32.追想
夢主名前設定
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「あれは、夢主か」
斎藤は早朝の町にいた。
目の前に表れたのは我が妻ではないか。後ろ姿に目を止め、呟いた。
「いや、こんな朝早く起きて出歩けるはずがあるまい。しかし」
ふらふらと家がある方へ歩いていく女。見覚えある姿に見えるが、早起きが苦手な夢主が出歩ける時間ではない。
念の為に道の反対を振り返るが誰の姿も無い。緋村は既に視界に入らぬほど先へ進んでいた。
「まぁいい、家に帰るんだろう。俺はこっちだ」
まさか夢主が緋村剣心に会い、握り飯を渡したとは夢にも思わなかった。
斎藤が緋村と相見えるのは数年後のこと。
斎藤が去ろうと決めた時、視線の先で女がパタリと転んだ。
あの間抜けな転び方は間違いなく夢主だ。
斎藤は眉間にこれ以上ない深い皺を刻んで駆け寄った。
「いたたっ……」
転んだ拍子、手の平に傷が出来た。
夕べに続き朝からついてない。夢主は手についた土を払った。擦りむけた所に触れるとヒリヒリ痛む。
「あぁ……水がしみそう……」
「全く阿呆だな、夜遊びなんぞするからだ」
「一さん!」
転んだ体に突然手が添えられた。触れられて驚くより先に聞き慣れた声に驚いた。
咎めているが声は優しく、「よっ、お嬢さん」とばかりに口元が笑っている。
「夜遊びだなんて、頑張って起きてたんです」
「夜更かしか。夜遊びと変わらんぞ」
「違います、お世話になった方が旅に出るので、朝一番におにぎりを渡したかったんです。寝ちゃうと起きれないと思ったから夜通し起きて……」
「それでふらふらか、手を見せて見ろ」
「っ……」
手を取られた瞬間、傷がひきつって夢主は顔を歪めた。
斎藤は力を緩め、手に残っている土をそっと払ってやった。
「擦り傷だな。綺麗に洗って家の薬を塗っておけよ。もう転ぶんじゃないぞ」
「大丈夫です、痛みで目が覚めました」
「災い転じて福となす、か。まぁ帰ったらちゃんと寝るんだな」
「へへっ、お昼まで寝るつもりでした」
「全くお前というやつは」
体を支えられて立ち上がり、乱れた着物を整えた。
その一連の動きを見守っていた斎藤は、落ち着いた夢主を確認して頭にぽんと手を置いた。
何はともあれ予定外に妻の顔を見られたのは幸運か。
斎藤は子供をあやすように頭に乗せた手を何度か動かしポンポンと触れた。
「今夜も俺は戻らん。あまり羽目を外すなよ」
「もぉ、夜遊びでも夜更かしでもありませんから」
「フッ、分かったよ。じゃあな」
辺りに誰の気配も感じられない。斎藤は短く口を吸って歩き出した。
「ふふっ、いい夢が見れそう」
すぐに行ってしまった。急いでいたのだろう。それでも間抜けな自分に付き合ってくれたのだ。
嬉しさで顔が緩む。
斎藤の背中が見えなくなるまでその場で見送り、夢主も温かい布団を求めて歩き始めた。
斎藤は早朝の町にいた。
目の前に表れたのは我が妻ではないか。後ろ姿に目を止め、呟いた。
「いや、こんな朝早く起きて出歩けるはずがあるまい。しかし」
ふらふらと家がある方へ歩いていく女。見覚えある姿に見えるが、早起きが苦手な夢主が出歩ける時間ではない。
念の為に道の反対を振り返るが誰の姿も無い。緋村は既に視界に入らぬほど先へ進んでいた。
「まぁいい、家に帰るんだろう。俺はこっちだ」
まさか夢主が緋村剣心に会い、握り飯を渡したとは夢にも思わなかった。
斎藤が緋村と相見えるのは数年後のこと。
斎藤が去ろうと決めた時、視線の先で女がパタリと転んだ。
あの間抜けな転び方は間違いなく夢主だ。
斎藤は眉間にこれ以上ない深い皺を刻んで駆け寄った。
「いたたっ……」
転んだ拍子、手の平に傷が出来た。
夕べに続き朝からついてない。夢主は手についた土を払った。擦りむけた所に触れるとヒリヒリ痛む。
「あぁ……水がしみそう……」
「全く阿呆だな、夜遊びなんぞするからだ」
「一さん!」
転んだ体に突然手が添えられた。触れられて驚くより先に聞き慣れた声に驚いた。
咎めているが声は優しく、「よっ、お嬢さん」とばかりに口元が笑っている。
「夜遊びだなんて、頑張って起きてたんです」
「夜更かしか。夜遊びと変わらんぞ」
「違います、お世話になった方が旅に出るので、朝一番におにぎりを渡したかったんです。寝ちゃうと起きれないと思ったから夜通し起きて……」
「それでふらふらか、手を見せて見ろ」
「っ……」
手を取られた瞬間、傷がひきつって夢主は顔を歪めた。
斎藤は力を緩め、手に残っている土をそっと払ってやった。
「擦り傷だな。綺麗に洗って家の薬を塗っておけよ。もう転ぶんじゃないぞ」
「大丈夫です、痛みで目が覚めました」
「災い転じて福となす、か。まぁ帰ったらちゃんと寝るんだな」
「へへっ、お昼まで寝るつもりでした」
「全くお前というやつは」
体を支えられて立ち上がり、乱れた着物を整えた。
その一連の動きを見守っていた斎藤は、落ち着いた夢主を確認して頭にぽんと手を置いた。
何はともあれ予定外に妻の顔を見られたのは幸運か。
斎藤は子供をあやすように頭に乗せた手を何度か動かしポンポンと触れた。
「今夜も俺は戻らん。あまり羽目を外すなよ」
「もぉ、夜遊びでも夜更かしでもありませんから」
「フッ、分かったよ。じゃあな」
辺りに誰の気配も感じられない。斎藤は短く口を吸って歩き出した。
「ふふっ、いい夢が見れそう」
すぐに行ってしまった。急いでいたのだろう。それでも間抜けな自分に付き合ってくれたのだ。
嬉しさで顔が緩む。
斎藤の背中が見えなくなるまでその場で見送り、夢主も温かい布団を求めて歩き始めた。