34.警官と密偵
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「何がお互い様なんですか、理由を教えてもらえなかったうえに何が何だかさっぱりわかりません。お二人で秘密を持ってるんですか」
「ククッ、そうだな、男同士の秘密なんざ趣味じゃない。俺にとっちゃあ秘密でもなんでもないんだがな、たまには付き合ってやるさ」
結局自分には若旦那の意味は教えてもらえないらしい。
夢主はムスッと頬を膨らませ眉間に皺を刻んでみるが、あっけらかんと澄ました斎藤の顔を見て毒気を抜かれてしまった。
夫は本当にどうでもいいと思っているらしい。
話しても構わないが話さないのは困るのが沖田だから。それならば無理矢理聞き出す気も失せる。
「もういいです。お参りの話も聞きそびれちゃいましたし」
「拗ねるなよ」
男同志の秘密と聞かされて、女の自分にはくだらない馬鹿馬鹿しい理由なのだろうと疑問を放り投げた。
斎藤は拗ねた妻を宥めようと手を伸ばすが、夢主はするりと避けて一枚の新聞を広げた。
宙に浮いてしまった手を畳についておさめ、斎藤も体を寄せて新聞を覗く。
顔を寄せると白いうなじから好い香りを感じる。
思わず意識を持っていかれそうになるが、細い手が持つ新聞に意識を向けた。
夢主は詮索を諦めた代わりに、別の気になる話を持ち出したのだ。
「ひとつ気になる事があったんですけど、一さん、町で号外が売られていたんです」
見出しを叫ぶように読み上げて売り歩く男の声で事故が起きたのを知った。
新聞売りに集まる人々につられ、夢主も号外を購入したのだ。
沖田の話を脇によけ、素直に話題を切り替える姿に感心し斎藤も記事に目を走らせた。
「陸蒸気が脱線って本当ですか、この前はあんなにしっかり走ってたのに、何か裏があるんじゃ……」
手にある新聞には『文明開化ノ象徴、ツイニ倒レル』と大げさな文字が踊っている。
新時代の象徴とされる陸蒸気が初めての脱線事故を起こしたのだ。
見出しの横には「文明ノ限界カ」「戊辰ノ怨念ガ明治人ヲ呪ウ」など過激な文章が続き、西洋の技術を良く思わない者による過激な攘夷ではないかと締めくくられていた。
「あれはただの事故だ、気にするな」
新聞にざっと目を通し、この話かと落ち着いて相槌を打った。事の真相は知っている。
斎藤が把握する情報を知らぬ夢主は記事を鵜呑みにして、真実を知りたがった。
「事故なんですか、誰かが故意に事故を仕組んだなんて事は……」
例えば志々雄一派。
走り始めて数年、人や物を輸送するのに活躍する明治の象徴の一つだ。
その新時代の誇りを汚そうと企んだのでは……夢主は危惧するが、斎藤はきっぱり違うと首を振った。
「線路の交錯点、その交換部分が壊れていたそうだ。ま、整備不良ってやつか。刀も陸蒸気も手入れが肝心ってことだな」
「部品の不備ですか……」
「あぁ。死人も出ていない。何も心配いらん」
深読みしすぎて気を揉んだが、ただの事故に違いなかった。
志々雄達はまだ人目につく行動は起こさない時期。
事を起こすなら、予め情報を掴んで誰かが起こす事件を隠れ蓑にする、それが志々雄一派のやり方だ。
「ククッ、そうだな、男同士の秘密なんざ趣味じゃない。俺にとっちゃあ秘密でもなんでもないんだがな、たまには付き合ってやるさ」
結局自分には若旦那の意味は教えてもらえないらしい。
夢主はムスッと頬を膨らませ眉間に皺を刻んでみるが、あっけらかんと澄ました斎藤の顔を見て毒気を抜かれてしまった。
夫は本当にどうでもいいと思っているらしい。
話しても構わないが話さないのは困るのが沖田だから。それならば無理矢理聞き出す気も失せる。
「もういいです。お参りの話も聞きそびれちゃいましたし」
「拗ねるなよ」
男同志の秘密と聞かされて、女の自分にはくだらない馬鹿馬鹿しい理由なのだろうと疑問を放り投げた。
斎藤は拗ねた妻を宥めようと手を伸ばすが、夢主はするりと避けて一枚の新聞を広げた。
宙に浮いてしまった手を畳についておさめ、斎藤も体を寄せて新聞を覗く。
顔を寄せると白いうなじから好い香りを感じる。
思わず意識を持っていかれそうになるが、細い手が持つ新聞に意識を向けた。
夢主は詮索を諦めた代わりに、別の気になる話を持ち出したのだ。
「ひとつ気になる事があったんですけど、一さん、町で号外が売られていたんです」
見出しを叫ぶように読み上げて売り歩く男の声で事故が起きたのを知った。
新聞売りに集まる人々につられ、夢主も号外を購入したのだ。
沖田の話を脇によけ、素直に話題を切り替える姿に感心し斎藤も記事に目を走らせた。
「陸蒸気が脱線って本当ですか、この前はあんなにしっかり走ってたのに、何か裏があるんじゃ……」
手にある新聞には『文明開化ノ象徴、ツイニ倒レル』と大げさな文字が踊っている。
新時代の象徴とされる陸蒸気が初めての脱線事故を起こしたのだ。
見出しの横には「文明ノ限界カ」「戊辰ノ怨念ガ明治人ヲ呪ウ」など過激な文章が続き、西洋の技術を良く思わない者による過激な攘夷ではないかと締めくくられていた。
「あれはただの事故だ、気にするな」
新聞にざっと目を通し、この話かと落ち着いて相槌を打った。事の真相は知っている。
斎藤が把握する情報を知らぬ夢主は記事を鵜呑みにして、真実を知りたがった。
「事故なんですか、誰かが故意に事故を仕組んだなんて事は……」
例えば志々雄一派。
走り始めて数年、人や物を輸送するのに活躍する明治の象徴の一つだ。
その新時代の誇りを汚そうと企んだのでは……夢主は危惧するが、斎藤はきっぱり違うと首を振った。
「線路の交錯点、その交換部分が壊れていたそうだ。ま、整備不良ってやつか。刀も陸蒸気も手入れが肝心ってことだな」
「部品の不備ですか……」
「あぁ。死人も出ていない。何も心配いらん」
深読みしすぎて気を揉んだが、ただの事故に違いなかった。
志々雄達はまだ人目につく行動は起こさない時期。
事を起こすなら、予め情報を掴んで誰かが起こす事件を隠れ蓑にする、それが志々雄一派のやり方だ。