30.後悔のあと
夢主名前設定
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翌日も武田の豪邸にやってきた夢主は恐る恐る門番の前に歩み出た。
恵が出てくるのを待っては今日もすぐに終わってしまう。ならばいっそ客人を装おうと正面から訪れたのだ。
心臓が激しく鳴るのを抑えて堂々と振舞う。
「こちらにお住いの高荷恵の客人です。どうかお通しを」
突然の訪問者を訝しみ、門番の男達は厳つい顔を強張らせて夢主を上から下まで観察した。
どうにでも出来そうなただの女だ。怪しい気配はないが連絡にない客人を通せない。
「悪いが聞いていない」
「それはそうです、会津から出てきたと知ったばかりなんですから。一度確認をお願いします、少し故郷の話をして帰りますので本人に聞いてみてください」
「残念だが今は忙しくてな、医者にそんな時間はねぇんだよ。武田さんの言いつけだ、医者の客人は通さねぇ」
「そんな……」
「どうしてもって言うんなら俺の客人として中に入れてやろうか、意味が分かるんだったらいいぜ、たっぷり接待してやる」
「やっ……結構です!伝えてください、夢主がいつでも待っていますと」
「夢主さんかい、好い名前だな。分かったぜ」
「っやぁっ!!」
男が言いながら卑しい目を見せ強引に手を引っ張った。夢主は悲鳴を上げ、手を振りほどき逃げ出した。
正面突破は当然の結果となってしまった。
「怖かった……もう変な人ばっかり……」
触れられた手の感触を消そうと着物に手を擦りつけていると、いきなり大きな影が降りて来た。
屋敷に来る者は全て観察しているのか、現れたのは蒼紫だった。
「蒼紫様……」
「貴様もしつこいな」
温かみのない瞳で蒼紫は夢主を見下ろした。
何も期待するなと冷たく向けられる視線。しかし、夢主は蒼紫の賢さを頼るしかないと決意し、最後の望みを託そうとした。
恵は信じてくれなかった阿片の話も蒼紫なら既に情報を掴んでおり聞いてくれるかもしれない。
阿片密売で稼いだ金で武器商人を目指している事も理解してくれるのでは。
「蒼紫様、この屋敷は危険です。ご存知なのではありませんか、武田さんがしている事を……阿片の……」
蒼紫に全てを打ち明けようとした決意、だが急に夢主の中の記憶が激しく渦巻き始めそれを止めてしまった。
劇薬に犯されたように体が固まってしまう。言葉が続かずに瞳孔が広がった瞳で目の前の凛々しい顔を見つめた。
蒼紫は仲間を失う事で一度は修羅に堕ちてしまう。けれど、それをきっかけに強さを手に入れる。
緋村剣心との戦いで彼が目を覚ます場所は志々雄のアジト、正気に戻った蒼紫は正しいと信じて剣心とそして斎藤の助けに回る。
志々雄の剣に倒れた剣心と仲間……斎藤が立ち上がるまでの時間を作ってくれるのだ。
もしも蒼紫が新たな力を身につけなければ……剣心を捜して志々雄のアジトに入らなければ……倒れた斎藤の前に立ちはだかってくれなければ……。
「嫌……」
砕ける何かを想像してしまった夢主は不意に込み上げる涙を堪えて懐から花びらの陶器を取り出した。
「何だこれは」
「お守り……です……」
私は皆の救いよりもたった一人の確かな未来を求めようとしている……夫である斎藤の確かな未来を……。
陶器を差し出す手が震えている。蒼紫にその震えの意味は分からない。
「こんな……小さなものですけど、何人もの方が大事に持ってくださって……心の支えになったと言ってくれました。貴方には通じないかもしれませんが……それでも、気休めにでも」
「気休めなどいらぬ」
拒絶された夢主は手を握り陶器を包み込んだ。
幾度も恩人になってくれた目の前の男を暗い未来から救いたい、恵を辛い目に合わせたくない。
……助けたい、救いたい……でも、
多くの感情が渦になり夢主を襲い、溢れた感情が涙になり現れた。ほろほろと雫をこぼし頬を濡らす夢主は自責の念で押し潰されそうだった。
思考が止まり、口から出る言葉がこの先の出来事ではなく、ただの危うい言葉に変わってしまった。
恵が出てくるのを待っては今日もすぐに終わってしまう。ならばいっそ客人を装おうと正面から訪れたのだ。
心臓が激しく鳴るのを抑えて堂々と振舞う。
「こちらにお住いの高荷恵の客人です。どうかお通しを」
突然の訪問者を訝しみ、門番の男達は厳つい顔を強張らせて夢主を上から下まで観察した。
どうにでも出来そうなただの女だ。怪しい気配はないが連絡にない客人を通せない。
「悪いが聞いていない」
「それはそうです、会津から出てきたと知ったばかりなんですから。一度確認をお願いします、少し故郷の話をして帰りますので本人に聞いてみてください」
「残念だが今は忙しくてな、医者にそんな時間はねぇんだよ。武田さんの言いつけだ、医者の客人は通さねぇ」
「そんな……」
「どうしてもって言うんなら俺の客人として中に入れてやろうか、意味が分かるんだったらいいぜ、たっぷり接待してやる」
「やっ……結構です!伝えてください、夢主がいつでも待っていますと」
「夢主さんかい、好い名前だな。分かったぜ」
「っやぁっ!!」
男が言いながら卑しい目を見せ強引に手を引っ張った。夢主は悲鳴を上げ、手を振りほどき逃げ出した。
正面突破は当然の結果となってしまった。
「怖かった……もう変な人ばっかり……」
触れられた手の感触を消そうと着物に手を擦りつけていると、いきなり大きな影が降りて来た。
屋敷に来る者は全て観察しているのか、現れたのは蒼紫だった。
「蒼紫様……」
「貴様もしつこいな」
温かみのない瞳で蒼紫は夢主を見下ろした。
何も期待するなと冷たく向けられる視線。しかし、夢主は蒼紫の賢さを頼るしかないと決意し、最後の望みを託そうとした。
恵は信じてくれなかった阿片の話も蒼紫なら既に情報を掴んでおり聞いてくれるかもしれない。
阿片密売で稼いだ金で武器商人を目指している事も理解してくれるのでは。
「蒼紫様、この屋敷は危険です。ご存知なのではありませんか、武田さんがしている事を……阿片の……」
蒼紫に全てを打ち明けようとした決意、だが急に夢主の中の記憶が激しく渦巻き始めそれを止めてしまった。
劇薬に犯されたように体が固まってしまう。言葉が続かずに瞳孔が広がった瞳で目の前の凛々しい顔を見つめた。
蒼紫は仲間を失う事で一度は修羅に堕ちてしまう。けれど、それをきっかけに強さを手に入れる。
緋村剣心との戦いで彼が目を覚ます場所は志々雄のアジト、正気に戻った蒼紫は正しいと信じて剣心とそして斎藤の助けに回る。
志々雄の剣に倒れた剣心と仲間……斎藤が立ち上がるまでの時間を作ってくれるのだ。
もしも蒼紫が新たな力を身につけなければ……剣心を捜して志々雄のアジトに入らなければ……倒れた斎藤の前に立ちはだかってくれなければ……。
「嫌……」
砕ける何かを想像してしまった夢主は不意に込み上げる涙を堪えて懐から花びらの陶器を取り出した。
「何だこれは」
「お守り……です……」
私は皆の救いよりもたった一人の確かな未来を求めようとしている……夫である斎藤の確かな未来を……。
陶器を差し出す手が震えている。蒼紫にその震えの意味は分からない。
「こんな……小さなものですけど、何人もの方が大事に持ってくださって……心の支えになったと言ってくれました。貴方には通じないかもしれませんが……それでも、気休めにでも」
「気休めなどいらぬ」
拒絶された夢主は手を握り陶器を包み込んだ。
幾度も恩人になってくれた目の前の男を暗い未来から救いたい、恵を辛い目に合わせたくない。
……助けたい、救いたい……でも、
多くの感情が渦になり夢主を襲い、溢れた感情が涙になり現れた。ほろほろと雫をこぼし頬を濡らす夢主は自責の念で押し潰されそうだった。
思考が止まり、口から出る言葉がこの先の出来事ではなく、ただの危うい言葉に変わってしまった。