36.慰霊碑のそばで
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「やれやれ、野犬にも困ったものだな」
「そうですね、普通の人ならどうなっていたか。考えものですよ」
黙って進んでいた二人がようやく口を開いた。
逃げた犬達を放っておけば被害が出るだろう。なんとかせねばならんな。斎藤は警官として対策の必要性を感じた。
野犬の出没地域を特定して巡査隊を派遣するか。あの現場の始末も必要だ。最寄りの警察署に連絡を入れなければ。
「もう目を開けてもいいぞ」
それよりまずは、こいつだな……斎藤は怯えている夢主に優しく声をかけた。
「はぃ……あの、野犬は……」
「退治した。大丈夫だ」
夢主は斎藤に抱えられたままゆっくり目を開いた。
辺りの景色が変わっている。抱きかかえられている恥ずかしさと、先程の恐怖から心臓が激しく脈打っている。
その鼓動を感じ取った斎藤は、安心しろと言わんばかりに口元を緩めて見せた。
そっと体を下ろせば、地面に足を付けるなり頼りない瞳を向けてくる。
連れがいるから口吸いもできんなと、仕方なしに頭に手を置き、何度かそっと撫でてやった。
温かい慰めに心が緩んだ夢主の顔に柔らかい微笑みが戻ってきた。
夢主から提灯を預かっていた沖田、これはお邪魔虫だったなと気付いた。どうぞどうぞお気になさらずと去る訳にもいかず、道の先を見据えて二人を促した。
「さぁ、行きましょうか!」
「あぁ。提灯の火が消える前にもう少し進むぞ」
何が起きたか知りたかったが、斎藤も沖田も詳しく説明する気はなく、口を閉ざすうちに夢主は聞く機会を失ってしまった。
頭に野犬達の声だけが残っている。どうにか打ち消そうと必死に歩いた。
恐ろしい唸り声や咆哮が蘇るたびに頭を振って振り払おうとし、気付いた斎藤はそのつど頭にぽんと手を添えた。
ハッと我に返って顔を上げる夢主がそのたびに頬を染めるので、付き添う沖田は苦笑いだ。
「あてられちゃうなぁ、ははっ」
「えっ、あの」
「あははっ、気にしないでください。それから、もう何も出てきませんよ」
「フン、まぁその通りだな。行くぞ」
斎藤と沖田は今まで以上に聞き耳を立て、気配を探って歩いている。
逃げた野犬はもう襲って来ないだろう。別の獣や夜盗は近付く前に殺気で追い払える。
土の道を踏みしめる音に、提灯が揺れる小さな音が重なった。
夢主は地面を照らす丸い明かりを追いかけるように進んでいった。
場所を把握しているのか、先導する斎藤に迷いはない。時折顔を後ろに向けて夢主の様子を確かめている。
何度か休憩を挟んで歩くこと数時間、不意に斎藤が立ち止まり、大きく頷いた。
「ここが……」
「新選組の慰霊碑だ」
ここだと言われた先を提灯で照らすと、ぼんやり細長い碑が浮かび上がって来た。
「そうですね、普通の人ならどうなっていたか。考えものですよ」
黙って進んでいた二人がようやく口を開いた。
逃げた犬達を放っておけば被害が出るだろう。なんとかせねばならんな。斎藤は警官として対策の必要性を感じた。
野犬の出没地域を特定して巡査隊を派遣するか。あの現場の始末も必要だ。最寄りの警察署に連絡を入れなければ。
「もう目を開けてもいいぞ」
それよりまずは、こいつだな……斎藤は怯えている夢主に優しく声をかけた。
「はぃ……あの、野犬は……」
「退治した。大丈夫だ」
夢主は斎藤に抱えられたままゆっくり目を開いた。
辺りの景色が変わっている。抱きかかえられている恥ずかしさと、先程の恐怖から心臓が激しく脈打っている。
その鼓動を感じ取った斎藤は、安心しろと言わんばかりに口元を緩めて見せた。
そっと体を下ろせば、地面に足を付けるなり頼りない瞳を向けてくる。
連れがいるから口吸いもできんなと、仕方なしに頭に手を置き、何度かそっと撫でてやった。
温かい慰めに心が緩んだ夢主の顔に柔らかい微笑みが戻ってきた。
夢主から提灯を預かっていた沖田、これはお邪魔虫だったなと気付いた。どうぞどうぞお気になさらずと去る訳にもいかず、道の先を見据えて二人を促した。
「さぁ、行きましょうか!」
「あぁ。提灯の火が消える前にもう少し進むぞ」
何が起きたか知りたかったが、斎藤も沖田も詳しく説明する気はなく、口を閉ざすうちに夢主は聞く機会を失ってしまった。
頭に野犬達の声だけが残っている。どうにか打ち消そうと必死に歩いた。
恐ろしい唸り声や咆哮が蘇るたびに頭を振って振り払おうとし、気付いた斎藤はそのつど頭にぽんと手を添えた。
ハッと我に返って顔を上げる夢主がそのたびに頬を染めるので、付き添う沖田は苦笑いだ。
「あてられちゃうなぁ、ははっ」
「えっ、あの」
「あははっ、気にしないでください。それから、もう何も出てきませんよ」
「フン、まぁその通りだな。行くぞ」
斎藤と沖田は今まで以上に聞き耳を立て、気配を探って歩いている。
逃げた野犬はもう襲って来ないだろう。別の獣や夜盗は近付く前に殺気で追い払える。
土の道を踏みしめる音に、提灯が揺れる小さな音が重なった。
夢主は地面を照らす丸い明かりを追いかけるように進んでいった。
場所を把握しているのか、先導する斎藤に迷いはない。時折顔を後ろに向けて夢主の様子を確かめている。
何度か休憩を挟んで歩くこと数時間、不意に斎藤が立ち止まり、大きく頷いた。
「ここが……」
「新選組の慰霊碑だ」
ここだと言われた先を提灯で照らすと、ぼんやり細長い碑が浮かび上がって来た。