28.江戸城の落日
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「蒼紫様……行っちゃった……武田さんの所へ行ってしまうのかな……過ちを……犯してしまうの」
炎と煙の中へ消えた蒼紫。彼が修羅へ落ちてゆく道が見えた気がして、夢主はへたへたと川辺に座り込んだ。
何かが破裂したのか、火がある方角から大きな爆発音が聞こえた。
蒼紫達が延焼を防ぐために破壊工作をしているのか、夢主は轟音にも耳を塞がず川向こうの火災を見守った。
この日、御庭番衆の鎮火活動も空しく、西ノ丸御殿は全焼してしまった。
守るべき徳川の将軍もいない旧江戸城、蒼紫は見切りをつけて仲間と東京を旅立った。
夕暮れ時、残り火も消えたのか、空を目指す煙はほとんど見えなくなっていた。
呆然と動けずにいた夢主は、付近を調査する警官によって保護された。
夫が警官だと知れるとすぐにその夫が連れてこられた。斎藤だ。夢主は申し訳なさで顔が上げられなかった。
仕事の途中で呼び出された不機嫌な斎藤は、こんな場所にいる妻への不満と、顔を見て何やら落ち込むさまに太い息を吐いた。
「やれやれ、どうしてここにいるのか、何があったのか。詳らかに話せ」
「一さん……」
久しぶりに聞かされた弱々しい妻の声に、斎藤は大きく肩を落として首を振った。
引き合わせてくれた警官に手早く話をつけ、二人きりになれる場所へ移動した。火元は城内と判明しており、近辺調査は己でなくとも問題なく遂行できる。
咎める気持ちを抑え、斎藤は夢主の肩に手を添えて頼りない足を助けた。
黙っていた夢主も二人きりになるとようやく口を開いた。
「ごめんなさい、一さん。すぐに戻るつもりだったんですけど、動けなくなってしまって……火事だって聞いて驚きました」
「それでわざわざ見に来たのか」
それほど馬鹿ではないはずだ。
訊ねながら斎藤は夢主に早く本当の理由を話せと視線を送った。
「どうした、一人が怖かったか」
「はい……それに一さんが気になって……火事だって気付いたのは沖田さんを訪ねた時で、沖田さん家にいなくて……上野の山に向かったんです」
「ほぉ」
「火事を確かめようと……町の人について行きました。それで山の上で色々あって……変な人に絡まれたところを助けていただいたんです」
そこで口をつぐんでしまった。斎藤は続きを待って黙っている。話の筋は通っている。
言葉に詰まる原因は何か頭の中で幾つもの可能性を考えてみたが、妻の口から出てきた言葉は予想外の一言だった。
「蒼紫様……四乃森蒼紫さんに助けていただきました」
「四乃森蒼紫」
斎藤は嫌な名前を聞いたと苦い顔で目を逸らした。
京の色街で名を馳せた土方に色男と言わしめた若者、あれから何年経ったか立派な青年になっただろう。
久しぶりに姿を現した。厄介な事にならなければいいが。
「随分と懐かしい名前だ。東京にいるのか」
「ずっとかはわかりませんが、この火事を止めに来たみたいです。私が火事を気にしていたので、近くまで連れてきてくれたんです。それで本人は火事の中に……もともと江戸城の守り手です。ずっとそばでお城を見守っていたのかもしれません」
「これからも陰から見守るのか」
「それが、一度京へ戻るそうです」
「京へ」
「はい。大事な先代の忘れ形見……可愛い娘さんを安全な場所に預けて、自分達は明治の荒波に……新しい仕事に就くんだと思います。聞いたわけではありませんが……」
全ては記憶のままに……武田が起こす悲惨な事件に巻き込まれていくのか。
蒼紫に御庭番衆の皆、騒動に巻き込まれるという点では高荷恵や緋村剣心、多くの者が関わってくる。
成長した巻町操にとっても辛い事態へ発展していく。
武田のもとへ行く前に止められたら、それも変えられたかもしれないのに、何も出来なかった。
炎と煙の中へ消えた蒼紫。彼が修羅へ落ちてゆく道が見えた気がして、夢主はへたへたと川辺に座り込んだ。
何かが破裂したのか、火がある方角から大きな爆発音が聞こえた。
蒼紫達が延焼を防ぐために破壊工作をしているのか、夢主は轟音にも耳を塞がず川向こうの火災を見守った。
この日、御庭番衆の鎮火活動も空しく、西ノ丸御殿は全焼してしまった。
守るべき徳川の将軍もいない旧江戸城、蒼紫は見切りをつけて仲間と東京を旅立った。
夕暮れ時、残り火も消えたのか、空を目指す煙はほとんど見えなくなっていた。
呆然と動けずにいた夢主は、付近を調査する警官によって保護された。
夫が警官だと知れるとすぐにその夫が連れてこられた。斎藤だ。夢主は申し訳なさで顔が上げられなかった。
仕事の途中で呼び出された不機嫌な斎藤は、こんな場所にいる妻への不満と、顔を見て何やら落ち込むさまに太い息を吐いた。
「やれやれ、どうしてここにいるのか、何があったのか。詳らかに話せ」
「一さん……」
久しぶりに聞かされた弱々しい妻の声に、斎藤は大きく肩を落として首を振った。
引き合わせてくれた警官に手早く話をつけ、二人きりになれる場所へ移動した。火元は城内と判明しており、近辺調査は己でなくとも問題なく遂行できる。
咎める気持ちを抑え、斎藤は夢主の肩に手を添えて頼りない足を助けた。
黙っていた夢主も二人きりになるとようやく口を開いた。
「ごめんなさい、一さん。すぐに戻るつもりだったんですけど、動けなくなってしまって……火事だって聞いて驚きました」
「それでわざわざ見に来たのか」
それほど馬鹿ではないはずだ。
訊ねながら斎藤は夢主に早く本当の理由を話せと視線を送った。
「どうした、一人が怖かったか」
「はい……それに一さんが気になって……火事だって気付いたのは沖田さんを訪ねた時で、沖田さん家にいなくて……上野の山に向かったんです」
「ほぉ」
「火事を確かめようと……町の人について行きました。それで山の上で色々あって……変な人に絡まれたところを助けていただいたんです」
そこで口をつぐんでしまった。斎藤は続きを待って黙っている。話の筋は通っている。
言葉に詰まる原因は何か頭の中で幾つもの可能性を考えてみたが、妻の口から出てきた言葉は予想外の一言だった。
「蒼紫様……四乃森蒼紫さんに助けていただきました」
「四乃森蒼紫」
斎藤は嫌な名前を聞いたと苦い顔で目を逸らした。
京の色街で名を馳せた土方に色男と言わしめた若者、あれから何年経ったか立派な青年になっただろう。
久しぶりに姿を現した。厄介な事にならなければいいが。
「随分と懐かしい名前だ。東京にいるのか」
「ずっとかはわかりませんが、この火事を止めに来たみたいです。私が火事を気にしていたので、近くまで連れてきてくれたんです。それで本人は火事の中に……もともと江戸城の守り手です。ずっとそばでお城を見守っていたのかもしれません」
「これからも陰から見守るのか」
「それが、一度京へ戻るそうです」
「京へ」
「はい。大事な先代の忘れ形見……可愛い娘さんを安全な場所に預けて、自分達は明治の荒波に……新しい仕事に就くんだと思います。聞いたわけではありませんが……」
全ては記憶のままに……武田が起こす悲惨な事件に巻き込まれていくのか。
蒼紫に御庭番衆の皆、騒動に巻き込まれるという点では高荷恵や緋村剣心、多くの者が関わってくる。
成長した巻町操にとっても辛い事態へ発展していく。
武田のもとへ行く前に止められたら、それも変えられたかもしれないのに、何も出来なかった。