1.コトハジメ
夢主名前設定
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「その着物」
斎藤は夢主の姿を見つけた時から気になっていた、小さな身を包む着物を話題にした。
自らが渡した再会の約束の品、すっかり夢主に馴染んでいるが、くだびれてもいた。
「はぃ、一さんのくださった物です。毎日のように着てすっかりくたびれちゃいましたけど、気に入ってるんです」
「毎日とは、替えの着物くらいあるだろうに。金も渡しただろう」
「はいっ、でもほとんどそのまま残ってるんです。もちろん替えの着物はありますけど、一さんが戻ってくれた時にこの着物を着ていたかったので、たまに干すくらいで……」
「そうか、また新しい小袖でも仕立てるか」
「ありがとうございます。でもこの着物は凄く気に入ってるんですよ……優しい色が可愛くて、しっかりした作りで……」
「そうか。ならば約束通り、今度それの紋を書き足すか」
「はい!くたびれていても構いません、入れて欲しいです、覗き紋を一さんの九枚笹に……一さんのくれたこの着物に……」
「フン、心配せずとも紋入れに出してやる。替わりの着物は足りるのか」
「はい、この道場に残っていた品を自由にしてよいと大家さんが言ってくださって、私が着れる小袖も色々と残っていたんです。落ち着いた色が多かったですけど、綺麗な紅色に水色、辛子みたいな黄色……」
「黄八丈か」
「黄八丈?その黄色の他にも、真新しい白い小袖も……綺麗な物を沢山いただきました」
「そうか、良かったな」
江戸で流行った色から町着には珍しい白い小袖まで、替えに困らないだけの着物を手にしていた。
話の合間に口へ運んだおにぎりは早くも無くなり、斎藤は湯飲みを手にしてお茶をゆっくり喉に通した。
「お前、仙台へ行ったそうだな。会えたのか」
沖田に話を聞き、確認したかったのが仙台行きの話だった。
良くも悪くも関わりのあった男と最後に会い、話が出来たのか。
斎藤も認めていた土方歳三は夢主にどんな話を残したのか、少なからず気になった。
「はい……最後にお会いしました。仙台でお別れを……俺達の新しい日本を作ってみせると話していました。最後まで、とても真っ直ぐな目で……まるで夢を追って海を渡るみたいでした……」
「そうか」
「一さんのことも話していましたよっ!」
「俺のことを、どんな話だ」
「ふふっ……斎藤は優しい奴だ……って」
懐かしい顔を思い出した斎藤は褒められた照れ隠しに、フンと鼻をならして目を逸らした。
男として認めていた者から褒められるのはどうにもくすぐったいと思ったのだ。
「それで、夢に出てきてくれたんです、最期のっ……時にっ……」
「最期の時」
夢主は言葉に詰まり、唇を噛み締めて頷いた。
涙声になり口を噤んでしまった夢主に変わり、沖田が話を繋いだ。
「僕の夢にも出て来てくれたんですよ、いつまでも笑ってろと!ははっ、それで、夢主ちゃんを……甘やかしてやれと……」
「そうか……」
「斎藤さんの夢には、土方さん出てきませんでしたか」
「さぁな、覚えていないさ。会津ではいい夢を見た記憶が無いからな」
「そうでしたか、でもきっと斎藤さんにも会ってから……逝ったと思いますよ」
「フン……」
会津で降伏してからは確かに死ぬほど眠った日もあった。
寝ずに過ごした戦の日々の眠りを取り戻すような日々だった。
しかし落ち着いて得る眠りにも関わらず、夢に現れるのは戦場の悪夢ばかり。
たまに京の夢を見たと思ったら、輝いていたはずの日々が血と泥で塗り替えられた恐ろしい幻影となり現れた。
やっと手にしたはずの夢主を目の前で失う夢を何度見たか。
刃や弓に襲われる夢主、敵に捕まり連れて行かれる夢主、そして男共に嬲られる夢主をどうにも出来ず、ただ手を伸ばすだけの夢。思い返すだけで虫唾が走った。
……そんな夢は、到底口に出来まい……
「そういえば……」
黙って横目に何かを考えていた斎藤がふと顔を上げた。
斎藤は夢主の姿を見つけた時から気になっていた、小さな身を包む着物を話題にした。
自らが渡した再会の約束の品、すっかり夢主に馴染んでいるが、くだびれてもいた。
「はぃ、一さんのくださった物です。毎日のように着てすっかりくたびれちゃいましたけど、気に入ってるんです」
「毎日とは、替えの着物くらいあるだろうに。金も渡しただろう」
「はいっ、でもほとんどそのまま残ってるんです。もちろん替えの着物はありますけど、一さんが戻ってくれた時にこの着物を着ていたかったので、たまに干すくらいで……」
「そうか、また新しい小袖でも仕立てるか」
「ありがとうございます。でもこの着物は凄く気に入ってるんですよ……優しい色が可愛くて、しっかりした作りで……」
「そうか。ならば約束通り、今度それの紋を書き足すか」
「はい!くたびれていても構いません、入れて欲しいです、覗き紋を一さんの九枚笹に……一さんのくれたこの着物に……」
「フン、心配せずとも紋入れに出してやる。替わりの着物は足りるのか」
「はい、この道場に残っていた品を自由にしてよいと大家さんが言ってくださって、私が着れる小袖も色々と残っていたんです。落ち着いた色が多かったですけど、綺麗な紅色に水色、辛子みたいな黄色……」
「黄八丈か」
「黄八丈?その黄色の他にも、真新しい白い小袖も……綺麗な物を沢山いただきました」
「そうか、良かったな」
江戸で流行った色から町着には珍しい白い小袖まで、替えに困らないだけの着物を手にしていた。
話の合間に口へ運んだおにぎりは早くも無くなり、斎藤は湯飲みを手にしてお茶をゆっくり喉に通した。
「お前、仙台へ行ったそうだな。会えたのか」
沖田に話を聞き、確認したかったのが仙台行きの話だった。
良くも悪くも関わりのあった男と最後に会い、話が出来たのか。
斎藤も認めていた土方歳三は夢主にどんな話を残したのか、少なからず気になった。
「はい……最後にお会いしました。仙台でお別れを……俺達の新しい日本を作ってみせると話していました。最後まで、とても真っ直ぐな目で……まるで夢を追って海を渡るみたいでした……」
「そうか」
「一さんのことも話していましたよっ!」
「俺のことを、どんな話だ」
「ふふっ……斎藤は優しい奴だ……って」
懐かしい顔を思い出した斎藤は褒められた照れ隠しに、フンと鼻をならして目を逸らした。
男として認めていた者から褒められるのはどうにもくすぐったいと思ったのだ。
「それで、夢に出てきてくれたんです、最期のっ……時にっ……」
「最期の時」
夢主は言葉に詰まり、唇を噛み締めて頷いた。
涙声になり口を噤んでしまった夢主に変わり、沖田が話を繋いだ。
「僕の夢にも出て来てくれたんですよ、いつまでも笑ってろと!ははっ、それで、夢主ちゃんを……甘やかしてやれと……」
「そうか……」
「斎藤さんの夢には、土方さん出てきませんでしたか」
「さぁな、覚えていないさ。会津ではいい夢を見た記憶が無いからな」
「そうでしたか、でもきっと斎藤さんにも会ってから……逝ったと思いますよ」
「フン……」
会津で降伏してからは確かに死ぬほど眠った日もあった。
寝ずに過ごした戦の日々の眠りを取り戻すような日々だった。
しかし落ち着いて得る眠りにも関わらず、夢に現れるのは戦場の悪夢ばかり。
たまに京の夢を見たと思ったら、輝いていたはずの日々が血と泥で塗り替えられた恐ろしい幻影となり現れた。
やっと手にしたはずの夢主を目の前で失う夢を何度見たか。
刃や弓に襲われる夢主、敵に捕まり連れて行かれる夢主、そして男共に嬲られる夢主をどうにも出来ず、ただ手を伸ばすだけの夢。思い返すだけで虫唾が走った。
……そんな夢は、到底口に出来まい……
「そういえば……」
黙って横目に何かを考えていた斎藤がふと顔を上げた。