28.江戸城の落日
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「私にも出来るお手伝いがあったら言ってくださいね」
「お前に頼むかよ」
「そんなに頼りないですか……」
「そうじゃない、分かるだろうが」
危険に巻き込みはしない、お前のような力のない者が笑って暮らせる世の中を目指しているというのに自ら首を突っ込むんじゃない。
はっきり言わなくても伝わるだろうと、ひと睨みして斎藤は夢主の顔から川辺に視線を移した。
赤く染まっていた川は日が沈むにつれ色を失っていく。夜の藍に染まる途中、藤色に色付いた川の美しさに斎藤は短い溜息を吐いた。
「一さん……」
溜め息の後に見えた沈んだ表情に不安を感じた夢主が斎藤の視線に入り込んだ。
何に対して出た溜め息なのか知りたかった。自分の存在は確かに足手まといになっているかもしれない。
それでも共に生きる者として力になりたい、助けになりたいと願っている。
守る者がいるからこそ発揮できる力があると語った夫の言葉を思い出した。
「私を気遣って下さるの、とっても嬉しいです。でも本当に手助けが必要な時は言ってくださいね、疲れた時は按摩だって出来ますし、お仕事に行き詰まった時は……帰って来てください。危ないお手伝いは足手まといにしかならないのは分かっていますから……一さんの気持ちが安らげるように、お手伝いします」
一途な妻の言葉に斎藤は小刀のような細い目を驚きで広げ、息を呑んだ。
喉を鳴らす笑いが込み上げるが、斎藤は顔に手をついて表情を隠して堪えた。
「一さん?」
「いや、すまん」
手袋の隙間から、笑みを堪え持ち上がった口角が見える。
笑いを堪えていると気付いた夢主は隠れた顔を見ようと近付いてヒョイと覗いた。
「一さん、笑っているんですか」
「あぁ、可笑しいな」
「ひゃっ」
斎藤は自らの顔に触れていた手を離して夢主の体を抱き寄せた。
「お前のお手伝いか、ならば喜んで受けよう。頼もしいじゃないか」
「えっ、あの……私……変なこと言いましたか……」
「いいや、とても喜ばしい申し出だ、是非とも頼みたいな」
「その、何か違う事を考えてます……よね……」
ん?と嬉しそうに斎藤はにやけてとぼけている。人を食ったような仕草に夢主はむっと口をつぐんだ。
人の労いの気持ちをあっさりと厭らしい考えにすり替えてと、斎藤の頭の中を想像してしまった。
「お前の顔が赤くなったのなら、考えている事は同じだと思うぞ」
「やっぱり!もぉ一さんたらすぐそんな事を考えるんですから……」
「お前の前で考えなくてどうする、とりあえず家に急がんとな」
「そんなこと言われた後で急げませんよ!」
「急いだほうがいいぞ、遅くなるほど募るものがあるからな」
「募る……」
「分かりやすく言ったほうがいいか」
優しく低い声で言って首を傾げる斎藤を見て、夢主は体の奥でぞくりと感じてしまった。
言葉の意味を体はよく理解しているのか。夢主は慌てて首を振った。
「あぁっ大丈夫です!それに私、今夜はちょっと用事がっ、忘れてました、出かけないと!」
「阿呆、夜は家にいろ。嘘はいいから、行くぞ」
「ゎあっ、一さんたら!」
フフンと嬉しそうに鼻をならし、斎藤は強引に夢主の腕を取って歩き出した。
これから何が起こるのか考えると恥ずかしくて堪らない夢主だが、溜め息が消えた楽しそうな夫の横顔を見て、いつしか微笑んでいた。
自分も少しは力になれているのかな……、他人には見せない斎藤が楽しげに人を急かす姿、愛おしい姿に夢主の焦れったい気持ちも消えていた。
二人の帰りを待つように、長い晩照が帰り道を照らしていた。
「お前に頼むかよ」
「そんなに頼りないですか……」
「そうじゃない、分かるだろうが」
危険に巻き込みはしない、お前のような力のない者が笑って暮らせる世の中を目指しているというのに自ら首を突っ込むんじゃない。
はっきり言わなくても伝わるだろうと、ひと睨みして斎藤は夢主の顔から川辺に視線を移した。
赤く染まっていた川は日が沈むにつれ色を失っていく。夜の藍に染まる途中、藤色に色付いた川の美しさに斎藤は短い溜息を吐いた。
「一さん……」
溜め息の後に見えた沈んだ表情に不安を感じた夢主が斎藤の視線に入り込んだ。
何に対して出た溜め息なのか知りたかった。自分の存在は確かに足手まといになっているかもしれない。
それでも共に生きる者として力になりたい、助けになりたいと願っている。
守る者がいるからこそ発揮できる力があると語った夫の言葉を思い出した。
「私を気遣って下さるの、とっても嬉しいです。でも本当に手助けが必要な時は言ってくださいね、疲れた時は按摩だって出来ますし、お仕事に行き詰まった時は……帰って来てください。危ないお手伝いは足手まといにしかならないのは分かっていますから……一さんの気持ちが安らげるように、お手伝いします」
一途な妻の言葉に斎藤は小刀のような細い目を驚きで広げ、息を呑んだ。
喉を鳴らす笑いが込み上げるが、斎藤は顔に手をついて表情を隠して堪えた。
「一さん?」
「いや、すまん」
手袋の隙間から、笑みを堪え持ち上がった口角が見える。
笑いを堪えていると気付いた夢主は隠れた顔を見ようと近付いてヒョイと覗いた。
「一さん、笑っているんですか」
「あぁ、可笑しいな」
「ひゃっ」
斎藤は自らの顔に触れていた手を離して夢主の体を抱き寄せた。
「お前のお手伝いか、ならば喜んで受けよう。頼もしいじゃないか」
「えっ、あの……私……変なこと言いましたか……」
「いいや、とても喜ばしい申し出だ、是非とも頼みたいな」
「その、何か違う事を考えてます……よね……」
ん?と嬉しそうに斎藤はにやけてとぼけている。人を食ったような仕草に夢主はむっと口をつぐんだ。
人の労いの気持ちをあっさりと厭らしい考えにすり替えてと、斎藤の頭の中を想像してしまった。
「お前の顔が赤くなったのなら、考えている事は同じだと思うぞ」
「やっぱり!もぉ一さんたらすぐそんな事を考えるんですから……」
「お前の前で考えなくてどうする、とりあえず家に急がんとな」
「そんなこと言われた後で急げませんよ!」
「急いだほうがいいぞ、遅くなるほど募るものがあるからな」
「募る……」
「分かりやすく言ったほうがいいか」
優しく低い声で言って首を傾げる斎藤を見て、夢主は体の奥でぞくりと感じてしまった。
言葉の意味を体はよく理解しているのか。夢主は慌てて首を振った。
「あぁっ大丈夫です!それに私、今夜はちょっと用事がっ、忘れてました、出かけないと!」
「阿呆、夜は家にいろ。嘘はいいから、行くぞ」
「ゎあっ、一さんたら!」
フフンと嬉しそうに鼻をならし、斎藤は強引に夢主の腕を取って歩き出した。
これから何が起こるのか考えると恥ずかしくて堪らない夢主だが、溜め息が消えた楽しそうな夫の横顔を見て、いつしか微笑んでいた。
自分も少しは力になれているのかな……、他人には見せない斎藤が楽しげに人を急かす姿、愛おしい姿に夢主の焦れったい気持ちも消えていた。
二人の帰りを待つように、長い晩照が帰り道を照らしていた。