28.江戸城の落日
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「操ちゃんを葵屋へ連れて行くんですね、そのまま預けて……」
怪訝な顔が厳しい顔に変わる。
「お前は詳しすぎる」
はっ……と夢主は息を呑むが蒼紫は構わず、追及を緩めない。
「誰かに通じているのか、理由はなんだ」
「誰にも通じてなんか……」
蒼紫は夢主の本心を探ろうと細い顎に手を掛けて小さな顔を固定した。
鋭い瞳で夢主の目の奥を覗いている。
細くて美しい瞳がどこか土方に似ている……
夢主は急に懐かしい顔を思い出してしまい、瞳を潤ませた。
触れられている指の温かさが幻では無いのか。
夢主は目の前の美しい顔に、いつかの淋しげな笑顔を思い出した。
常に厳しい表情をしていた土方が夢主の前で稀に見せた儚い笑顔。
しかし蒼紫には土方が時折見せた慈しみの笑みは重ならない。
幾ら似ていても勝手に思い出を重ねてはいけない。
夢主は首を振る代わりに目を伏せた。
「本当に誰とも……嘘じゃ……あの……」
「嘘なら分かる」
嘘はないと確信した蒼紫は夢主の顔から手を離した。
浮かんできた涙はただの恐怖から込み上げたものだと気にしていない。
堅気の女が忍衆の御頭の剣気に捉われては無理もないはずだ。
「だが何故詳しい」
「……勘がいいとしか言えませんけど……」
「勘、か。お前は他の者が知りえない事を知っている、そう、はなからお前は知っている……冗談だと思っていたが」
「あの……」
京で陰守りを続けた蒼紫は夢主の秘密を耳にしていた。
何を言っているか理解できずに信じていなかった。
だが成長した今なら事実を受け入れ、信じるべき話だと理解できる。
長い息を吐いた蒼紫は小さく佇む夢主に目を落とした。
「お前の言う通りだ。操を預け……」
「東京に戻ってくるんですね。新しい仕事の為に。平和な世の中では生きていけないみんなの為に……」
「お前に話す義理はない」
……こんな話をしておいて……
全て伝えてしまいそうになるが蒼紫は話す理由はないと自らに言い聞かせた。
「そのまま京に腰を落ち着けることは出来ないんですか」
「何」
「平和に葵屋や、京の町で暮らすことは……本当に出来ないんですか」
「出来ん。出来ぬと知っているのだろう、お前は」
蒼紫は断言した。お前の言葉は真実になる。それは俺も知っているし、自分達御庭番衆が明治の世をどう生きていくかも既に決まっている。
瞬き一つしない厳しい目つきには強い意志が籠っていた。
「でも変えることだって出来ます、自分の運命を変えた方だっているんです!蒼紫様や御庭番衆のみなさんだってできるはずです、この時代と向き合って生きることだって」
「あの日、もうお前を助けてはやれ無いと言ったが、まさかまた手を貸すとは」
「あの日……」
「もういい、お前は去れ。俺は行く」
「蒼紫様!」
夢主の言葉はもういらないと断じるように、蒼紫は力強く地面を蹴った。
仲間が活動する煙のもと、炎の中へ飛び込んで行った。
あの日とは、京で最後の花を届けてくれた日。
今まで見守っていたことを知らせ、もう守る事は出来ないと言い残して去ったあの日だ。
怪訝な顔が厳しい顔に変わる。
「お前は詳しすぎる」
はっ……と夢主は息を呑むが蒼紫は構わず、追及を緩めない。
「誰かに通じているのか、理由はなんだ」
「誰にも通じてなんか……」
蒼紫は夢主の本心を探ろうと細い顎に手を掛けて小さな顔を固定した。
鋭い瞳で夢主の目の奥を覗いている。
細くて美しい瞳がどこか土方に似ている……
夢主は急に懐かしい顔を思い出してしまい、瞳を潤ませた。
触れられている指の温かさが幻では無いのか。
夢主は目の前の美しい顔に、いつかの淋しげな笑顔を思い出した。
常に厳しい表情をしていた土方が夢主の前で稀に見せた儚い笑顔。
しかし蒼紫には土方が時折見せた慈しみの笑みは重ならない。
幾ら似ていても勝手に思い出を重ねてはいけない。
夢主は首を振る代わりに目を伏せた。
「本当に誰とも……嘘じゃ……あの……」
「嘘なら分かる」
嘘はないと確信した蒼紫は夢主の顔から手を離した。
浮かんできた涙はただの恐怖から込み上げたものだと気にしていない。
堅気の女が忍衆の御頭の剣気に捉われては無理もないはずだ。
「だが何故詳しい」
「……勘がいいとしか言えませんけど……」
「勘、か。お前は他の者が知りえない事を知っている、そう、はなからお前は知っている……冗談だと思っていたが」
「あの……」
京で陰守りを続けた蒼紫は夢主の秘密を耳にしていた。
何を言っているか理解できずに信じていなかった。
だが成長した今なら事実を受け入れ、信じるべき話だと理解できる。
長い息を吐いた蒼紫は小さく佇む夢主に目を落とした。
「お前の言う通りだ。操を預け……」
「東京に戻ってくるんですね。新しい仕事の為に。平和な世の中では生きていけないみんなの為に……」
「お前に話す義理はない」
……こんな話をしておいて……
全て伝えてしまいそうになるが蒼紫は話す理由はないと自らに言い聞かせた。
「そのまま京に腰を落ち着けることは出来ないんですか」
「何」
「平和に葵屋や、京の町で暮らすことは……本当に出来ないんですか」
「出来ん。出来ぬと知っているのだろう、お前は」
蒼紫は断言した。お前の言葉は真実になる。それは俺も知っているし、自分達御庭番衆が明治の世をどう生きていくかも既に決まっている。
瞬き一つしない厳しい目つきには強い意志が籠っていた。
「でも変えることだって出来ます、自分の運命を変えた方だっているんです!蒼紫様や御庭番衆のみなさんだってできるはずです、この時代と向き合って生きることだって」
「あの日、もうお前を助けてはやれ無いと言ったが、まさかまた手を貸すとは」
「あの日……」
「もういい、お前は去れ。俺は行く」
「蒼紫様!」
夢主の言葉はもういらないと断じるように、蒼紫は力強く地面を蹴った。
仲間が活動する煙のもと、炎の中へ飛び込んで行った。
あの日とは、京で最後の花を届けてくれた日。
今まで見守っていたことを知らせ、もう守る事は出来ないと言い残して去ったあの日だ。