32.追想
夢主名前設定
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この頃、佐賀で勃発した騒乱の対処などで政府中枢が騒がしく、密偵もあちこち駆り出されており、東京に残る斎藤も忙しさを極めていた。
二、三日家を空けては夜遅くに帰宅する日が続く。
翌朝いつもと変わらぬ目覚めの良さで夢主を驚かせる、肉体も精神も人並み外れた強堅な夫だ。
「という訳だ。しっかり戸締りしておけよ」
「えっ、どういう訳ですか」
玄関で斎藤が上着に袖を通しながら告げるも夢主には届いていなかった。
外はまだ薄暗く、目が開き切らない夢主はぼんやりした頭で訊き返した。
「寝ぼけてるな……人の話を聞け。今晩も明晩も戻らん。戸締りを」
「わかりました、任せてください!お気をつけて……」
承知しましたと元気に応えるが、寝間着姿の夢主は渡すべき制帽を両手で抱えたまま斎藤を見送ろうとした。
すっ、と長い指が伸びてきて、それに気が付いた。
「ごめんなさいっ、一さっ」
「布団に戻れ、鍵を閉めてからな」
睡眠を欲する温かい体の夢主に口付けて、斎藤は粗相をするくらいならスッキリするまで眠ればいいと布団に戻るよう促した。
夢主は黙って頷き、夫を見送って正直な欲求に応じ、暖かい布団へ戻って行った。
「「はぁ~……」」
広い沖田の屋敷の庭で二人の溜め息が重なった。
思わず互いに「んっ?」と顔を覗く。
「どうかされましたか、総司さん」
「夢主ちゃんこそ何かあったの、元気ないですね」
「元気ないわけじゃなくて寝不足なんです。今朝は一さんが早くて……お布団戻ったけど寝付けなかったんです」
「そうですか、斎藤さんは最近特に忙しいようですね」
「はぃ……総司さんは何の溜め息ですか」
「えぇっ、僕ですか!僕はその、大したことではありませんから、あははっ、いやー参った参った!あははは!僕はちょっと用事がありますので!」
「総司さん……」
沖田は話を誤魔化して足早に去っていった。
まさか楼主に頼まれ水揚げを受けるか迷っているとは言えない。
遊女だろうと初めて男に体を預けることは特別な行い。
儀式とは言え自分がすべきではない、そうは思えど断ればまた別の男がするまでだ。
楼主が選ぶのだから酷い男には当たらないはずだ。
「でも……あぁああ、厄介だなぁ!!」
通りで大声を上げるおかしな男に驚いて、周りの者達は距離を取って通り過ぎた。
沖田はまた一人溜め息を吐いて歩いて行った。
二、三日家を空けては夜遅くに帰宅する日が続く。
翌朝いつもと変わらぬ目覚めの良さで夢主を驚かせる、肉体も精神も人並み外れた強堅な夫だ。
「という訳だ。しっかり戸締りしておけよ」
「えっ、どういう訳ですか」
玄関で斎藤が上着に袖を通しながら告げるも夢主には届いていなかった。
外はまだ薄暗く、目が開き切らない夢主はぼんやりした頭で訊き返した。
「寝ぼけてるな……人の話を聞け。今晩も明晩も戻らん。戸締りを」
「わかりました、任せてください!お気をつけて……」
承知しましたと元気に応えるが、寝間着姿の夢主は渡すべき制帽を両手で抱えたまま斎藤を見送ろうとした。
すっ、と長い指が伸びてきて、それに気が付いた。
「ごめんなさいっ、一さっ」
「布団に戻れ、鍵を閉めてからな」
睡眠を欲する温かい体の夢主に口付けて、斎藤は粗相をするくらいならスッキリするまで眠ればいいと布団に戻るよう促した。
夢主は黙って頷き、夫を見送って正直な欲求に応じ、暖かい布団へ戻って行った。
「「はぁ~……」」
広い沖田の屋敷の庭で二人の溜め息が重なった。
思わず互いに「んっ?」と顔を覗く。
「どうかされましたか、総司さん」
「夢主ちゃんこそ何かあったの、元気ないですね」
「元気ないわけじゃなくて寝不足なんです。今朝は一さんが早くて……お布団戻ったけど寝付けなかったんです」
「そうですか、斎藤さんは最近特に忙しいようですね」
「はぃ……総司さんは何の溜め息ですか」
「えぇっ、僕ですか!僕はその、大したことではありませんから、あははっ、いやー参った参った!あははは!僕はちょっと用事がありますので!」
「総司さん……」
沖田は話を誤魔化して足早に去っていった。
まさか楼主に頼まれ水揚げを受けるか迷っているとは言えない。
遊女だろうと初めて男に体を預けることは特別な行い。
儀式とは言え自分がすべきではない、そうは思えど断ればまた別の男がするまでだ。
楼主が選ぶのだから酷い男には当たらないはずだ。
「でも……あぁああ、厄介だなぁ!!」
通りで大声を上げるおかしな男に驚いて、周りの者達は距離を取って通り過ぎた。
沖田はまた一人溜め息を吐いて歩いて行った。