4.上野の山
夢主名前設定
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戊辰戦争の折に起きた上野での戦。
彰義隊が最後に立て籠った上野の寛永寺はほとんどが焼失しており、建物が残っていても戦の痕が色濃く残るだろう。
斎藤は自分達と同じく、最後まで義を貫いた男達に思いを馳せていた。
「だから、お酒なんですね……」
「そうだ。好きだったからな、原田さんは」
「そうですね、一緒に呑んだことを思い出します……」
「そうだな……」
夢主も一度、共に酒を楽しんだことがある。
斎藤が自分はと思い返せば数えきれない程、様々な場所で酒を共にした。ただただ楽しく呑んだ夜もあれば、隊務に関する酒の席も少なくなかった。
……戦で命を落とす者がいるのは極めて当前……それがたまたま、隊の仲間だった男……それだけだ……
「一さん」
んっ……、己の記憶に入り込んでいた斎藤は、名を呼ばれ我に返った。
見ると、自分の上着を抱えて歩く夢主は、淋しい場所につられたのかどこか儚く笑んでいる。
「ありがとうございます。連れて来て下さって……こんな、大事な場所に……」
「フッ。大事な場所、か」
二人は戦いの傷が今も残る場所に辿り着き、足を止めた。
周りの土が黒く見えるのは気のせいだろうか。もしかしたら焼けた跡か、命を落とした者が遺した血の痕かもしれない。
そんな黒ずんだ景色の中で、幾つかの井戸の跡だけがしっかりと残っていた。
斎藤は辺りを見回し、彰義隊が最後に立て篭もった寛永寺本堂跡を見つけ、焼け落ちた柱の前で立ち止まった。
前から背後から攻撃を受け、僅かな者だけが逃げ延び、残る殆どの者が命を落とした場所だ。
斎藤はおもむろに酒瓶の蓋に手を掛けキュッと鳴らし、ポンと心地よい音を響かせて蓋を外した。懐かしい音に、激しい最期を迎えた男達も喜んでいるだろうか。
斎藤は本堂の跡に、とぷとぷと音を立てながら酒を掛け始めた。
その姿を見て、夢主は目を閉じて手を合わせた。
暫くの間、戦に散った者達への祈りを捧げ、原田との想い出に浸った。
分厚くて温かい腹にしがみ付いた時に感じた原田の体温、はっきりと残っていた腹斬りの痕、妙にくすぐったがりだったのも覚えている。
原田が所帯を持ってからは屯所で共に過ごす時間は減ったが、それでも見守ってくれていた。
抱かせてもらった原田の愛児の柔らかくて小さかった温もり。思い浮かぶ出来事一つ一つに目頭が熱くなる。
しかし閉じた瞳に涙が溜まる前に、斎藤の静かな声が夢主の瞳を開かせた。
「これからも俺は新しいこの国の行く末に目を光らせますから、あんた達はゆっくり休むといい」
「一さん……」
酒を掛け終えた斎藤は朽ちた空間に語りかけ、終わるとゆっくり振り向いた。
珍しい姿を見せたなと、夢主にはにかんで見せた。
「フッ……柄にも無いな。嘆こうが怒ろうが意味は無い。俺が出来ることは、生きてこの今の日本を守ることだけだ。もちろん、お前の居場所もな」
「はい……」
笑顔で応じて見上げる夢主の潤んだ眼差しに、斎藤は手を伸ばして目尻に触れた。
そして不意に何かに気付いたように、フッと笑って手を離すと自らの腰に手を置いた。
辺りを見回し戦いの跡を目に焼き付けている。
「こんな所でいちゃついたら、化けて出てきそうだな」
「原田さんなら出てきて欲しいですよ」
「ははっ、確かに原田さんだけなら俺も構わんが。家について来られても困っちまうぞ」
「ふふっ、そうしたら総司さんの道場に行ってもらいましょう、そうすれば総司さんも原田さんも互いに淋しくありませんよ」
「ククッ、そいつはとんだ食客だぜ」
そうやって一人二人と懐かしい顔が戻ってきたら、どれだけ楽しいか。
斎藤は似合わない考えを自嘲した。
彰義隊が最後に立て籠った上野の寛永寺はほとんどが焼失しており、建物が残っていても戦の痕が色濃く残るだろう。
斎藤は自分達と同じく、最後まで義を貫いた男達に思いを馳せていた。
「だから、お酒なんですね……」
「そうだ。好きだったからな、原田さんは」
「そうですね、一緒に呑んだことを思い出します……」
「そうだな……」
夢主も一度、共に酒を楽しんだことがある。
斎藤が自分はと思い返せば数えきれない程、様々な場所で酒を共にした。ただただ楽しく呑んだ夜もあれば、隊務に関する酒の席も少なくなかった。
……戦で命を落とす者がいるのは極めて当前……それがたまたま、隊の仲間だった男……それだけだ……
「一さん」
んっ……、己の記憶に入り込んでいた斎藤は、名を呼ばれ我に返った。
見ると、自分の上着を抱えて歩く夢主は、淋しい場所につられたのかどこか儚く笑んでいる。
「ありがとうございます。連れて来て下さって……こんな、大事な場所に……」
「フッ。大事な場所、か」
二人は戦いの傷が今も残る場所に辿り着き、足を止めた。
周りの土が黒く見えるのは気のせいだろうか。もしかしたら焼けた跡か、命を落とした者が遺した血の痕かもしれない。
そんな黒ずんだ景色の中で、幾つかの井戸の跡だけがしっかりと残っていた。
斎藤は辺りを見回し、彰義隊が最後に立て篭もった寛永寺本堂跡を見つけ、焼け落ちた柱の前で立ち止まった。
前から背後から攻撃を受け、僅かな者だけが逃げ延び、残る殆どの者が命を落とした場所だ。
斎藤はおもむろに酒瓶の蓋に手を掛けキュッと鳴らし、ポンと心地よい音を響かせて蓋を外した。懐かしい音に、激しい最期を迎えた男達も喜んでいるだろうか。
斎藤は本堂の跡に、とぷとぷと音を立てながら酒を掛け始めた。
その姿を見て、夢主は目を閉じて手を合わせた。
暫くの間、戦に散った者達への祈りを捧げ、原田との想い出に浸った。
分厚くて温かい腹にしがみ付いた時に感じた原田の体温、はっきりと残っていた腹斬りの痕、妙にくすぐったがりだったのも覚えている。
原田が所帯を持ってからは屯所で共に過ごす時間は減ったが、それでも見守ってくれていた。
抱かせてもらった原田の愛児の柔らかくて小さかった温もり。思い浮かぶ出来事一つ一つに目頭が熱くなる。
しかし閉じた瞳に涙が溜まる前に、斎藤の静かな声が夢主の瞳を開かせた。
「これからも俺は新しいこの国の行く末に目を光らせますから、あんた達はゆっくり休むといい」
「一さん……」
酒を掛け終えた斎藤は朽ちた空間に語りかけ、終わるとゆっくり振り向いた。
珍しい姿を見せたなと、夢主にはにかんで見せた。
「フッ……柄にも無いな。嘆こうが怒ろうが意味は無い。俺が出来ることは、生きてこの今の日本を守ることだけだ。もちろん、お前の居場所もな」
「はい……」
笑顔で応じて見上げる夢主の潤んだ眼差しに、斎藤は手を伸ばして目尻に触れた。
そして不意に何かに気付いたように、フッと笑って手を離すと自らの腰に手を置いた。
辺りを見回し戦いの跡を目に焼き付けている。
「こんな所でいちゃついたら、化けて出てきそうだな」
「原田さんなら出てきて欲しいですよ」
「ははっ、確かに原田さんだけなら俺も構わんが。家について来られても困っちまうぞ」
「ふふっ、そうしたら総司さんの道場に行ってもらいましょう、そうすれば総司さんも原田さんも互いに淋しくありませんよ」
「ククッ、そいつはとんだ食客だぜ」
そうやって一人二人と懐かしい顔が戻ってきたら、どれだけ楽しいか。
斎藤は似合わない考えを自嘲した。