36.慰霊碑のそばで
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東京と京都を結ぶ東海道。
古くから旅人が行きかうその街道から外れた山奥の崖で、辺りの山々を見下ろす二人の男がいた。
馬上にいるのは志々雄真実、そばに付き添うのは瀬田宗次郎。
崖の上にもかかわらず風が止んでおり、志々雄の包帯は静かに垂れていた。
辺り一帯を調べて戻った宗次郎は息も切らさず、澄んだ声で山間の村々の様子を報告している。
「どこも似たようなものです、小さな村が点在しています」
「俺が調べろと言ったものはどうだ」
「あははっ、温泉ですか、ありましたよ」
「笑ってねぇで続けろ。温泉は俺の肌に効くんだよ」
「ははっ、分かりましたよ!志々雄さんはせっかちだなぁ。えぇと、この辺は昔から温泉が沸くそうで、どの村の近くにも温泉はあります。ただ村内となると限られます。それから方治さんが探せと言っていた……」
「木材だな。アジトを築くのに木は欠かせねぇ」
「それです、林!」
「鉄材は今は手配させるしかねぇが、木材は調達出来る。各地に拠点があって損はねぇ。既存の建物をアジトにするだけでは足りねぇからな。使わなくても木は売れる」
「いい村があります。立派な山を持って管理してるようで、温泉を備えた見事な屋敷もありました」
「どこだ」
「新月村です」
志々雄は満足そうに宗次郎を見た。こいつは誰よりも信頼でき、使える男だ。
人目に触れず探索活動をし、目撃されてもその容姿から怪しまれることもない。
「流石だな宗次郎。その新月村とやらに決まりだ。ここから近いか」
「宿場から宿場まで、それくらいの距離があります。割りと東京に近いですけど、大丈夫ですか」
「全国へ派遣される東京の警視庁の巡査達もことごとく騒乱の対応で出払っている。そう簡単には来ねぇさ」
「へぇ~、よくご存知ですね」
「熊本県の神風連の乱、こいつは早々におさまっちまったが福岡県の秋月の乱と山口県の萩の乱。これは未だ続いている。方治の野郎が上手くけしかけやがった」
「方治さんやるなぁ、凄い人ですね」
「あぁ。あいつが来てから物事が回り出したな」
佐渡島方治は自らの手で志々雄の元へ辿り着いた、珍しい出会いをした臣下だ。
法務省で役人の責務を果たしていたが、山城屋の自殺に疑問を抱き、役所を辞めてまで真実を追い求めた。
そして辿り着いたのが志々雄真実、方治が真に尽くすべき相手と認めた男。
恐ろしいまでの地道で真面目な実務能力を買われ、志々雄の仲間に加わった。
方治は水を得た魚のように、国盗り実現の為、日本中を飛び回っている。
宗次郎や他の配下の者が持ち帰った情報をもとに火種を巻く。時が来れば政府高官の暗殺を行うつもりだ。
古くから旅人が行きかうその街道から外れた山奥の崖で、辺りの山々を見下ろす二人の男がいた。
馬上にいるのは志々雄真実、そばに付き添うのは瀬田宗次郎。
崖の上にもかかわらず風が止んでおり、志々雄の包帯は静かに垂れていた。
辺り一帯を調べて戻った宗次郎は息も切らさず、澄んだ声で山間の村々の様子を報告している。
「どこも似たようなものです、小さな村が点在しています」
「俺が調べろと言ったものはどうだ」
「あははっ、温泉ですか、ありましたよ」
「笑ってねぇで続けろ。温泉は俺の肌に効くんだよ」
「ははっ、分かりましたよ!志々雄さんはせっかちだなぁ。えぇと、この辺は昔から温泉が沸くそうで、どの村の近くにも温泉はあります。ただ村内となると限られます。それから方治さんが探せと言っていた……」
「木材だな。アジトを築くのに木は欠かせねぇ」
「それです、林!」
「鉄材は今は手配させるしかねぇが、木材は調達出来る。各地に拠点があって損はねぇ。既存の建物をアジトにするだけでは足りねぇからな。使わなくても木は売れる」
「いい村があります。立派な山を持って管理してるようで、温泉を備えた見事な屋敷もありました」
「どこだ」
「新月村です」
志々雄は満足そうに宗次郎を見た。こいつは誰よりも信頼でき、使える男だ。
人目に触れず探索活動をし、目撃されてもその容姿から怪しまれることもない。
「流石だな宗次郎。その新月村とやらに決まりだ。ここから近いか」
「宿場から宿場まで、それくらいの距離があります。割りと東京に近いですけど、大丈夫ですか」
「全国へ派遣される東京の警視庁の巡査達もことごとく騒乱の対応で出払っている。そう簡単には来ねぇさ」
「へぇ~、よくご存知ですね」
「熊本県の神風連の乱、こいつは早々におさまっちまったが福岡県の秋月の乱と山口県の萩の乱。これは未だ続いている。方治の野郎が上手くけしかけやがった」
「方治さんやるなぁ、凄い人ですね」
「あぁ。あいつが来てから物事が回り出したな」
佐渡島方治は自らの手で志々雄の元へ辿り着いた、珍しい出会いをした臣下だ。
法務省で役人の責務を果たしていたが、山城屋の自殺に疑問を抱き、役所を辞めてまで真実を追い求めた。
そして辿り着いたのが志々雄真実、方治が真に尽くすべき相手と認めた男。
恐ろしいまでの地道で真面目な実務能力を買われ、志々雄の仲間に加わった。
方治は水を得た魚のように、国盗り実現の為、日本中を飛び回っている。
宗次郎や他の配下の者が持ち帰った情報をもとに火種を巻く。時が来れば政府高官の暗殺を行うつもりだ。