35.時代の影と明かり
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
橋に立つのは若い男で背が高く、黒く張りのある髪が元気に天を向いている。
筋骨隆隆とは言えないが男らしい広い背中、若い力強さを感じる立派な後ろ姿だ。
「左之……左之なのかっ」
「えっ……」
毎日のように笑い合った友、原田左之助。その男と見紛う背中に、永倉の目は大きく見開かれていた。
永倉の呟きに驚き夢主も勢いよく顔を向けた。
左之と呼ばれた男が不思議そうに振り返る。男は身に覚えのない声に「誰だ」と主を確かめた。
「左之、いや……若い……」
「あぁっ?そりゃあ若いだろうよ、俺ぁまだ十六だぜ」
「すまん、よく知る男に似てたもんでよ……」
「なんだ人違いか」
「すまねぇな」
慣れ親しんだ原田とは髪型が違うが、一つに纏めていた髪を散切りすればこんな形になるのでは、そんな髪型だ。
しかし振り返った顔は随分と若く、すぐに人違いだと分かった。
だが夢主は人違いと分かった後も驚きで瞳を潤ませていた。
永倉と同じように見間違い、失われたはずの背中に涙が込み上げてきた。振り返った男は別人だったが、それが記憶にはっきり残る人物で、違うものが込み上げてきたのだ。
相楽左之助、記憶より幾分か若いが強い意志を感じる瞳に、見るだけで分かる頑丈な体。想像通りの存在に感極まった。
「おい、大丈夫か夢主」
「はい、少し驚いただけで……本当によく似てます……」
そんなに似てると言われるとむず痒い。左之助は自分の体を見てから頭を掻いた。
「誰に似てるって言うんだ」
「原田さんはもう少し分厚いって言うか……逞しい……」
「原田ぁ?俺は相楽だ、相楽左之助!何だよ、人間違いしたうえに人の体に文句つけやがって失礼だな」
「すみません、悪気はなくて……本当に似てたから……違うって、確かめたくて……」
左之助に嫌われたくない、反射的に夢主は謝っていた。悪気はこれっぽっちもない。
原田との違いを確かめただけだ。
「そういうもんは心の中で言ってくれよ、いちいち駄目出しされたんじゃいい気がしねぇぜ」
「ごめんなさい……」
「まぁいいけどよ、用が無いなら行くぜ」
「あっ……」
呼び止める理由も無く、左之助が体の向きを変えるのを黙って見ているしかない。
左之助に声が届かなくなると永倉が口を開いた。
「お前、あの男を知ってんのか」
「知り合いではないんですけど、はぃ……知ってます」
「そうか……そっくりだったな」
相棒であった永倉から見ても原田に似ていた。
不思議な出会いだ、二人は懐かしい男を思い出し、去っていく若者の背中を見つめていた。
永倉は我に返り、人と会う約束を思い出した。
先日、松本良順が自筆の書を幾つか分けてくれた。松本は医者であるがその書の評価も高い。
これから預かった書を買い取ってくれる人物に会うのだ。その金は建立費に変わる。
「一さんが戻るまで休んでいきませんか、夜の銀座はきっと綺麗です。一緒に……」
「悪ぃな、約束が続いててな。それに夜の銀座なんて俺が一緒にいちゃ邪魔だろうよ、まぁ北海道に帰る前にまた会う機会はあるさ」
原田を思い出して急に淋しさに駆られた夢主は永倉を誘うが、大切な約束を反故にする訳にいかず、当然断られた。
理由が理解できる為それ以上誘いはせず、笑顔で永倉を見送った。
「左之助さん……そっくりだったなぁ……」
予期せぬめぐり逢いに心の中が真っ白になってしまい、夢主は道場にも家にも戻らず、ふらふら町を歩き始めた。
筋骨隆隆とは言えないが男らしい広い背中、若い力強さを感じる立派な後ろ姿だ。
「左之……左之なのかっ」
「えっ……」
毎日のように笑い合った友、原田左之助。その男と見紛う背中に、永倉の目は大きく見開かれていた。
永倉の呟きに驚き夢主も勢いよく顔を向けた。
左之と呼ばれた男が不思議そうに振り返る。男は身に覚えのない声に「誰だ」と主を確かめた。
「左之、いや……若い……」
「あぁっ?そりゃあ若いだろうよ、俺ぁまだ十六だぜ」
「すまん、よく知る男に似てたもんでよ……」
「なんだ人違いか」
「すまねぇな」
慣れ親しんだ原田とは髪型が違うが、一つに纏めていた髪を散切りすればこんな形になるのでは、そんな髪型だ。
しかし振り返った顔は随分と若く、すぐに人違いだと分かった。
だが夢主は人違いと分かった後も驚きで瞳を潤ませていた。
永倉と同じように見間違い、失われたはずの背中に涙が込み上げてきた。振り返った男は別人だったが、それが記憶にはっきり残る人物で、違うものが込み上げてきたのだ。
相楽左之助、記憶より幾分か若いが強い意志を感じる瞳に、見るだけで分かる頑丈な体。想像通りの存在に感極まった。
「おい、大丈夫か夢主」
「はい、少し驚いただけで……本当によく似てます……」
そんなに似てると言われるとむず痒い。左之助は自分の体を見てから頭を掻いた。
「誰に似てるって言うんだ」
「原田さんはもう少し分厚いって言うか……逞しい……」
「原田ぁ?俺は相楽だ、相楽左之助!何だよ、人間違いしたうえに人の体に文句つけやがって失礼だな」
「すみません、悪気はなくて……本当に似てたから……違うって、確かめたくて……」
左之助に嫌われたくない、反射的に夢主は謝っていた。悪気はこれっぽっちもない。
原田との違いを確かめただけだ。
「そういうもんは心の中で言ってくれよ、いちいち駄目出しされたんじゃいい気がしねぇぜ」
「ごめんなさい……」
「まぁいいけどよ、用が無いなら行くぜ」
「あっ……」
呼び止める理由も無く、左之助が体の向きを変えるのを黙って見ているしかない。
左之助に声が届かなくなると永倉が口を開いた。
「お前、あの男を知ってんのか」
「知り合いではないんですけど、はぃ……知ってます」
「そうか……そっくりだったな」
相棒であった永倉から見ても原田に似ていた。
不思議な出会いだ、二人は懐かしい男を思い出し、去っていく若者の背中を見つめていた。
永倉は我に返り、人と会う約束を思い出した。
先日、松本良順が自筆の書を幾つか分けてくれた。松本は医者であるがその書の評価も高い。
これから預かった書を買い取ってくれる人物に会うのだ。その金は建立費に変わる。
「一さんが戻るまで休んでいきませんか、夜の銀座はきっと綺麗です。一緒に……」
「悪ぃな、約束が続いててな。それに夜の銀座なんて俺が一緒にいちゃ邪魔だろうよ、まぁ北海道に帰る前にまた会う機会はあるさ」
原田を思い出して急に淋しさに駆られた夢主は永倉を誘うが、大切な約束を反故にする訳にいかず、当然断られた。
理由が理解できる為それ以上誘いはせず、笑顔で永倉を見送った。
「左之助さん……そっくりだったなぁ……」
予期せぬめぐり逢いに心の中が真っ白になってしまい、夢主は道場にも家にも戻らず、ふらふら町を歩き始めた。