36.慰霊碑のそばで
夢主名前設定
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「ひっ……」
「慌てるな、落ち着け。声を出すな」
自ずと夢主を挟むように二人が立つ。
斎藤が背中越しに静かになだめ、夢主が小さく何度も頷いた。悲鳴を上げないよう自分で口を押さえた。
怯える夢主とは対照的に落ち着いた二人は、ぐるぐる喉を鳴らす獣達を見定めた。
七頭はいるだろうか。一番大きな犬がまだ木陰に隠れている。二人は肌で感じる野生の殺気から判断した。
「首領は隠れているようだな」
「敵の目を逸らし、弱らせ、最後にとどめを刺しに出てくるんでしょう」
「ククッ、敵か」
面白いなと笑う斎藤、己らが敵であり獲物である事態を愉しんでいる。
野犬は放置すれば必ず市井の人々を傷つける。獣に噛まれ病をもらうこともある。排除せねばならない。
しかしいくら野犬とはいえ、動物を殺める場面は夢主には辛いだろう。
「夢主、いいと言うまで目を閉じていろ。いいな」
「はっ、はい……」
何が起こるか悟り、怖々と目を閉じた。少しでも邪魔にならぬよう体を縮める。
手にある提灯は震えていた。
「賢くない野良犬ですね、逃げればよいものを」
「全くだ」
斎藤と沖田は野犬が距離を詰める前に眼光鋭く睨みつけ、剣気を叩き付けた。
すると唸り声が止んだ。一瞬怯むが、それでも獲物を逃すまいと飛びかかって来た。
「仕方がありませんっ」
突きを向ける沖田に対し、斎藤は長い足を振り上げた。向かってくる野犬の鼻先を蹴りつけると、くうんと情けない声を出して転がり、驚いた数頭が逃げ出していく。
「追いますか」
「いや、今はいい」
夢主を守る手が多い方が良い。
二人は刀を返し、仲間の逃走を気にも留めず向かってくる野犬を峰打ちで叩き伏せた。泡を吐いて痙攣している。
斎藤は音を立てぬよう刀を突き立て、とどめを刺した。あまりの疾さに鳴き声は響かない。
夢主は殺生に気付いただろうか、様子を見るが、不安そうに小さく固まったままだ。
残る野犬を同じように倒した二人の前に、群れの頭領が姿を見せた。
一頭残され逃げ出すかと思えば、こちらの様子を窺っている。今までの獣と違う知性を感じる。嫌な殺気だ。
斎藤と沖田は意識を相手の動きに集中した。
じりじりと三人の周りを回るように距離を詰めてくる。
夢主はこの膠着状態を感じ取ることができず、何が起きているのか、不安なまま目を閉じていた。
先程まで唸ったり威嚇して吠えていた犬達、獣独特の大きな呼吸音が混ざって聞こえていた。その様子から怒りと攻撃性を感じたが、今は何かが変わった。
それでも獣の気配は消えていない。まだ二人は遣り合っているのだ。
斎藤を信じ、瞼を閉じたまま立っていた。
唸り声が更に低くなり二人が身構えた瞬間、野犬は地面を蹴り二人の横をすり抜けようと狙った。
「こいつっ!!」
「どけ、沖田!!」
斎藤が叫ぶと同時に沖田は身をひるがえし、鋭い突きが獣の体を貫いた。
牙突だ。咄嗟に繰り出し、見事に急所を貫いた。
「こいつ……」
一番弱い夢主を狙った。二人は顔を見合わせた。
決して悟られてはいけない。そしてこの現場を見せる訳にはいかない。
未だ目を閉じる夢主は二人の視線を感じたのか、不安そうに首を傾げた。
沖田は刀を握り直して逃げた犬を気に掛けるが、斎藤に顎で道の先を指され、深追いしてはいけないと刀を納めた。
「もう少し目を閉じていろよ」
「はぃ……あっ」
斎藤は夢主を両手で抱え、沖田と共に素早くその場を去った。
「慌てるな、落ち着け。声を出すな」
自ずと夢主を挟むように二人が立つ。
斎藤が背中越しに静かになだめ、夢主が小さく何度も頷いた。悲鳴を上げないよう自分で口を押さえた。
怯える夢主とは対照的に落ち着いた二人は、ぐるぐる喉を鳴らす獣達を見定めた。
七頭はいるだろうか。一番大きな犬がまだ木陰に隠れている。二人は肌で感じる野生の殺気から判断した。
「首領は隠れているようだな」
「敵の目を逸らし、弱らせ、最後にとどめを刺しに出てくるんでしょう」
「ククッ、敵か」
面白いなと笑う斎藤、己らが敵であり獲物である事態を愉しんでいる。
野犬は放置すれば必ず市井の人々を傷つける。獣に噛まれ病をもらうこともある。排除せねばならない。
しかしいくら野犬とはいえ、動物を殺める場面は夢主には辛いだろう。
「夢主、いいと言うまで目を閉じていろ。いいな」
「はっ、はい……」
何が起こるか悟り、怖々と目を閉じた。少しでも邪魔にならぬよう体を縮める。
手にある提灯は震えていた。
「賢くない野良犬ですね、逃げればよいものを」
「全くだ」
斎藤と沖田は野犬が距離を詰める前に眼光鋭く睨みつけ、剣気を叩き付けた。
すると唸り声が止んだ。一瞬怯むが、それでも獲物を逃すまいと飛びかかって来た。
「仕方がありませんっ」
突きを向ける沖田に対し、斎藤は長い足を振り上げた。向かってくる野犬の鼻先を蹴りつけると、くうんと情けない声を出して転がり、驚いた数頭が逃げ出していく。
「追いますか」
「いや、今はいい」
夢主を守る手が多い方が良い。
二人は刀を返し、仲間の逃走を気にも留めず向かってくる野犬を峰打ちで叩き伏せた。泡を吐いて痙攣している。
斎藤は音を立てぬよう刀を突き立て、とどめを刺した。あまりの疾さに鳴き声は響かない。
夢主は殺生に気付いただろうか、様子を見るが、不安そうに小さく固まったままだ。
残る野犬を同じように倒した二人の前に、群れの頭領が姿を見せた。
一頭残され逃げ出すかと思えば、こちらの様子を窺っている。今までの獣と違う知性を感じる。嫌な殺気だ。
斎藤と沖田は意識を相手の動きに集中した。
じりじりと三人の周りを回るように距離を詰めてくる。
夢主はこの膠着状態を感じ取ることができず、何が起きているのか、不安なまま目を閉じていた。
先程まで唸ったり威嚇して吠えていた犬達、獣独特の大きな呼吸音が混ざって聞こえていた。その様子から怒りと攻撃性を感じたが、今は何かが変わった。
それでも獣の気配は消えていない。まだ二人は遣り合っているのだ。
斎藤を信じ、瞼を閉じたまま立っていた。
唸り声が更に低くなり二人が身構えた瞬間、野犬は地面を蹴り二人の横をすり抜けようと狙った。
「こいつっ!!」
「どけ、沖田!!」
斎藤が叫ぶと同時に沖田は身をひるがえし、鋭い突きが獣の体を貫いた。
牙突だ。咄嗟に繰り出し、見事に急所を貫いた。
「こいつ……」
一番弱い夢主を狙った。二人は顔を見合わせた。
決して悟られてはいけない。そしてこの現場を見せる訳にはいかない。
未だ目を閉じる夢主は二人の視線を感じたのか、不安そうに首を傾げた。
沖田は刀を握り直して逃げた犬を気に掛けるが、斎藤に顎で道の先を指され、深追いしてはいけないと刀を納めた。
「もう少し目を閉じていろよ」
「はぃ……あっ」
斎藤は夢主を両手で抱え、沖田と共に素早くその場を去った。