3.白い小袖の女
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「それでは僕はこれで」
「すみません、総司さん……お願いしてついて来てもらったのは私なのに、何だか申し訳ないです」
家に辿り着いて、ようやく口を開いた。
塞いだ声でおかしな空気になってしまった事を詫びた。
白い小袖が今は夕陽で橙色に染まって見える。
「いいえ、いいんですよ。ちょっと変な事に巻き込まれちゃっただけですよ」
「はぃ……」
「また話したいことがあれば僕はいつでも聞きますし、夢主ちゃんには斎藤さんもいるでしょ、ねっ」
「あ……」
ここまで沖田が何も聞かなかったのは、夢主に付き合って口を閉ざしていたのもあるが、話を聞いてくれる人物がちゃんといると考えてのことだった。
君が頼るべき人はちゃんと傍にいるでしょう。そんな温かい眼差しを受けて、夢主はまたも申し分けなさそうに眉を寄せた。
「気にしなくていいんです。頼って甘えたらいいですよ、あれでも旦那さんですもの。それでも足りない時はいつでも僕の所に来てくださいねっ、あははっ」
「ふふっ、総司さんてば……ありがとうございます。おやすみなさい……」
優しい冗談に笑い、夢主は門の中へ姿を消した。
「やれやれ……あんな淋しい顔を見せられては、おめおめと帰れないではありませんか……」
……あんな顔は久しぶりだ、斎藤さんが東京へ来る前だって随分と明るく笑っていたのに……
共に過ごした仲間の死に関わる話やその死に触れた時、酷く落ち込み悲しい顔を見せてきた夢主だが、今日は己を責める暗い顔を見せていた。
……一緒には過ごせないけど、せめて傍で……異変があればいつでも声を掛けてあげられるように……
「ま、今日は暖かいし、斎藤さんが戻るまで待ちましょうか」
外で立ち続けては周りの目に留まってしまう。
ひょい、と塀を軽々と乗り越えて、藤田家の門の中、玄関の前で斎藤の帰りを待つことにした。
すっかり日が暮れて、中から聞こえた夢主が起こす生活音もすっかり止んでいた。
雨戸を閉める音も聞こえた。今は中から漏れる光も無い。
斎藤もさすがに警察署を出ているだろう、そう考えて大きな溜息を吐いた。
「……はぁ、遅いなぁ斎藤さんは」
寝ちゃったらもう大丈夫かな……。立ち去ろうかとも考えたが、ここまで待ったのだから待ち人が来て一言残してから帰ろうと思い始めた。
そうして待つうちに、少しずつ苛立ちが湧いてきた。
大変な仕事であり、忙しいのは百も承知だ。しかし共に暮らし始めて早々、こんな遅く帰れるものなのか。
夢主は理解しており、沖田自身も斎藤の任務を分かっているつもりだ。
だが再会を果たしたばかりで傍にいたいはずの夢主の気持ちを想うと、自分のことのように腹立たしかった。
「すみません、総司さん……お願いしてついて来てもらったのは私なのに、何だか申し訳ないです」
家に辿り着いて、ようやく口を開いた。
塞いだ声でおかしな空気になってしまった事を詫びた。
白い小袖が今は夕陽で橙色に染まって見える。
「いいえ、いいんですよ。ちょっと変な事に巻き込まれちゃっただけですよ」
「はぃ……」
「また話したいことがあれば僕はいつでも聞きますし、夢主ちゃんには斎藤さんもいるでしょ、ねっ」
「あ……」
ここまで沖田が何も聞かなかったのは、夢主に付き合って口を閉ざしていたのもあるが、話を聞いてくれる人物がちゃんといると考えてのことだった。
君が頼るべき人はちゃんと傍にいるでしょう。そんな温かい眼差しを受けて、夢主はまたも申し分けなさそうに眉を寄せた。
「気にしなくていいんです。頼って甘えたらいいですよ、あれでも旦那さんですもの。それでも足りない時はいつでも僕の所に来てくださいねっ、あははっ」
「ふふっ、総司さんてば……ありがとうございます。おやすみなさい……」
優しい冗談に笑い、夢主は門の中へ姿を消した。
「やれやれ……あんな淋しい顔を見せられては、おめおめと帰れないではありませんか……」
……あんな顔は久しぶりだ、斎藤さんが東京へ来る前だって随分と明るく笑っていたのに……
共に過ごした仲間の死に関わる話やその死に触れた時、酷く落ち込み悲しい顔を見せてきた夢主だが、今日は己を責める暗い顔を見せていた。
……一緒には過ごせないけど、せめて傍で……異変があればいつでも声を掛けてあげられるように……
「ま、今日は暖かいし、斎藤さんが戻るまで待ちましょうか」
外で立ち続けては周りの目に留まってしまう。
ひょい、と塀を軽々と乗り越えて、藤田家の門の中、玄関の前で斎藤の帰りを待つことにした。
すっかり日が暮れて、中から聞こえた夢主が起こす生活音もすっかり止んでいた。
雨戸を閉める音も聞こえた。今は中から漏れる光も無い。
斎藤もさすがに警察署を出ているだろう、そう考えて大きな溜息を吐いた。
「……はぁ、遅いなぁ斎藤さんは」
寝ちゃったらもう大丈夫かな……。立ち去ろうかとも考えたが、ここまで待ったのだから待ち人が来て一言残してから帰ろうと思い始めた。
そうして待つうちに、少しずつ苛立ちが湧いてきた。
大変な仕事であり、忙しいのは百も承知だ。しかし共に暮らし始めて早々、こんな遅く帰れるものなのか。
夢主は理解しており、沖田自身も斎藤の任務を分かっているつもりだ。
だが再会を果たしたばかりで傍にいたいはずの夢主の気持ちを想うと、自分のことのように腹立たしかった。