32.追想
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「わぁ……凄いやぁ」
飛び出してすぐに人々が沖田の行く手を阻んだ。花魁道中を見ようと廓内の人々が集まっていたのだ。
向かいの赤猫楼で一番名を馳せている昼三・華焔の花魁道中が始まろうとしていた。
花魁道中を見るのは初めてではないが、二階座敷の格子からいつも眺めている赤猫楼の花魁道中に立ち会うのは初めてだ。
普段は静かな昼見世か、夜見世もすっかり客が入ってしまった後にやってくる事が多い。
沖田は折角の珍しい光景を目におさめようと小柄な体を活かして人の間をすり抜けた。
「おっ……」
噂の昼三が赤猫楼から表通りへ姿を現し、凛とした立ち姿を人々に披露する。
まさにその瞬間に立ち会った沖田、物見の男に目もくれない華焔と偶然にも目が合った。
駒形由美という本来の名を伏せて生きる華焔。
瞬き一つにまで最高位の女としての誇りが込められている、そんな美しい立ち居振る舞いだ。
陶器で出来ているのだろうか、そう思わせるほど白く整った肌、自信に満ちた目は力が満ち、きゅっと閉ざされた唇は品ある色香を放っている。
下唇は何度も重ねられた笹色紅が玉虫色に輝いていた。
「綺麗な人だ……花魁……昼三かぁ、でも僕は別に興味ないなぁ……」
ぽろりと漏れてしまった本音、目が合う華焔の表情に変化はない。すぅと体の向きを変え、前を見据えて静かに花魁道中の象徴である外八文字歩きを始めた。
華焔自身はなんら反応を示さなかったが、その周りを固める新造や禿からは厳しい視線が向けられた。
慌てて取り繕うように頭を掻くが、今度は頬を膨らませて睨みつけてくる新造と目が合った。沖田好みの素直に感情を顔に表す愛らしい娘だ。
「あははっ、どうもすみません。僕は新造さんの方が好みだな」
続けて口を滑らせてしまい、二度目の睨みが向けられた。
姐さんを差し置いて褒められた新造は不機嫌を表すが頬を染めてあたふた慌てている。
姉貴分である華焔が顔は微塵も動かさず、「華火、見るんじゃないよ……」と野次馬達には届かぬ声で告げた。
「はぁい、姐さぁん、すみませぇん」
華火は小さく謝り、平静を取り戻して道中に戻った。
沖田は暫く詫びる気持ちで両手を合わせ、それから昼三と新造の二人を交互に見守った。
「やけにゆっくり喋る子だったなぁ」
気付けば既に見えるは背中だけ、そこまで花魁道中を見送って呟いた。
気高く品ある花魁、妹分の新造は単純そうな可愛らしい娘。
何とも不釣り合いだったが仲は良さそうだ……沖田は感じたものに「うんうん」と笑顔で頷いた。
しかし吉原の大門をくぐり田んぼ道を歩くうち、依頼された厄介ごとを思い出す。
再びこうべを垂れて、唸りながら帰路を行った。
飛び出してすぐに人々が沖田の行く手を阻んだ。花魁道中を見ようと廓内の人々が集まっていたのだ。
向かいの赤猫楼で一番名を馳せている昼三・華焔の花魁道中が始まろうとしていた。
花魁道中を見るのは初めてではないが、二階座敷の格子からいつも眺めている赤猫楼の花魁道中に立ち会うのは初めてだ。
普段は静かな昼見世か、夜見世もすっかり客が入ってしまった後にやってくる事が多い。
沖田は折角の珍しい光景を目におさめようと小柄な体を活かして人の間をすり抜けた。
「おっ……」
噂の昼三が赤猫楼から表通りへ姿を現し、凛とした立ち姿を人々に披露する。
まさにその瞬間に立ち会った沖田、物見の男に目もくれない華焔と偶然にも目が合った。
駒形由美という本来の名を伏せて生きる華焔。
瞬き一つにまで最高位の女としての誇りが込められている、そんな美しい立ち居振る舞いだ。
陶器で出来ているのだろうか、そう思わせるほど白く整った肌、自信に満ちた目は力が満ち、きゅっと閉ざされた唇は品ある色香を放っている。
下唇は何度も重ねられた笹色紅が玉虫色に輝いていた。
「綺麗な人だ……花魁……昼三かぁ、でも僕は別に興味ないなぁ……」
ぽろりと漏れてしまった本音、目が合う華焔の表情に変化はない。すぅと体の向きを変え、前を見据えて静かに花魁道中の象徴である外八文字歩きを始めた。
華焔自身はなんら反応を示さなかったが、その周りを固める新造や禿からは厳しい視線が向けられた。
慌てて取り繕うように頭を掻くが、今度は頬を膨らませて睨みつけてくる新造と目が合った。沖田好みの素直に感情を顔に表す愛らしい娘だ。
「あははっ、どうもすみません。僕は新造さんの方が好みだな」
続けて口を滑らせてしまい、二度目の睨みが向けられた。
姐さんを差し置いて褒められた新造は不機嫌を表すが頬を染めてあたふた慌てている。
姉貴分である華焔が顔は微塵も動かさず、「華火、見るんじゃないよ……」と野次馬達には届かぬ声で告げた。
「はぁい、姐さぁん、すみませぇん」
華火は小さく謝り、平静を取り戻して道中に戻った。
沖田は暫く詫びる気持ちで両手を合わせ、それから昼三と新造の二人を交互に見守った。
「やけにゆっくり喋る子だったなぁ」
気付けば既に見えるは背中だけ、そこまで花魁道中を見送って呟いた。
気高く品ある花魁、妹分の新造は単純そうな可愛らしい娘。
何とも不釣り合いだったが仲は良さそうだ……沖田は感じたものに「うんうん」と笑顔で頷いた。
しかし吉原の大門をくぐり田んぼ道を歩くうち、依頼された厄介ごとを思い出す。
再びこうべを垂れて、唸りながら帰路を行った。