33.陸蒸気の景色
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「凄い、異人さんがたくさん……」
失礼にならぬよう声を潜め、斎藤の服を引っ張った。
耳に届く言葉はいつもと変わらぬ日本の言葉に、所々聞き取れるメリケン語、何を言っているのか全く分からぬ異国の言葉がある。
夢主は何度もすれ違う異人の姿を振り返った。
「あぁ、横浜は幕末から交易をしていたからな。異国の人や物が多いだろ」
「はい。異人さんの町でしか見かけない物も多いんですよね、チョコレートもその一つなんですね」
「よっぽど気に入ったんだな」
牛鍋が最初に流行った横浜だが、ビール醸造所が造られたり、アイスクリームが売られたり、明治の日本に於いて最先端の品が揃っていた。
夢主は斎藤に案内されて、歓声に似た声をあげながら町を行き、店を見て回った。
昼飯も今日ばかりは蕎麦ではない。流行りの発端である横浜の牛鍋を食そうと、夢主は斎藤を牛鍋屋に連れ込んだ。
元来好き嫌いはないのだろう。たまには仕方あるまいと、渋々ながら斎藤も牛鍋を楽しんだ。
昼食を終え、一番の目的である"しょくらあと"を買ってからは、弾むように通りを歩いた。包みには漢字で『猪古令糖』と書かれ、道行く者の目を引く。
とてもご機嫌に笑顔を振りまいて歩く夢主は尚更人の目を引き、どこにでも現れる品性下劣な不平士族達に目を付けられてしまった。
複数の男に囲まれたのだ。
「一さっ……」
「大丈夫だ」
男達は揃って未だ頭に髷を残している。
ほつれが見える小袖に張りのない袴、腰には古びた刀を差している。このまま幕末の京へ連れて行っても違和感が無い連中だ。
くたびれた格好からして、新時代で苦労を重ねているらしい。
「おぅおぅ、呑気なもんだねぇ、すっかり異国かぶれかい」
「攘夷攘夷と叫んだ連中が造った新時代がこれかぁ、なぁ、情けねぇよなぁ!お前らも明治政府のもとでたんまり甘い蜜を吸っている口か」
取り囲まれたが斎藤はすぐさま抜刀する気はないらしく、そっと夢主を背後に隠して男達の様子を窺っている。
男達は明治政府に不満を持っているらしい。幕末は攘夷活動をしていたのか、異人と異人達に好意的な人々を憎んでいるようだ。
「異国に媚を売りやがって、見過ごせねぇなぁ」
「明治政府のもとで稼いだ金はしっかり活用しねぇといけねぇよ、最初の目的を忘れちゃいけねぇってんだ。異人を打ち払うのに使ってやる」
小綺麗な格好と所持品から金を余らせる裕福な夫婦と勘違いされたようだ。
幕末の不貞浪士どもと似た主張を繰り返す男達に、斎藤はほとほと嫌気を感じた。
ふぅ、と溜め息が出る。時代に乗れなかったのは気の毒に思うが、している事はただの強請りだ。
「悪いが主義主張は余所でやってくれるか」
相手をするのも面倒臭い。さっさと去れと、斎藤は投げやりに言い放った。
その態度に業を煮やした男達は次々に抜刀し、切っ先を二人に向けた。頭に血が上っている。はなから理性を失った行動だが、男達はやけくそになっていた。
「黙れ!大人しく従わねぇんならここの連中含めて全員ぶった斬る!ぶった斬って貴様らの金を全て奪うまでだ!」
「異人を斬れば大問題だぞ。お前らでは逃げきれまい」
「異人は斬らねぇよ!今はな!だが異国かぶれを斬っても理由があれば捕まらねぇ!」
「ほぅ、どんな理由がある」
「そんなもんは後からいくらでも付けりゃあいい!俺達の攘夷は終わっちゃいねぇんだよ!」
「おうよ!活動にはなぁ、金か要るんだ、分かるだろ!お宅ら随分と値が張る品を持ってるじゃねぇか。たんまり稼いでんだろ、俺達が有意義に使ってやるよ、全部残して立ち去りな!」
斎藤は短い息を吐いて腕を伸ばし、夢主を更に一歩下がらせた。
失礼にならぬよう声を潜め、斎藤の服を引っ張った。
耳に届く言葉はいつもと変わらぬ日本の言葉に、所々聞き取れるメリケン語、何を言っているのか全く分からぬ異国の言葉がある。
夢主は何度もすれ違う異人の姿を振り返った。
「あぁ、横浜は幕末から交易をしていたからな。異国の人や物が多いだろ」
「はい。異人さんの町でしか見かけない物も多いんですよね、チョコレートもその一つなんですね」
「よっぽど気に入ったんだな」
牛鍋が最初に流行った横浜だが、ビール醸造所が造られたり、アイスクリームが売られたり、明治の日本に於いて最先端の品が揃っていた。
夢主は斎藤に案内されて、歓声に似た声をあげながら町を行き、店を見て回った。
昼飯も今日ばかりは蕎麦ではない。流行りの発端である横浜の牛鍋を食そうと、夢主は斎藤を牛鍋屋に連れ込んだ。
元来好き嫌いはないのだろう。たまには仕方あるまいと、渋々ながら斎藤も牛鍋を楽しんだ。
昼食を終え、一番の目的である"しょくらあと"を買ってからは、弾むように通りを歩いた。包みには漢字で『猪古令糖』と書かれ、道行く者の目を引く。
とてもご機嫌に笑顔を振りまいて歩く夢主は尚更人の目を引き、どこにでも現れる品性下劣な不平士族達に目を付けられてしまった。
複数の男に囲まれたのだ。
「一さっ……」
「大丈夫だ」
男達は揃って未だ頭に髷を残している。
ほつれが見える小袖に張りのない袴、腰には古びた刀を差している。このまま幕末の京へ連れて行っても違和感が無い連中だ。
くたびれた格好からして、新時代で苦労を重ねているらしい。
「おぅおぅ、呑気なもんだねぇ、すっかり異国かぶれかい」
「攘夷攘夷と叫んだ連中が造った新時代がこれかぁ、なぁ、情けねぇよなぁ!お前らも明治政府のもとでたんまり甘い蜜を吸っている口か」
取り囲まれたが斎藤はすぐさま抜刀する気はないらしく、そっと夢主を背後に隠して男達の様子を窺っている。
男達は明治政府に不満を持っているらしい。幕末は攘夷活動をしていたのか、異人と異人達に好意的な人々を憎んでいるようだ。
「異国に媚を売りやがって、見過ごせねぇなぁ」
「明治政府のもとで稼いだ金はしっかり活用しねぇといけねぇよ、最初の目的を忘れちゃいけねぇってんだ。異人を打ち払うのに使ってやる」
小綺麗な格好と所持品から金を余らせる裕福な夫婦と勘違いされたようだ。
幕末の不貞浪士どもと似た主張を繰り返す男達に、斎藤はほとほと嫌気を感じた。
ふぅ、と溜め息が出る。時代に乗れなかったのは気の毒に思うが、している事はただの強請りだ。
「悪いが主義主張は余所でやってくれるか」
相手をするのも面倒臭い。さっさと去れと、斎藤は投げやりに言い放った。
その態度に業を煮やした男達は次々に抜刀し、切っ先を二人に向けた。頭に血が上っている。はなから理性を失った行動だが、男達はやけくそになっていた。
「黙れ!大人しく従わねぇんならここの連中含めて全員ぶった斬る!ぶった斬って貴様らの金を全て奪うまでだ!」
「異人を斬れば大問題だぞ。お前らでは逃げきれまい」
「異人は斬らねぇよ!今はな!だが異国かぶれを斬っても理由があれば捕まらねぇ!」
「ほぅ、どんな理由がある」
「そんなもんは後からいくらでも付けりゃあいい!俺達の攘夷は終わっちゃいねぇんだよ!」
「おうよ!活動にはなぁ、金か要るんだ、分かるだろ!お宅ら随分と値が張る品を持ってるじゃねぇか。たんまり稼いでんだろ、俺達が有意義に使ってやるよ、全部残して立ち去りな!」
斎藤は短い息を吐いて腕を伸ばし、夢主を更に一歩下がらせた。