32.追想
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主は赤べこで手伝いを終えた帰り道にいた。朝から出続ける欠伸が夜になっても止まらずにいる。
気が引き締まる仕事中はさずかに止まっていたが、陽が傾き始めた空に欠伸が誘われた。
「ふぁああ……あっ!」
大きな欠伸に目を閉じて気を緩めた拍子、よろめき足がもつれ、道の隣を流れる小川に向かって転んでしまった。
幸い手をついたのは土の上。水面まであと少しの距離だった。
「危なかった……」
落ちなくて良かった……
肝を冷やした夢主が立ち上がろうとした時、剣だこが並ぶ男の手が目の前に差し出された。
「危ないでござるよ、この季節水に落ちれば風邪を引くでござ……っお主は」
「ひっ、緋村さん……」
顔を上げるとそこには懐かしい人物がいた。
緋村剣心、全国を流れて世間を見て回る彼が目の前にいる。
自分が殺めた者の家族を巡って謝りたいとも語っていた緋村、手を差し出してくれる彼の目はとても穏やかに緩んでいた。
「さぁ、立てるか」
「はい……ありがとうございます」
手を取り、引っ張られるように立ち上がった。
着物についた土を払い裾を整えて緋村を見ると、赤い髪に茜色の夕陽が溶け込んでいるように美しい。
最後に会ったのは仙台まで土方に会いに行った帰りの道中、敵に囲まれ身動きが取れなくなった時に助けられた。
あの時に受け取った通行証がどれほど役立ったか。
まだ少年と大人の狭間を漂う幼さが顔に残っていたあの日、今はすっかり大人の顔だ。
人懐っこい優しい童顔だが、瞳は数多の苦渋を味わってきた者特有の色を見せていた。
「あの時はありがとうございました。緋村さん東京にいたんですか」
「いや、先程着いたばかりで……立ち話も何だ。夢主殿が嫌でなければどこかで落ち着いて話でも……どうだろうか」
いつかの約束を覚えているだろうか……緋村は少し不安げに酒を含む仕草をして見せた。
奇跡のような約束を忘れるはずもなく、夢主は小さく頷いた。
脳裏に浮かぶは夫の顔。眉間に小さな皺が寄っているのは、この出会いを夫は面白く思わないかもしれないとの思いから。
斎藤は抜刀斎と再会し剣を交える日を望んでいる。
今日の事は伝えない方がいいかもしれない、今はまだ……また一つ秘密が出来てしまった。
「嫌でござるか」
首を傾げて考えている夢主に緋村は無理ならば拙者はこれでと歩き出そうとする。
夢主は「大丈夫です」と緋村を呼び止めた。
「今日は旦那様も帰りませんし、少しだけでしたら……約束しました。約束は守ります。守れない約束はするなと仰る旦那様ですからきっと許してくれます、ふふっ」
「旦那様……結婚しているでござるか。これは驚き……いや、店に入ろう」
話し込んでしまいそうになり、緋村はさぁと夢主を誘った。
店は沢山ある。二人は再会した場のすぐ傍にある呑み処の暖簾をくぐった。
気が引き締まる仕事中はさずかに止まっていたが、陽が傾き始めた空に欠伸が誘われた。
「ふぁああ……あっ!」
大きな欠伸に目を閉じて気を緩めた拍子、よろめき足がもつれ、道の隣を流れる小川に向かって転んでしまった。
幸い手をついたのは土の上。水面まであと少しの距離だった。
「危なかった……」
落ちなくて良かった……
肝を冷やした夢主が立ち上がろうとした時、剣だこが並ぶ男の手が目の前に差し出された。
「危ないでござるよ、この季節水に落ちれば風邪を引くでござ……っお主は」
「ひっ、緋村さん……」
顔を上げるとそこには懐かしい人物がいた。
緋村剣心、全国を流れて世間を見て回る彼が目の前にいる。
自分が殺めた者の家族を巡って謝りたいとも語っていた緋村、手を差し出してくれる彼の目はとても穏やかに緩んでいた。
「さぁ、立てるか」
「はい……ありがとうございます」
手を取り、引っ張られるように立ち上がった。
着物についた土を払い裾を整えて緋村を見ると、赤い髪に茜色の夕陽が溶け込んでいるように美しい。
最後に会ったのは仙台まで土方に会いに行った帰りの道中、敵に囲まれ身動きが取れなくなった時に助けられた。
あの時に受け取った通行証がどれほど役立ったか。
まだ少年と大人の狭間を漂う幼さが顔に残っていたあの日、今はすっかり大人の顔だ。
人懐っこい優しい童顔だが、瞳は数多の苦渋を味わってきた者特有の色を見せていた。
「あの時はありがとうございました。緋村さん東京にいたんですか」
「いや、先程着いたばかりで……立ち話も何だ。夢主殿が嫌でなければどこかで落ち着いて話でも……どうだろうか」
いつかの約束を覚えているだろうか……緋村は少し不安げに酒を含む仕草をして見せた。
奇跡のような約束を忘れるはずもなく、夢主は小さく頷いた。
脳裏に浮かぶは夫の顔。眉間に小さな皺が寄っているのは、この出会いを夫は面白く思わないかもしれないとの思いから。
斎藤は抜刀斎と再会し剣を交える日を望んでいる。
今日の事は伝えない方がいいかもしれない、今はまだ……また一つ秘密が出来てしまった。
「嫌でござるか」
首を傾げて考えている夢主に緋村は無理ならば拙者はこれでと歩き出そうとする。
夢主は「大丈夫です」と緋村を呼び止めた。
「今日は旦那様も帰りませんし、少しだけでしたら……約束しました。約束は守ります。守れない約束はするなと仰る旦那様ですからきっと許してくれます、ふふっ」
「旦那様……結婚しているでござるか。これは驚き……いや、店に入ろう」
話し込んでしまいそうになり、緋村はさぁと夢主を誘った。
店は沢山ある。二人は再会した場のすぐ傍にある呑み処の暖簾をくぐった。