33.陸蒸気の景色
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突然神谷道場の在り処を知ってしまった。
夢主は湧き起る複雑な感情をどうにかおさめようと、記憶を呼び起こしてはひたすら考えていた。帰り道からずっと思考は続いている。
薫の父、越路郎がこの先戦へ行き帰って来ない現実と、万一帰ってきた場合に変わってしまう状況。
緋村剣心があの道場で斎藤と手を合わせ、大久保卿と再会する日。
そこで剣心を捉えられなければ志々雄討伐はどうなってしまうのか。それでも見つけ出して誘うのか、緋村は応じるだろうか。
緋村と薫の淡い未来はどうなるのか。
いつしか複雑な考えが声になっていた。
「薫ちゃん、お父さんと一さん……剣……」
「どうした」
「あぁっ、いいえ何もっ!」
佐賀の乱が落ち着き、現地や近隣へ出払っていた密偵達も多くが東京へ戻り、斎藤の多忙は一段落していた。今宵はのんびり膳を並べる余裕がある。
食事が始まっても箸が止まったままなのは夢主がもやもやしたものを抱えている時だ。
またしても厄介事にぶち当たったかと斎藤は夢主の様子を見た。
「久しぶりにお前の顔がゆっくり見られると思ったんだが、大丈夫か。家にいてやれずすまなかったな」
「いえ、一さんこそ大変でしたね、私は……今日ちょっと驚いた事があって……」
茶碗の上に箸を置くと小さな音が立った。
夢主は斎藤に話すべきか迷っている。いつかは確実に出会う人物だ。しかし既に顔見知りかも知れない。
「この辺りには道場が多いんでしょうか」
「道場、今思い当たるのは沖田君の道場に前川道場、神谷道場、町外れにも……」
「ご存知なんですか!」
「何がだ」
「いえ……道場を……」
「散々町を歩いているんだ、そりゃあ目ぼしい場所は記憶に残る。道場が多いと言っても最近は剣術離れも進んでいるからな、残る道場の数は知れている」
「そうですか……実は今日そのうちの一軒にお届け物にあがったんです。そうしたら思わぬ方にお会いして……その方はいずれ、戦いの場に……」
「死ぬのか」
声を出せなくなった夢主の顔色から斎藤が察した言葉を繋いだ。
夢主は小さく頷いた。
「お前の好きにすればいい」
「でも、どうしたらいいか全然わからなくて……」
「では何もするな」
「でもっ!」
「じゃあ好きにしろ」
放り投げるように言い捨てて、斎藤は口に飯を運んだ。
なんだかんだ言っても家で食う飯が一番だな、そう考えて気を緩めた瞬間、とんでもない一言が妻から放たれた。
「わかりました、じゃあ武田邸に行きたいです!」
夢主はやけっぱちに答えた。今でもずっと気になっている恵の存在。薫の声を聞き、恵への心配が強まった。
斎藤は予想だにしない要求に口に入れた飯を吹き出しそうになった。
「阿呆か!まだ忘れてないのか。俺が家を空けるたびに縛り付けられたいか」
「だって好きにしろって……」
斎藤の口から出ると厭らしく聞こえる戒めの言葉にほんのり頬を染めて夢主はむくれた。
「あの件はお前は手を引いたはずだぞ。覚えているだろう」
「覚えてますよ、冗談です……今日は別の事でちょっと……でも武田邸の事もずっと気になったままです。このままだとみんな……」
「お前ひとりで全て救えるのか」
「……いぇ……」
「結果を背負う覚悟が無いなら関わるな、だぞ」
恵の件で既に思い知っている。自分一人で解決など出来ない。だから斎藤に託し、それぞれの選択に委ねるしかないのだ。
手出しして変わった結果に責任も持てないなら関わるべきではない。
その通りだとこうべを垂れる夢主、その小さな頭に斎藤は大きく温かな手をぽんと乗せた。
夢主は湧き起る複雑な感情をどうにかおさめようと、記憶を呼び起こしてはひたすら考えていた。帰り道からずっと思考は続いている。
薫の父、越路郎がこの先戦へ行き帰って来ない現実と、万一帰ってきた場合に変わってしまう状況。
緋村剣心があの道場で斎藤と手を合わせ、大久保卿と再会する日。
そこで剣心を捉えられなければ志々雄討伐はどうなってしまうのか。それでも見つけ出して誘うのか、緋村は応じるだろうか。
緋村と薫の淡い未来はどうなるのか。
いつしか複雑な考えが声になっていた。
「薫ちゃん、お父さんと一さん……剣……」
「どうした」
「あぁっ、いいえ何もっ!」
佐賀の乱が落ち着き、現地や近隣へ出払っていた密偵達も多くが東京へ戻り、斎藤の多忙は一段落していた。今宵はのんびり膳を並べる余裕がある。
食事が始まっても箸が止まったままなのは夢主がもやもやしたものを抱えている時だ。
またしても厄介事にぶち当たったかと斎藤は夢主の様子を見た。
「久しぶりにお前の顔がゆっくり見られると思ったんだが、大丈夫か。家にいてやれずすまなかったな」
「いえ、一さんこそ大変でしたね、私は……今日ちょっと驚いた事があって……」
茶碗の上に箸を置くと小さな音が立った。
夢主は斎藤に話すべきか迷っている。いつかは確実に出会う人物だ。しかし既に顔見知りかも知れない。
「この辺りには道場が多いんでしょうか」
「道場、今思い当たるのは沖田君の道場に前川道場、神谷道場、町外れにも……」
「ご存知なんですか!」
「何がだ」
「いえ……道場を……」
「散々町を歩いているんだ、そりゃあ目ぼしい場所は記憶に残る。道場が多いと言っても最近は剣術離れも進んでいるからな、残る道場の数は知れている」
「そうですか……実は今日そのうちの一軒にお届け物にあがったんです。そうしたら思わぬ方にお会いして……その方はいずれ、戦いの場に……」
「死ぬのか」
声を出せなくなった夢主の顔色から斎藤が察した言葉を繋いだ。
夢主は小さく頷いた。
「お前の好きにすればいい」
「でも、どうしたらいいか全然わからなくて……」
「では何もするな」
「でもっ!」
「じゃあ好きにしろ」
放り投げるように言い捨てて、斎藤は口に飯を運んだ。
なんだかんだ言っても家で食う飯が一番だな、そう考えて気を緩めた瞬間、とんでもない一言が妻から放たれた。
「わかりました、じゃあ武田邸に行きたいです!」
夢主はやけっぱちに答えた。今でもずっと気になっている恵の存在。薫の声を聞き、恵への心配が強まった。
斎藤は予想だにしない要求に口に入れた飯を吹き出しそうになった。
「阿呆か!まだ忘れてないのか。俺が家を空けるたびに縛り付けられたいか」
「だって好きにしろって……」
斎藤の口から出ると厭らしく聞こえる戒めの言葉にほんのり頬を染めて夢主はむくれた。
「あの件はお前は手を引いたはずだぞ。覚えているだろう」
「覚えてますよ、冗談です……今日は別の事でちょっと……でも武田邸の事もずっと気になったままです。このままだとみんな……」
「お前ひとりで全て救えるのか」
「……いぇ……」
「結果を背負う覚悟が無いなら関わるな、だぞ」
恵の件で既に思い知っている。自分一人で解決など出来ない。だから斎藤に託し、それぞれの選択に委ねるしかないのだ。
手出しして変わった結果に責任も持てないなら関わるべきではない。
その通りだとこうべを垂れる夢主、その小さな頭に斎藤は大きく温かな手をぽんと乗せた。