3.白い小袖の女
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「斎藤さんに言われたものも揃ったし、良かったです」
家路に就く二人、川を越える途中、川を吹き抜ける風に思わず立ち止まった。
肩に掛かるショールが煽られ、咄嗟に飛ばされないよう荷物を抱えた手で押さえると、ショールは風に乗って大きくはためいた。
辺りより小高い橋の上、白い小袖の女が光風を受けて黒い艶髪をなびかせて立つ。
体に掛かる紅桔梗色のショールが広って揺れるさまは幻想的で、天女が舞い降り佇んでいるように見えたかもしれない。
「姉ちゃん……」
「え……」
小さな声が掛かり、強い視線を感じた夢主は太陽の光を背に振り向いた。
「こど……も……」
「姉ちゃん、こんな所にいたんだね……こんな所に……」
振り向く際に目を突いた太陽の白い光、ちかちかする視界の中、沖田より背丈が低い人の姿が見えた。
「白髪の子供……」
沖田の呟きが耳に届き、夢主はその人物を確信した。
視界が落ち着いて見えた姿は子供で、真っ白な、未だ幼い顔に不釣合いな色の髪を風に揺らしていた。
「えに……し」
上海に渡る前の雪代縁。夢主は目を見開いて固まった。時折強くなる風にショールがはたはたと音を立てて揺れている。
沖田は事情が飲み込めないが、子供の反応とその理由に気付いている様子の夢主を見守っていた。
「姉ちゃん……」
「ぁ……」
「姉ちゃんだろ、」
驚いた様子で立ち竦んでいた子供も逆光の眩しさに目が慣れたのか、顔色を変え始めた。
「姉ちゃん……違う、姉ちゃんじゃない……姉ちゃんじゃ……」
目の前の小さな体はがくがくと震えだし、拳を握り顔を伏せると、悲しみと怒りの感情を溢し始めた。
漏れる気の激しさに、見ている夢主の手足までもが震え出した。
「どこに行っちまったんだよ、姉ちゃん……姉ちゃん……」
「あ……」
何とかしなければ、声を掛けなければと力を振り絞るが、喜びから悲しみへ、悲しみから憎悪へ、子供が放つ憎しみに満ちた気に気圧されて、言葉を掛けられなかった。
「姉ちゃんは死んだんだ、姉ちゃんは死んだんだ!死んだんだ!!殺されたんだ!!!あの十字傷に!!!うあぁあああ!!!」
「っ!!」
……幸せな奴らなんて見たくも無い!!幸せに笑っている奴らなんて!!……
「ちきしょーー!!!」
子供は突然叫んで突進し、夢主に体当たりをしようとするが沖田に阻まれ、怒号を残して走り抜けた。
小さな背中はすぐに見えなくなってしまった。
「夢主ちゃん!」
「大丈夫です……」
「でも顔が青いですよ……十字傷ってまさか」
「……私からは何も……きっと止めなきゃいけなかったんです」
「夢主ちゃん?あの子を知っているんですか」
「雪代縁、京都で一度……総司さんも一緒に会ったことが……」
「京都で……あぁっ、あの……あの時も突然ぶつかってきた!あの時は髪が黒かったから気付きませんでした……確かにあのつり上がった目と何かに怒っている目は変わりませんね。それにしても夢主ちゃんを姉ちゃんとは」
「きっと今日の装いのせいです。あの子は私が止めなきゃいけなかった……きっと私の役目だったんです。だから京でも、ここでも……会えたのに……」
「あんなに慌ててどこへ……」
「港……」
「港?まさか船へ、あんな子供が?」
姉の後を追い江戸から京へ入った雪代縁。
その姉を失った後に勃発した戊辰戦争、その最中に剣心の姿を確認した縁は、そのまま上海へ渡ったものだと思っていた。
姉に帰れといわれた縁は最後の言葉を叶える為に江戸に戻ったのだろうか。その頃にはまだ父親が江戸にいだのだろうか。
もしかしたら父と喧嘩別れをして、今まさに上海を目指しているのかもしれない。
……力をつけて、剣心を仇と思い人誅の為に帰ってくる……一さんをも悩ませる存在に……
家路に就く二人、川を越える途中、川を吹き抜ける風に思わず立ち止まった。
肩に掛かるショールが煽られ、咄嗟に飛ばされないよう荷物を抱えた手で押さえると、ショールは風に乗って大きくはためいた。
辺りより小高い橋の上、白い小袖の女が光風を受けて黒い艶髪をなびかせて立つ。
体に掛かる紅桔梗色のショールが広って揺れるさまは幻想的で、天女が舞い降り佇んでいるように見えたかもしれない。
「姉ちゃん……」
「え……」
小さな声が掛かり、強い視線を感じた夢主は太陽の光を背に振り向いた。
「こど……も……」
「姉ちゃん、こんな所にいたんだね……こんな所に……」
振り向く際に目を突いた太陽の白い光、ちかちかする視界の中、沖田より背丈が低い人の姿が見えた。
「白髪の子供……」
沖田の呟きが耳に届き、夢主はその人物を確信した。
視界が落ち着いて見えた姿は子供で、真っ白な、未だ幼い顔に不釣合いな色の髪を風に揺らしていた。
「えに……し」
上海に渡る前の雪代縁。夢主は目を見開いて固まった。時折強くなる風にショールがはたはたと音を立てて揺れている。
沖田は事情が飲み込めないが、子供の反応とその理由に気付いている様子の夢主を見守っていた。
「姉ちゃん……」
「ぁ……」
「姉ちゃんだろ、」
驚いた様子で立ち竦んでいた子供も逆光の眩しさに目が慣れたのか、顔色を変え始めた。
「姉ちゃん……違う、姉ちゃんじゃない……姉ちゃんじゃ……」
目の前の小さな体はがくがくと震えだし、拳を握り顔を伏せると、悲しみと怒りの感情を溢し始めた。
漏れる気の激しさに、見ている夢主の手足までもが震え出した。
「どこに行っちまったんだよ、姉ちゃん……姉ちゃん……」
「あ……」
何とかしなければ、声を掛けなければと力を振り絞るが、喜びから悲しみへ、悲しみから憎悪へ、子供が放つ憎しみに満ちた気に気圧されて、言葉を掛けられなかった。
「姉ちゃんは死んだんだ、姉ちゃんは死んだんだ!死んだんだ!!殺されたんだ!!!あの十字傷に!!!うあぁあああ!!!」
「っ!!」
……幸せな奴らなんて見たくも無い!!幸せに笑っている奴らなんて!!……
「ちきしょーー!!!」
子供は突然叫んで突進し、夢主に体当たりをしようとするが沖田に阻まれ、怒号を残して走り抜けた。
小さな背中はすぐに見えなくなってしまった。
「夢主ちゃん!」
「大丈夫です……」
「でも顔が青いですよ……十字傷ってまさか」
「……私からは何も……きっと止めなきゃいけなかったんです」
「夢主ちゃん?あの子を知っているんですか」
「雪代縁、京都で一度……総司さんも一緒に会ったことが……」
「京都で……あぁっ、あの……あの時も突然ぶつかってきた!あの時は髪が黒かったから気付きませんでした……確かにあのつり上がった目と何かに怒っている目は変わりませんね。それにしても夢主ちゃんを姉ちゃんとは」
「きっと今日の装いのせいです。あの子は私が止めなきゃいけなかった……きっと私の役目だったんです。だから京でも、ここでも……会えたのに……」
「あんなに慌ててどこへ……」
「港……」
「港?まさか船へ、あんな子供が?」
姉の後を追い江戸から京へ入った雪代縁。
その姉を失った後に勃発した戊辰戦争、その最中に剣心の姿を確認した縁は、そのまま上海へ渡ったものだと思っていた。
姉に帰れといわれた縁は最後の言葉を叶える為に江戸に戻ったのだろうか。その頃にはまだ父親が江戸にいだのだろうか。
もしかしたら父と喧嘩別れをして、今まさに上海を目指しているのかもしれない。
……力をつけて、剣心を仇と思い人誅の為に帰ってくる……一さんをも悩ませる存在に……