3.白い小袖の女
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お酒は荷物になりますし最後ですね。まずはお医者さんを訪ねましょう。僕も一度顔を出したかったんです。そこで包帯や薬草、いい薬を売っているお店を聞きましょう」
「はい」
良い医者がいる診療所の噂を小耳に挟んでいた沖田は、ひとまずおおよその場所まで歩き、その先で道行く人に訊ねた。
噂になるだけはあり正確な場所はすぐに判明し、無事に診療所へ辿り着いた。
掲げられた看板には力強い字で『小国診療所』と書かれている。
「小国診療所……」
「夢主ちゃんご存知なんですか」
「はい……ご近所なの……」
「思ったよりも近かったですね。お世話になる身としては近い方がありがたいですが」
「そう……ですね」
……間違いないと思うけど……それなら神谷道場も近いってこと……そっか、上野の山から砲撃されてたのが道場の近くって考えたら……近いんだ……
「んっ?」
看板を見て固まる夢主と不意に目が合い、沖田は何を考え込んでいるのかと首を傾げた。
……総司さん、知ってるのかな……聞かない方がいいのかな……
「夢主ちゃん?」
……でも確か、薫さんのお父さんが明治になって新しく考案したのが神谷活心流……
……それなら総司さんは知らないかも……えっ、じゃあ今は薫さんのお父さんが生きてるってこと……
後に薫の父・越路郎の生存が写真の発見により判明することを夢主は知らない。
西南戦争で命を落とす人間が今はまだ生きている現実に鼓動を速めた。
「どうしたの夢主ちゃん?」
「いっ、いぃえっ、すみません……中に入ってみますか」
「えぇ、お話を聞きましょう」
診療所の看板が掲げられた塀はさほど長く続かないが、建物の中に入ると広い玄関があり、奥に向かって長い廊下が続いていた。
玄関には草履や草鞋を脱いで履き替える為の上履きが用意され、廊下に目を移すと洋式の扉が幾つも並んでいる。診察所や集中的な治療・療養が必要な者が休むための病室だ。
「どうしましたか」
玄関で中を窺う二人にすぐに声が掛かった。
病気や怪我ではなく先生に相談があると伝えると「どうぞ」と診察室に通された。
部屋の中では机の前に、白い豊かな髪を白いほっかむりで隠した小柄な翁が、背もたれの無い丸い椅子に座っていた。
見事な顎鬚と、それに負けないほど長く伸びた髭が綺麗に整えられている。
診療所の主である小国先生だ。
「ふむ……井上道場。道場とはこのご時世に珍しいの。まぁ儂のよく知る男も新しい剣術を説いておるがの」
「えっ」
「いや、こんな世の中で新しく道場を開こうとは珍しいじゃろう、しかもお主のような若い者が。だが構わんぞ、困った事があればいつでも手を貸そう。怪我人がいれば手を尽くし治療に当たる、当然の事じゃ」
「ありがとうございます」
「いやぁ、こんな別嬪さんが待つ道場なら大歓迎じゃよ!しっしっし」
「ははっ、元気なお医者様ですね。それから」
「あぁ、薬の類じゃな、うちで用意しても構わんし、欲しい物があるなら日本橋本町に行くが良いじゃろう」
「日本橋本町」
「そうじゃ、薬問屋が並んでおるでの、それ程に必要な物があるのならば、知っておけば何かと便利じゃよ」
「ありがとうございます!」
「構わん、うちにもいつでも来なさい」
小国はおおらかな人柄を表すような朗らかな笑顔で困った時の手助けを約束し、二人が必要とする情報を与えてくれた。
最初の用事を終えて小国診療所を出た二人は、その足で日本橋本町に向かい買い出しを済ませた。覚え書きにある品は全て揃った。
更に帰り道でたまたま見かけた酒屋に入り、これで斎藤に頼まれた物は一通り揃った。
細々したものを夢主が風呂敷で纏めて抱え、沖田はぶらぶらと酒瓶を揺らしている。
越えてきた川を戻る為、二人は橋の途中にいた。
「はい」
良い医者がいる診療所の噂を小耳に挟んでいた沖田は、ひとまずおおよその場所まで歩き、その先で道行く人に訊ねた。
噂になるだけはあり正確な場所はすぐに判明し、無事に診療所へ辿り着いた。
掲げられた看板には力強い字で『小国診療所』と書かれている。
「小国診療所……」
「夢主ちゃんご存知なんですか」
「はい……ご近所なの……」
「思ったよりも近かったですね。お世話になる身としては近い方がありがたいですが」
「そう……ですね」
……間違いないと思うけど……それなら神谷道場も近いってこと……そっか、上野の山から砲撃されてたのが道場の近くって考えたら……近いんだ……
「んっ?」
看板を見て固まる夢主と不意に目が合い、沖田は何を考え込んでいるのかと首を傾げた。
……総司さん、知ってるのかな……聞かない方がいいのかな……
「夢主ちゃん?」
……でも確か、薫さんのお父さんが明治になって新しく考案したのが神谷活心流……
……それなら総司さんは知らないかも……えっ、じゃあ今は薫さんのお父さんが生きてるってこと……
後に薫の父・越路郎の生存が写真の発見により判明することを夢主は知らない。
西南戦争で命を落とす人間が今はまだ生きている現実に鼓動を速めた。
「どうしたの夢主ちゃん?」
「いっ、いぃえっ、すみません……中に入ってみますか」
「えぇ、お話を聞きましょう」
診療所の看板が掲げられた塀はさほど長く続かないが、建物の中に入ると広い玄関があり、奥に向かって長い廊下が続いていた。
玄関には草履や草鞋を脱いで履き替える為の上履きが用意され、廊下に目を移すと洋式の扉が幾つも並んでいる。診察所や集中的な治療・療養が必要な者が休むための病室だ。
「どうしましたか」
玄関で中を窺う二人にすぐに声が掛かった。
病気や怪我ではなく先生に相談があると伝えると「どうぞ」と診察室に通された。
部屋の中では机の前に、白い豊かな髪を白いほっかむりで隠した小柄な翁が、背もたれの無い丸い椅子に座っていた。
見事な顎鬚と、それに負けないほど長く伸びた髭が綺麗に整えられている。
診療所の主である小国先生だ。
「ふむ……井上道場。道場とはこのご時世に珍しいの。まぁ儂のよく知る男も新しい剣術を説いておるがの」
「えっ」
「いや、こんな世の中で新しく道場を開こうとは珍しいじゃろう、しかもお主のような若い者が。だが構わんぞ、困った事があればいつでも手を貸そう。怪我人がいれば手を尽くし治療に当たる、当然の事じゃ」
「ありがとうございます」
「いやぁ、こんな別嬪さんが待つ道場なら大歓迎じゃよ!しっしっし」
「ははっ、元気なお医者様ですね。それから」
「あぁ、薬の類じゃな、うちで用意しても構わんし、欲しい物があるなら日本橋本町に行くが良いじゃろう」
「日本橋本町」
「そうじゃ、薬問屋が並んでおるでの、それ程に必要な物があるのならば、知っておけば何かと便利じゃよ」
「ありがとうございます!」
「構わん、うちにもいつでも来なさい」
小国はおおらかな人柄を表すような朗らかな笑顔で困った時の手助けを約束し、二人が必要とする情報を与えてくれた。
最初の用事を終えて小国診療所を出た二人は、その足で日本橋本町に向かい買い出しを済ませた。覚え書きにある品は全て揃った。
更に帰り道でたまたま見かけた酒屋に入り、これで斎藤に頼まれた物は一通り揃った。
細々したものを夢主が風呂敷で纏めて抱え、沖田はぶらぶらと酒瓶を揺らしている。
越えてきた川を戻る為、二人は橋の途中にいた。