう」
「あぁ」
「話し合いや工作で抑えられぬ所まで来てしまってな」
山縣卿は川路と目を合わせ、川路が大きく頷くのを見て話を続けた。
ただならぬ空気を感じる。斎藤は俄かに期待に包まれていった。
「討伐が決まった」
「そうですか」
予想通りだ。内乱が起きる、誰もが予想していた。
こんな事で気を乱すなど下らない。だが斎藤の肌は微かに粟立った。
「川路君に陸軍少将としてある部隊を率いてもらう」
「勿体ぶった言い方だな。何を企んでいる」
前置きはいいから本題を伝えろ。
斎藤は落ち着き払った声で言い、鋭い目で相手を捉えて剣気をぶつけた。
「相変わらずだな、いい剣気だ。川路君に率いてもらうのは警視局から選抜された強者、つまり警官による抜刀隊だ」
警官が戦場へ。
国民の生活と安全を守る仕事、ならば内乱への介入も当然。斎藤は黙って睨み続けた。
「君には小隊半隊長になってもらう」
「小隊半隊長」
「そうだ。戦況により変わるがおおよそ十名から五十名を率いると考えてくれ。君が得意な人数だろう」
ククッ……喉が鳴りそうになり、斎藤は口を引き締めた。
新選組で三番隊を率いた頃、戊辰戦争で急襲の際に指揮した隊士達と似たような人数。それがお前の得意だと言われ、懐かしさのような可笑しさを感じた。
「承知しました。遠征はいつ頃で」
「逸るな、戦局を見極めねばならん。今暫くは東京で待機だ。安心しろ、家族がいることは知っている。前もって知らせるさ」
「お心遣い感謝いたします」
命を預けて戦場に行く軍の長は分別ある男のようだ。斎藤は従うに値すると頷いた。
話は以上か、山縣卿と川路の顔を確認するが終わりではないらしい。
何か言い辛い任務を与えたいと見える。
「遠慮はいらん。なんだ。西郷の暗殺か」
「違う」
物騒なことを言うな、川路が咄嗟に否定する間に、山縣卿は意を決する為の大きな呼吸をした。
「抜刀斎を捜して欲しい」
「なっ……何と言った」
細い目が珍しく見開かれた。
随分長いこと耳にしていなかった名だ。聞き間違いか、何を言っている。
斎藤は自分の耳と山縣卿の言葉を疑った。