33.陸蒸気の景色
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「一さんは……目の前に犠牲になる人がいても任務を優先できますか……」
「……」
眉もピクリと動かない。斎藤は無表情だ。視線は夢主に突き刺さっている。
怒られても仕方がない、夢主はしゅんと身を縮めて俯いた。
「ごめんなさい、聞かなかったことにしてください……」
「その時にならなければ分からん。むやみに巻き込むつもりは無いが、一人を守って国を亡ぼす訳にもいかん。だがお前が生きる世界を穏やかなものに、……そう願う」
「一さん……」
言ってはならない言葉を口にしてしまったが、斎藤は優しい声で応じてくれた。
頭に触れる大きな手がゆっくり夢主を撫で、目が合うとそのまま話は続いた。
「過ぎた願いかも知れんな、俺にとっては。俺は全てを守れるほどの力はない。俺一人に出来る事などたかが知れている」
フッ……わざと頼りない笑みを見せる斎藤に、夢主の胸が熱くなった。
自分の力不足で苦い思いをしているのは斎藤も同じなのか。それでも必死に現実に向き合っている。
とても強い人……夢主は斎藤と似た切ない微笑みを湛えていた。
「だから俺は利用するのさ。国の情報収集力、警察の機動力、お偉いさんの権力だって国と民を守る為なら使ってやるさ。そして、私欲に溺れるようなら誰であれ俺は斬る」
「それが一さんの正義……」
「また辛い何かを思い出したんだろう。背負わず、俺に押し付けてしまえばいい」
「……っ」
夢主は弾けるように斎藤に飛びつき、斎藤が驚くほど回した腕を強く締めて抱き付いた。
力一杯締め付けても少しも痛くないはずと、夢主は遠慮なしに力を込めた。
「全部全部、一さんに押し付けちゃうんですから……いいんですか、一さんにだって大き過ぎて潰れちゃうんですよ、知りませんから……一さんが潰れちゃっても……」
「俺はそんなに軟な男じゃないさ」
今まで感じた中で一番きつい抱擁か、斎藤が苦い顔で密かに笑んでいると、しがみ付く力が僅かに弱まった。
顔を上げろと華奢な体にそっと手を添え、気を紛らわせてやろうと声を掛ける。
「今度、横浜に連れて行ってやろうか」
「横浜……」
「前に言っていただろう、陸蒸気に乗ってみたいと」
「乗ってみたいです!横浜、見てみたい!」
「今度また町を見に行く。見るだけだからお前も一緒に連れて行ってやる。気分転換だ」
「本当ですか!いいんですか、ついて行っても!」
「構わんさ」
「わぁ!ありがとうございます!」
先程までの晴れない顔が嘘のように、にこにこと顔が緩んでいる。
現金なやつめと斎藤は笑った。同行を誘うつもりでいたが良いきかっけだ。
横浜には夢主には懐かしく楽しい物で溢れているに違いない。
「また"しょくらあと"でも買うか」
「チョコレート!あれ美味しかったです。高くないんですか、まだ珍しいんじゃ……」
「あれはなかなか楽しかったからな、安い買い物だ」
「楽しかった……」
陸蒸気が開通したばかりの頃、客に紛れ視察の為に乗車した斎藤は終点の横浜で"しょくらあと"を夢主への土産に選んだ。
渡された夢主は甘く懐かしい味に感激したが、味見だと言ってちょっとした悪戯をされた。
思い出した夢主は真っ赤な顔で頬を膨らませた。
「あれはなしですよ……もぅ」
澄ました顔でフフンと鼻をならす斎藤は「断るなよ」とニヤついていた。
「……」
眉もピクリと動かない。斎藤は無表情だ。視線は夢主に突き刺さっている。
怒られても仕方がない、夢主はしゅんと身を縮めて俯いた。
「ごめんなさい、聞かなかったことにしてください……」
「その時にならなければ分からん。むやみに巻き込むつもりは無いが、一人を守って国を亡ぼす訳にもいかん。だがお前が生きる世界を穏やかなものに、……そう願う」
「一さん……」
言ってはならない言葉を口にしてしまったが、斎藤は優しい声で応じてくれた。
頭に触れる大きな手がゆっくり夢主を撫で、目が合うとそのまま話は続いた。
「過ぎた願いかも知れんな、俺にとっては。俺は全てを守れるほどの力はない。俺一人に出来る事などたかが知れている」
フッ……わざと頼りない笑みを見せる斎藤に、夢主の胸が熱くなった。
自分の力不足で苦い思いをしているのは斎藤も同じなのか。それでも必死に現実に向き合っている。
とても強い人……夢主は斎藤と似た切ない微笑みを湛えていた。
「だから俺は利用するのさ。国の情報収集力、警察の機動力、お偉いさんの権力だって国と民を守る為なら使ってやるさ。そして、私欲に溺れるようなら誰であれ俺は斬る」
「それが一さんの正義……」
「また辛い何かを思い出したんだろう。背負わず、俺に押し付けてしまえばいい」
「……っ」
夢主は弾けるように斎藤に飛びつき、斎藤が驚くほど回した腕を強く締めて抱き付いた。
力一杯締め付けても少しも痛くないはずと、夢主は遠慮なしに力を込めた。
「全部全部、一さんに押し付けちゃうんですから……いいんですか、一さんにだって大き過ぎて潰れちゃうんですよ、知りませんから……一さんが潰れちゃっても……」
「俺はそんなに軟な男じゃないさ」
今まで感じた中で一番きつい抱擁か、斎藤が苦い顔で密かに笑んでいると、しがみ付く力が僅かに弱まった。
顔を上げろと華奢な体にそっと手を添え、気を紛らわせてやろうと声を掛ける。
「今度、横浜に連れて行ってやろうか」
「横浜……」
「前に言っていただろう、陸蒸気に乗ってみたいと」
「乗ってみたいです!横浜、見てみたい!」
「今度また町を見に行く。見るだけだからお前も一緒に連れて行ってやる。気分転換だ」
「本当ですか!いいんですか、ついて行っても!」
「構わんさ」
「わぁ!ありがとうございます!」
先程までの晴れない顔が嘘のように、にこにこと顔が緩んでいる。
現金なやつめと斎藤は笑った。同行を誘うつもりでいたが良いきかっけだ。
横浜には夢主には懐かしく楽しい物で溢れているに違いない。
「また"しょくらあと"でも買うか」
「チョコレート!あれ美味しかったです。高くないんですか、まだ珍しいんじゃ……」
「あれはなかなか楽しかったからな、安い買い物だ」
「楽しかった……」
陸蒸気が開通したばかりの頃、客に紛れ視察の為に乗車した斎藤は終点の横浜で"しょくらあと"を夢主への土産に選んだ。
渡された夢主は甘く懐かしい味に感激したが、味見だと言ってちょっとした悪戯をされた。
思い出した夢主は真っ赤な顔で頬を膨らませた。
「あれはなしですよ……もぅ」
澄ました顔でフフンと鼻をならす斎藤は「断るなよ」とニヤついていた。