30.後悔のあと
夢主名前設定
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真っ暗な部屋の中、座敷に倒れた夢主は斎藤が帰った物音で意識を取り戻した。
雨戸も障子も開け放ったまま暗い部屋で無造作に寝転がる妻、斎藤は嫌な予感がしてそばに駆け寄った。
「どうした布団も敷かずに。具合でも悪いのか、賊でも入ったか」
「いいえ……ただ少し眩暈が……」
自分の家で目を覚ました夢主は心が塞いだ。蒼紫が自分を気絶させ運んだ事実を知る。意識を奪ったのは蒼紫の最後の通告。
それでも陶器は受け取ってくれた。
折に触れて目に入り京にいた頃を思い出してくれたら、京に留まった御庭番衆の皆との日々や修行に励んだ頃を思い出してくれれば何かが変わるかもしれない。
でも、それが斎藤の行く末に悪い影響を与えませんように……夢主は複雑な想いで起き上がった。
近い記憶を辿る様子の妻を訝しむ斎藤。部屋に明かりを灯し、庭に目を向けるが足跡などは残っていない。
「雨戸を閉めるぞ」
「はぃ……」
んっ……庭先に出た斎藤が何かに気が付いた。
ちっと密かに舌打ちをし、その何かを指先で潰して散らした。
「どうかしましたか、一さん……」
「何でもない。季節外れの虫だ」
庭に散らした紫色の小さな花はすぐに枯れて色を失うだろう。それ以前に土に紛れて見えなくなるか、風に飛ばされどこかへ消える。
夢主の気付く場所ではなくこんな所へ置き去られた藤の花、屑になった花の欠片を見て斎藤は小さな溜め息を吐いた。
それは「しっかり目を付けておけ」と若造からのお節介な伝言か、それとも別の警告か。
「やれやれ」
斎藤が溜め息を吐く後ろで夢主が立ち上がると、帯から何かが転げ落ちた。
拾い上げて小さな落とし物を手の平に乗せて確かめると、それは蒼紫に渡したはずの陶器だった。返されていたのだ。
「駄目だった……」
「大丈夫か、それは」
雨戸を閉めた斎藤が戻り、そばへ座り込んだ。
夢主は手の平を見つめて悲しげに目を伏せて動かない。
「総司さんに借りてたんです……お守りに……今回の件が済むまでのお守りに……だから明日にでもお返しします」
「夢主……」
「駄目でした、一さん……やっぱり私じゃ何も出来ない、何も出来ないどころか私……酷いことを」
「どうした、何があった」
「伝えれば良かったんです、私の秘密を知ってる人になら話しても良かったはずなのに何も言えずに、まるで見殺しにするみたいに助けてあげられなかった……」
陶器も受け取ってくれなかった……当たり前だ、夢主の気が済むだけであの人には何の意味も無い品、だから返された。当たり前の行為だった。
夢主は記憶から自己満足のえせ正義と言い放った斎藤の言葉を思い出した。
雨戸も障子も開け放ったまま暗い部屋で無造作に寝転がる妻、斎藤は嫌な予感がしてそばに駆け寄った。
「どうした布団も敷かずに。具合でも悪いのか、賊でも入ったか」
「いいえ……ただ少し眩暈が……」
自分の家で目を覚ました夢主は心が塞いだ。蒼紫が自分を気絶させ運んだ事実を知る。意識を奪ったのは蒼紫の最後の通告。
それでも陶器は受け取ってくれた。
折に触れて目に入り京にいた頃を思い出してくれたら、京に留まった御庭番衆の皆との日々や修行に励んだ頃を思い出してくれれば何かが変わるかもしれない。
でも、それが斎藤の行く末に悪い影響を与えませんように……夢主は複雑な想いで起き上がった。
近い記憶を辿る様子の妻を訝しむ斎藤。部屋に明かりを灯し、庭に目を向けるが足跡などは残っていない。
「雨戸を閉めるぞ」
「はぃ……」
んっ……庭先に出た斎藤が何かに気が付いた。
ちっと密かに舌打ちをし、その何かを指先で潰して散らした。
「どうかしましたか、一さん……」
「何でもない。季節外れの虫だ」
庭に散らした紫色の小さな花はすぐに枯れて色を失うだろう。それ以前に土に紛れて見えなくなるか、風に飛ばされどこかへ消える。
夢主の気付く場所ではなくこんな所へ置き去られた藤の花、屑になった花の欠片を見て斎藤は小さな溜め息を吐いた。
それは「しっかり目を付けておけ」と若造からのお節介な伝言か、それとも別の警告か。
「やれやれ」
斎藤が溜め息を吐く後ろで夢主が立ち上がると、帯から何かが転げ落ちた。
拾い上げて小さな落とし物を手の平に乗せて確かめると、それは蒼紫に渡したはずの陶器だった。返されていたのだ。
「駄目だった……」
「大丈夫か、それは」
雨戸を閉めた斎藤が戻り、そばへ座り込んだ。
夢主は手の平を見つめて悲しげに目を伏せて動かない。
「総司さんに借りてたんです……お守りに……今回の件が済むまでのお守りに……だから明日にでもお返しします」
「夢主……」
「駄目でした、一さん……やっぱり私じゃ何も出来ない、何も出来ないどころか私……酷いことを」
「どうした、何があった」
「伝えれば良かったんです、私の秘密を知ってる人になら話しても良かったはずなのに何も言えずに、まるで見殺しにするみたいに助けてあげられなかった……」
陶器も受け取ってくれなかった……当たり前だ、夢主の気が済むだけであの人には何の意味も無い品、だから返された。当たり前の行為だった。
夢主は記憶から自己満足のえせ正義と言い放った斎藤の言葉を思い出した。