28.江戸城の落日
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「やはり送る。もう日が沈む、一人では歩かせられん」
「一さん……大丈夫ですよ、人通りもありますし家に帰るくらい……普段だって帰りが遅くなることはあります」
斎藤はピクリと眉を動かして妻を軽く睨んだ。
時には遅い帰り道になる日もあるだろう。だが余りに無防備に言う妻に頭痛を覚える。
「あまり心配させるな、遅い帰りも程ほどにしてくれよ。今日は俺が送るんだ、黙って送られろ」
「はい……」
火の手と斎藤を案じてここへきたはずが何故こんな事に。
怒られた気分でとぼとぼ黙って歩くこと暫く、夢主の隣では斎藤が小さな歩幅に合わせてゆっくり歩いている。
静かな川の流れを目に進んでいると、やがて穏やかに訊ねられた。
「先程、四乃森蒼紫に助けられたと言ったな。絡んできたのはどんな男だ」
「えぇと……いかにもな感じでガラの悪そうな……なんとか党とか言ってましたけど覚えては……」
「やたらと党を名乗りたがるのは元士族の集団か。お前、気を付けるんだぞ。いつでも妙な連中を引き寄せる。誇りも何もない自称侍は厄介だ」
「……はぃ」
元士族、刀を持ち腕に自信のある者達。二人に追われただけでも恐怖だった。囲まれてしまえば……山中で敵兵に囲まれた戊辰戦争の最中を思い出し、夢主は体を震わせた。
あの時は沖田や緋村の助けがあって切り抜けたのだ。一人で歩く今、囲まれる事態は何としても避けなければならない。
「それ以外は大丈夫か、妙な連中に付きまとわれたりしていないだろうな」
「大丈夫です。買い物は昼間ですし、赤べこのお手伝いも遅い時は送っていただけます」
「そうか。ならいいが、不安があればすぐに知らせろ。俺が帰らなければ沖田君に、彼が捉まらなければ人力車で俺を訪ねて来たっていい」
「ふふっ、一さんったらおかしいです」
「何が可笑しい、お前を心配して悪いか」
「いいえ、嬉しいですけど……心配性すぎて、一さんて本当に楽しいです。ふふっ」
「阿呆が、笑うんじゃない」
夢主の不安はすっかり消え、機嫌も戻っていた。
先程まで引きずるように歩いて砂利を鳴らしていた足音が、今では軽やかに変わっている。
「やっぱり一さんと歩くの好きです。楽しいですし、隣にいてくれるとほっとして」
「そうか」
フッと頼もしい顔を見せ、いられる時はいくらでも横にいてやると夢主を安心させた。
「総司さんがいてくださるととても頼もしいんですけど、一日中そばにいていただく訳にもいきませんし……今日はたまたま運が悪かったんですね、火事や騒動はそうそう起きませんし」
「今日、沖田君がいなかったのは俺が用事を頼んだからなんだよ、悪かったな」
「一さんがですか」
「あぁ、ちょっとな。お前の傍にいてもらった方が良かったな」
「いえ、総司さんだってきっと楽しんでお手伝いなさっているんでしょう、ずっとお屋敷に籠っていても退屈ですよ」
沖田がいなかったのは斎藤の手伝いの為。そういえば以前も斎藤の頼みで動いていた。
密偵の補佐、協力者なのか、沖田の能力ならその働きは充分果たせる。夢主は妙に納得して頷いた。
「一さん……大丈夫ですよ、人通りもありますし家に帰るくらい……普段だって帰りが遅くなることはあります」
斎藤はピクリと眉を動かして妻を軽く睨んだ。
時には遅い帰り道になる日もあるだろう。だが余りに無防備に言う妻に頭痛を覚える。
「あまり心配させるな、遅い帰りも程ほどにしてくれよ。今日は俺が送るんだ、黙って送られろ」
「はい……」
火の手と斎藤を案じてここへきたはずが何故こんな事に。
怒られた気分でとぼとぼ黙って歩くこと暫く、夢主の隣では斎藤が小さな歩幅に合わせてゆっくり歩いている。
静かな川の流れを目に進んでいると、やがて穏やかに訊ねられた。
「先程、四乃森蒼紫に助けられたと言ったな。絡んできたのはどんな男だ」
「えぇと……いかにもな感じでガラの悪そうな……なんとか党とか言ってましたけど覚えては……」
「やたらと党を名乗りたがるのは元士族の集団か。お前、気を付けるんだぞ。いつでも妙な連中を引き寄せる。誇りも何もない自称侍は厄介だ」
「……はぃ」
元士族、刀を持ち腕に自信のある者達。二人に追われただけでも恐怖だった。囲まれてしまえば……山中で敵兵に囲まれた戊辰戦争の最中を思い出し、夢主は体を震わせた。
あの時は沖田や緋村の助けがあって切り抜けたのだ。一人で歩く今、囲まれる事態は何としても避けなければならない。
「それ以外は大丈夫か、妙な連中に付きまとわれたりしていないだろうな」
「大丈夫です。買い物は昼間ですし、赤べこのお手伝いも遅い時は送っていただけます」
「そうか。ならいいが、不安があればすぐに知らせろ。俺が帰らなければ沖田君に、彼が捉まらなければ人力車で俺を訪ねて来たっていい」
「ふふっ、一さんったらおかしいです」
「何が可笑しい、お前を心配して悪いか」
「いいえ、嬉しいですけど……心配性すぎて、一さんて本当に楽しいです。ふふっ」
「阿呆が、笑うんじゃない」
夢主の不安はすっかり消え、機嫌も戻っていた。
先程まで引きずるように歩いて砂利を鳴らしていた足音が、今では軽やかに変わっている。
「やっぱり一さんと歩くの好きです。楽しいですし、隣にいてくれるとほっとして」
「そうか」
フッと頼もしい顔を見せ、いられる時はいくらでも横にいてやると夢主を安心させた。
「総司さんがいてくださるととても頼もしいんですけど、一日中そばにいていただく訳にもいきませんし……今日はたまたま運が悪かったんですね、火事や騒動はそうそう起きませんし」
「今日、沖田君がいなかったのは俺が用事を頼んだからなんだよ、悪かったな」
「一さんがですか」
「あぁ、ちょっとな。お前の傍にいてもらった方が良かったな」
「いえ、総司さんだってきっと楽しんでお手伝いなさっているんでしょう、ずっとお屋敷に籠っていても退屈ですよ」
沖田がいなかったのは斎藤の手伝いの為。そういえば以前も斎藤の頼みで動いていた。
密偵の補佐、協力者なのか、沖田の能力ならその働きは充分果たせる。夢主は妙に納得して頷いた。