36.慰霊碑のそばで
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数か月後、東京では永倉が発起人となり建碑に奔走した慰霊碑が建てられた。
夢主達には永倉本人からの手紙で知らされた。新選組を祭る碑、三人はすぐさま訪問を決めた。
しかし斎藤は生き延びた新選組組長の顔を広めるのを好まない。
沖田総司が生きている事実も伏せておきたい。
存在を潜めていたい夢主。三人は人目を避けて献花に向かった。
碑がある板橋までは上野から二里はある。
日が沈む前に家を出たが、到着するのはすっかり夜が更けた頃になる。人目を避けるのだからやむを得ない。
今夜は月が細い。
夜闇の長い道行きは危険を伴うが、帯刀した一流の剣客が二人もいれば身を守るには困らない。
今宵の沖田は今まで通りの愛刀を帯びている。
「それを持っていくのか」
「えぇ、構いませんでしょう、警官の藤田五郎殿が一緒なんですから」
ギロリと睨まれ、隠密行動の斎藤一の方が良かったですかと言い直し、更に強い睨みが向けられた。
突き刺さる視線は慣れたはずだが、こうも間近で続けて受けると居たたまれない。沖田は肩をすぼめて笑った。
「ははっ、冗談ですよ。でも制服姿で行くということは、そういう事でしょう、いざと言う時に備えて」
「フン、さっさと木刀の仕込みを完成させるんだな」
「会津藩お抱えの刀鍛冶職人と木工職人にお願いしているんです。時間は必要ですが確かな仕込みが出来るはずです」
「刀鍛冶と木工職人か」
「刀鍛冶は鍵作りにも精通していますからね、鍵の機構が参考になるかと。見た目は木材、見えない部分に金属で小さなからくりを。刀身はもちろん真剣ですからね」
「柄は耐えられるのか」
「大丈夫です、特に堅い木を探してもらったんです」
先日話した仕込み刀の話だ。夢主は刀の話に熱中する二人を交互に見つめた。
先を行く斎藤、続く夢主とすぐ隣を歩く沖田、懐かしい並びで三人は歩いている。
「三人で歩くなんて久しぶりです……」
話が一段落した頃、夢主は嬉しそうに呟いた。
夢主の足元を照らす提灯が、歩みに合わせてゆらゆら揺れている。斎藤と沖田だけなら、灯りも必要とせず道を行くのだろう。
「言われてみればそうですね、三人というのは」
「そうだったか」
夜の砂利道を行く音はどこか寂しげだ。
足を踏み出すたび、じゃり、じゃりと鳴る音が冷たく繰り返される。
「夜道って盗賊が出そうな気がするんですけど、大丈夫でしょうか……」
「この辺りは大丈夫だろう。出るなら賊より野犬だろうな」
「野犬っ」
「身体能力でいうと賊より厄介だがな、野犬どもは本能で危険を察する賢さがある。夜の上野の山も大丈夫だったろう」
「でも……」
上野は何度か訪れ知った場所。夜であっても広い山に少しは不安も紛れた。見つかる確率が低いからだ。何よりあの夜は斎藤が手を引いてくれていた。
つと斎藤の手を目に入れるが、まさか沖田の前で手を繋ぎたいとは言えない。
知らない道を行く不安と、道の寂しい景色が心を揺らしているようだ。木や雑草が道の両端を暗く染めている。
道を行く人間は、草むらから覗く獣にとって狙いを定めやすい格好の標的ではないか。
「何か鳴いてませんか……」
遠吠えが聞こえた。離れた場所にいるのか。近くなければいいが、息を潜めて近付いているかもしれない。
夢主は無意識に斎藤に近づいた。
「ははっ、賊よりましですよ」
「ま、そうだな」
「っと、言ったそばから……ですね」
沖田が刀に手を置いた。驚いた夢主が辺りを見回すと、暗闇に幾つもの光が浮かんでいる。
月明かりが薄ければ、木陰は真っ暗になる。木々に隠れるよう近付いて来たのか、路上の人間を獲物にしようと野犬達が集まっていた。
夢主達には永倉本人からの手紙で知らされた。新選組を祭る碑、三人はすぐさま訪問を決めた。
しかし斎藤は生き延びた新選組組長の顔を広めるのを好まない。
沖田総司が生きている事実も伏せておきたい。
存在を潜めていたい夢主。三人は人目を避けて献花に向かった。
碑がある板橋までは上野から二里はある。
日が沈む前に家を出たが、到着するのはすっかり夜が更けた頃になる。人目を避けるのだからやむを得ない。
今夜は月が細い。
夜闇の長い道行きは危険を伴うが、帯刀した一流の剣客が二人もいれば身を守るには困らない。
今宵の沖田は今まで通りの愛刀を帯びている。
「それを持っていくのか」
「えぇ、構いませんでしょう、警官の藤田五郎殿が一緒なんですから」
ギロリと睨まれ、隠密行動の斎藤一の方が良かったですかと言い直し、更に強い睨みが向けられた。
突き刺さる視線は慣れたはずだが、こうも間近で続けて受けると居たたまれない。沖田は肩をすぼめて笑った。
「ははっ、冗談ですよ。でも制服姿で行くということは、そういう事でしょう、いざと言う時に備えて」
「フン、さっさと木刀の仕込みを完成させるんだな」
「会津藩お抱えの刀鍛冶職人と木工職人にお願いしているんです。時間は必要ですが確かな仕込みが出来るはずです」
「刀鍛冶と木工職人か」
「刀鍛冶は鍵作りにも精通していますからね、鍵の機構が参考になるかと。見た目は木材、見えない部分に金属で小さなからくりを。刀身はもちろん真剣ですからね」
「柄は耐えられるのか」
「大丈夫です、特に堅い木を探してもらったんです」
先日話した仕込み刀の話だ。夢主は刀の話に熱中する二人を交互に見つめた。
先を行く斎藤、続く夢主とすぐ隣を歩く沖田、懐かしい並びで三人は歩いている。
「三人で歩くなんて久しぶりです……」
話が一段落した頃、夢主は嬉しそうに呟いた。
夢主の足元を照らす提灯が、歩みに合わせてゆらゆら揺れている。斎藤と沖田だけなら、灯りも必要とせず道を行くのだろう。
「言われてみればそうですね、三人というのは」
「そうだったか」
夜の砂利道を行く音はどこか寂しげだ。
足を踏み出すたび、じゃり、じゃりと鳴る音が冷たく繰り返される。
「夜道って盗賊が出そうな気がするんですけど、大丈夫でしょうか……」
「この辺りは大丈夫だろう。出るなら賊より野犬だろうな」
「野犬っ」
「身体能力でいうと賊より厄介だがな、野犬どもは本能で危険を察する賢さがある。夜の上野の山も大丈夫だったろう」
「でも……」
上野は何度か訪れ知った場所。夜であっても広い山に少しは不安も紛れた。見つかる確率が低いからだ。何よりあの夜は斎藤が手を引いてくれていた。
つと斎藤の手を目に入れるが、まさか沖田の前で手を繋ぎたいとは言えない。
知らない道を行く不安と、道の寂しい景色が心を揺らしているようだ。木や雑草が道の両端を暗く染めている。
道を行く人間は、草むらから覗く獣にとって狙いを定めやすい格好の標的ではないか。
「何か鳴いてませんか……」
遠吠えが聞こえた。離れた場所にいるのか。近くなければいいが、息を潜めて近付いているかもしれない。
夢主は無意識に斎藤に近づいた。
「ははっ、賊よりましですよ」
「ま、そうだな」
「っと、言ったそばから……ですね」
沖田が刀に手を置いた。驚いた夢主が辺りを見回すと、暗闇に幾つもの光が浮かんでいる。
月明かりが薄ければ、木陰は真っ暗になる。木々に隠れるよう近付いて来たのか、路上の人間を獲物にしようと野犬達が集まっていた。