32.追想
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沖田は返事をしなければならず、吉原へ続く道を進んでは戻り、迷いに迷って田んぼ道を行ったり来たりしていた。
早く行かなければ忙しい夜見世が始まってしまう。
意を決して吉原に足を向けた時、背後から呼び止められた。
「よぉ、旦那さん」
「さ、斎藤さん!こんな所でお会いするとは」
旦那さんとは珍しい声掛けだ。廓の者だと思い振り返ると、良く知る細長い人物が立っていた。
見慣れた濃藍の警官制服、斎藤が淋しい田んぼ道をやって来た。
「それはこっちの台詞だ。随分と思い悩んでいるな、さっきから行ったり来たりと。行きたいならさっさと行けばいいだろう」
「見てたんですか」
「見たくなくとも目に入る。吉原から浅草へ向かう見晴らしの良い道だ。こんな所で考え事とは例の水揚げか。沖田君も立派な上客だな」
「なっ!何で知ってるんですか!あの主人っ、喋りましたね!」
「まぁ怒るな、悪いが俺もあの主人とは付き合いがあるんでな。話の流れで俺が気付いただけだ。責めるなよ」
沖田は「あぁぁ!!」と頭を抱えてその場に崩れ落ちた。この男にだけは知られたくなかった。揶揄われるのが落ちだ。
目の前に立つ斎藤は予想通りククッと愉しそうに喉を鳴らしている。
「そんなに落ち込むなよ、いいじゃないか。誰にでも回ってくる役じゃないぜ。そんなに悩むなら俺が変わってやりたい所だがな」
「その気もないくせに、やめてくださいよ……はぁああ、いっそ土方さんが生きていてくれたらなぁ……って、どうして斎藤さんが吉原に向かう道にいるんです!何してるんですか、早く家に帰ってあげてくださいよ!」
こんな所でと呼び止められたがそれはこっちの台詞だと沖田は斎藤を叱った。
大切な人が家で待つというのに遊郭に向かう気か。厳しい顔で抜刀しそうな勢いだ。
「吉原は仕事だ、情報を仕入れに行くのさ。それからまた行く場所がある。家には戻らん」
「本当ですか」
眉を持ち上げ勘違いするなと訴える斎藤。
沖田は真偽を確かめながら鞘に置いた手を離した。嘘では無いと確信が持てる。面白くはないが太い息を吐いて剣気を解いた。
「行かないのか」
「行きますよ、行きますけど貴方と一緒に行くのはごめんです。貴方の背が見えなくなったら向かいますよ」
「好きにしろ」
フンと鼻をならして、斎藤はならば先に行くぞと沖田を置き去った。
一人残された沖田は脱力するように腰を下ろし、傾き始めた陽を眺めた。
早く行かなければ忙しい夜見世が始まってしまう。
意を決して吉原に足を向けた時、背後から呼び止められた。
「よぉ、旦那さん」
「さ、斎藤さん!こんな所でお会いするとは」
旦那さんとは珍しい声掛けだ。廓の者だと思い振り返ると、良く知る細長い人物が立っていた。
見慣れた濃藍の警官制服、斎藤が淋しい田んぼ道をやって来た。
「それはこっちの台詞だ。随分と思い悩んでいるな、さっきから行ったり来たりと。行きたいならさっさと行けばいいだろう」
「見てたんですか」
「見たくなくとも目に入る。吉原から浅草へ向かう見晴らしの良い道だ。こんな所で考え事とは例の水揚げか。沖田君も立派な上客だな」
「なっ!何で知ってるんですか!あの主人っ、喋りましたね!」
「まぁ怒るな、悪いが俺もあの主人とは付き合いがあるんでな。話の流れで俺が気付いただけだ。責めるなよ」
沖田は「あぁぁ!!」と頭を抱えてその場に崩れ落ちた。この男にだけは知られたくなかった。揶揄われるのが落ちだ。
目の前に立つ斎藤は予想通りククッと愉しそうに喉を鳴らしている。
「そんなに落ち込むなよ、いいじゃないか。誰にでも回ってくる役じゃないぜ。そんなに悩むなら俺が変わってやりたい所だがな」
「その気もないくせに、やめてくださいよ……はぁああ、いっそ土方さんが生きていてくれたらなぁ……って、どうして斎藤さんが吉原に向かう道にいるんです!何してるんですか、早く家に帰ってあげてくださいよ!」
こんな所でと呼び止められたがそれはこっちの台詞だと沖田は斎藤を叱った。
大切な人が家で待つというのに遊郭に向かう気か。厳しい顔で抜刀しそうな勢いだ。
「吉原は仕事だ、情報を仕入れに行くのさ。それからまた行く場所がある。家には戻らん」
「本当ですか」
眉を持ち上げ勘違いするなと訴える斎藤。
沖田は真偽を確かめながら鞘に置いた手を離した。嘘では無いと確信が持てる。面白くはないが太い息を吐いて剣気を解いた。
「行かないのか」
「行きますよ、行きますけど貴方と一緒に行くのはごめんです。貴方の背が見えなくなったら向かいますよ」
「好きにしろ」
フンと鼻をならして、斎藤はならば先に行くぞと沖田を置き去った。
一人残された沖田は脱力するように腰を下ろし、傾き始めた陽を眺めた。