34.警官と密偵
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「今日は若い奴と一緒だったんでな、念の為だ。制服姿でなければ警官と伝わらず面倒な時もある」
「お連れの方がいらしたんですね」
「あぁ。どうした」
「いえ、いつもの一さんに戻ったかなって……」
夢主は様子を窺うようチラチラと斎藤を覗き込み、機嫌を探っていた。
善良な警官を装う夫は物珍しさがある。今日はそれに加え刺々しさが気になった。
じろじろ顔を見られている斎藤は、好きにさせつつもニヤリと密かに企みを膨らませていた。
「お前は藤田五郎の顔が余程お気に入りと見える」
「そういうわけではなくて」
「いつも笑うのは気に入ってるからなんだろう」
ククッと喉を鳴らして夢主に小さな棘を刺した。
しゅん……と小さくなる姿にちょっとばかり罪悪感を感じるが、毎度クスクス笑うお前も悪いと悪戯を続けた。
「それは慣れないからつい……すみません」
「構わんさ、そんなに気に入っているなら家に着くまで藤田五郎でいてやる、良かったな」
斎藤は「んっ?」と微かに首を傾げて笑顔を作り上げた。
家まで送るからと背中に手を添え歩くよう促すが、気恥ずかしい笑顔に居た堪れなくなった夢主は手から逃れるようにくるりと回った。
「止めてくださいよ、なんか……恥ずかしいです」
「何故だ」
藤田五郎の笑顔を向けているが声も言葉もいつもの斎藤だ。
目が合うが、夢主は困惑して顔を背けた。
「何故って、慣れない一さんに緊張しちゃうっていうか照れ臭いというか……なんか変じゃありませんか、だから」
変だと、作られた笑顔のまま眉がピクリと動いた。
その反応に気付いた夢主は反射的に小さな恐怖を感じた。ただの悪ふざけだが、怒っている……そう感じたのだ。
「あぁっ、違います、変ってそういう意味じゃなくて無くて、私がずっと作り笑顔してたら一さんだって嫌でしょう」
「お前にそんな器用な真似は出来んだろう」
「わっ、私だって出来ますよ!表情を変えるくらい!」
「ほぉ、いつも感情のままに振舞うお前がな、そいつは見てみたいもんだ」
「ひゃっ」
斎藤は相変わらずの笑顔のまま夢主を土塀に押しやり、逃げられぬよう手をついて小さな体を己の前に閉じ込めた。
「さぁ、作り笑顔を見せて見ろ」
「そんなっ、一さん怖いです、やめてください」
にこりと笑んだのは斎藤だった。
感情が読めない夫の笑顔に小さな肩がビクリと動く。その反射に斎藤の顔から笑みが消えた。夢主の顔からもすっかり明るさが消えている。
やり過ぎたか、斎藤は太い息を吐いて土塀から手を離した。
「はぁ、阿呆くさい。帰るぞ」
「あの……」
その顔はいつもの悪人も逃げ出す顔に戻っていた。
鋭く厳しい目付き、でも見慣れた大好きな顔だ。
「お前に作り笑顔なんざいらんだろう、冗談だよ。悪かったな」
「一さん」
夢主は歩き始めた夫の腕を掴んで強引に振り向かせ、満面の笑みを見せた。
斎藤は思わず息を呑んだ。
「藤田五郎さんのお顔も好きですよ、ちょっと恥ずかしいだけで……」
「っく、離さんか」
照れを隠すように手を振りほどき、解放された手を腰の刀に添えた。
刀を押さえんと歩きにくいと言い訳するような仕草に、夢主の肩が小さく震える。
「今のは私の作り笑顔ですよ」
斎藤は前を向いて反応を示さないが、珍しく目元は緩み、だが拗ねるように口角が下がっている。
怒っているのか恥ずかしさを隠しているのか、夢主は斎藤の顔を見上げて不思議な表情に微笑みかけた。
「ふふっ、私は一さんの見せる表情はどんなお顔でも好きです、素敵ですから」
「阿呆、さっさと歩け」
家に送り届けるまで仕事に戻る気になれんと先を急かした。
してやられた斎藤、藤田五郎の笑顔で送り届けるどころか、クスクス笑いながら歩く夢主の顔を見られなくなってしまった。
「お連れの方がいらしたんですね」
「あぁ。どうした」
「いえ、いつもの一さんに戻ったかなって……」
夢主は様子を窺うようチラチラと斎藤を覗き込み、機嫌を探っていた。
善良な警官を装う夫は物珍しさがある。今日はそれに加え刺々しさが気になった。
じろじろ顔を見られている斎藤は、好きにさせつつもニヤリと密かに企みを膨らませていた。
「お前は藤田五郎の顔が余程お気に入りと見える」
「そういうわけではなくて」
「いつも笑うのは気に入ってるからなんだろう」
ククッと喉を鳴らして夢主に小さな棘を刺した。
しゅん……と小さくなる姿にちょっとばかり罪悪感を感じるが、毎度クスクス笑うお前も悪いと悪戯を続けた。
「それは慣れないからつい……すみません」
「構わんさ、そんなに気に入っているなら家に着くまで藤田五郎でいてやる、良かったな」
斎藤は「んっ?」と微かに首を傾げて笑顔を作り上げた。
家まで送るからと背中に手を添え歩くよう促すが、気恥ずかしい笑顔に居た堪れなくなった夢主は手から逃れるようにくるりと回った。
「止めてくださいよ、なんか……恥ずかしいです」
「何故だ」
藤田五郎の笑顔を向けているが声も言葉もいつもの斎藤だ。
目が合うが、夢主は困惑して顔を背けた。
「何故って、慣れない一さんに緊張しちゃうっていうか照れ臭いというか……なんか変じゃありませんか、だから」
変だと、作られた笑顔のまま眉がピクリと動いた。
その反応に気付いた夢主は反射的に小さな恐怖を感じた。ただの悪ふざけだが、怒っている……そう感じたのだ。
「あぁっ、違います、変ってそういう意味じゃなくて無くて、私がずっと作り笑顔してたら一さんだって嫌でしょう」
「お前にそんな器用な真似は出来んだろう」
「わっ、私だって出来ますよ!表情を変えるくらい!」
「ほぉ、いつも感情のままに振舞うお前がな、そいつは見てみたいもんだ」
「ひゃっ」
斎藤は相変わらずの笑顔のまま夢主を土塀に押しやり、逃げられぬよう手をついて小さな体を己の前に閉じ込めた。
「さぁ、作り笑顔を見せて見ろ」
「そんなっ、一さん怖いです、やめてください」
にこりと笑んだのは斎藤だった。
感情が読めない夫の笑顔に小さな肩がビクリと動く。その反射に斎藤の顔から笑みが消えた。夢主の顔からもすっかり明るさが消えている。
やり過ぎたか、斎藤は太い息を吐いて土塀から手を離した。
「はぁ、阿呆くさい。帰るぞ」
「あの……」
その顔はいつもの悪人も逃げ出す顔に戻っていた。
鋭く厳しい目付き、でも見慣れた大好きな顔だ。
「お前に作り笑顔なんざいらんだろう、冗談だよ。悪かったな」
「一さん」
夢主は歩き始めた夫の腕を掴んで強引に振り向かせ、満面の笑みを見せた。
斎藤は思わず息を呑んだ。
「藤田五郎さんのお顔も好きですよ、ちょっと恥ずかしいだけで……」
「っく、離さんか」
照れを隠すように手を振りほどき、解放された手を腰の刀に添えた。
刀を押さえんと歩きにくいと言い訳するような仕草に、夢主の肩が小さく震える。
「今のは私の作り笑顔ですよ」
斎藤は前を向いて反応を示さないが、珍しく目元は緩み、だが拗ねるように口角が下がっている。
怒っているのか恥ずかしさを隠しているのか、夢主は斎藤の顔を見上げて不思議な表情に微笑みかけた。
「ふふっ、私は一さんの見せる表情はどんなお顔でも好きです、素敵ですから」
「阿呆、さっさと歩け」
家に送り届けるまで仕事に戻る気になれんと先を急かした。
してやられた斎藤、藤田五郎の笑顔で送り届けるどころか、クスクス笑いながら歩く夢主の顔を見られなくなってしまった。