28.江戸城の落日
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夢主は不安を抱えたまま道を急いだ。
上野の山は火の回りを確認しようと火事を聞きつけた人々で溢れていた。風向きはどうか、空気は乾燥していないか。
純粋に火の手を心配している者がいれば、火事だ火事だと囃す者もいる。おかしな場の空気に戸惑いながら、夢主は人々の間を行った。
景色が開けた場所へ辿り着くと、南で大きく太く立ち上る黒い煙が目に飛び込んで来た。それは決して小火などではなく、強く燃えている。
「嘘……本当に燃えてる……」
同様に不安の声を漏らす人々の後ろで、のんきにも火事を肴に酒を飲む男達がいた。
襷にほっかむり姿でやって来た近所の女達が怪訝な顔で酔っ払う男達を睨んでいる。
そんな不穏な空気に夢主も不安を感じた。
こんなに人が集まっているのだ。警官も何人かいるはずだろう。気付いた夢主は辺りを見回し斎藤の姿を探した。
いない……通常の市中警備の任務に就くなど滅多にない。
夢主は仕方がないと短く息を吐いた。
「一さん大丈夫かな……」
消えそうもない煙、早い鎮火は望めそうもない。江戸城の近くにいるかもしれない斎藤が気になって仕方がなかった。鎮火作業に当たる任務もあるのだろうか。
少しぐらい現場に近付いても大丈夫かもしれない。
上野の山を下りてみようと思い立つが、人々と全く逆の動きを見せる夢主は、火災を見ようと首を伸ばす人々に押され、思うように動けなかった。
「んっ、すみませっ……」
人の壁をすり抜けようとした時、押し合う人々の尻に突き飛ばされすっ転んでしまった。
「おい、何すんだよ!」
「この野郎邪魔しやがって!」
「ぁ……あの、ごめんなさい、すみません」
転んだ状態で罵声を浴び、謝りながら手元を見れば器が転がり透明な液体が広がっていた。
先程の酒盛りをする男達の席に突っ込んでしまったのだ。小さな酒瓶が倒れて中身がこぼれている。
どうしよう……事態を把握した夢主は青い顔で立ち上がり咄嗟に頭を下げた。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい!お酒は弁償いたしますから……すぐに買って……」
酒の場を荒らされて機嫌を損ねた男達、赤い顔でひそひそと囁き合っている。
この顔は何度か見た事がある、嫌な言葉を発する時の男の顔だ。厭らしく緩んだ口と夢主の体を見定めるような目。
何を言われるか予想がついた夢主は大きく腰を折って詫びた。
「すみません、今お酒を買って来ます!」
そして何か言われる前に自分から対応を伝え、逃げるように走り去った。
本当に酒を買ってくるべきだろうか、確かに悪いのはこちらだ。素行が悪そうな男達だった。このまま逃げては後々厄介事になるかもしれない。
迷う夢主だが、迷いは否応なしに打ち消された。
「待ちやがれぇええ!!」
「ぶざけんな、逃げんじゃねぇこのアマぁあ!」
女が逃げたと思った二人の男が追いかけて来たのだ。
赤い顔で据わった目、それでもしっかりした足取りで迫ってきた。
「逃げるなんて酷いじゃねぇかよ、どうしてくれんだ、宴が台無しだ」
「弁償だけで済むと思ってんじゃあねぇよな、まさかとは思うけどよ」
卑しく凄んだ声で脅しながら顔を近付けてくる。
酷い酒臭に夢主の顔が歪んだ。
「俺達から逃げられると思うなよ、俺達はなぁ、これから一旗揚げるんだ」
「馬鹿野郎、ここでそんな話してんじゃねぇよ」
言い合いを始めた男達、夢主はこの隙に逃げ出そうと一歩二歩退いた。
だがすぐ気付いた男達は更に増した怒りを叩きつける。
「おう!どこ行こうってんだ!俺達回天党をなめるんじゃねぇよ!」
「酒だけじゃ済まねぇ!分かってんだろうな!」
「回天……党」
聞き覚えのない集団名に夢主は首を傾げた。後に緋村が叩き伏せる集団だとは夢にも思わなかった。
とにかく考え事は後でいい、夢主は逃げる事だけを考えて男達の隙を探した。だが醜悪な気に気圧され動けなくなってしまった。見えない縄で縛られているようだ。
上野の山は火の回りを確認しようと火事を聞きつけた人々で溢れていた。風向きはどうか、空気は乾燥していないか。
純粋に火の手を心配している者がいれば、火事だ火事だと囃す者もいる。おかしな場の空気に戸惑いながら、夢主は人々の間を行った。
景色が開けた場所へ辿り着くと、南で大きく太く立ち上る黒い煙が目に飛び込んで来た。それは決して小火などではなく、強く燃えている。
「嘘……本当に燃えてる……」
同様に不安の声を漏らす人々の後ろで、のんきにも火事を肴に酒を飲む男達がいた。
襷にほっかむり姿でやって来た近所の女達が怪訝な顔で酔っ払う男達を睨んでいる。
そんな不穏な空気に夢主も不安を感じた。
こんなに人が集まっているのだ。警官も何人かいるはずだろう。気付いた夢主は辺りを見回し斎藤の姿を探した。
いない……通常の市中警備の任務に就くなど滅多にない。
夢主は仕方がないと短く息を吐いた。
「一さん大丈夫かな……」
消えそうもない煙、早い鎮火は望めそうもない。江戸城の近くにいるかもしれない斎藤が気になって仕方がなかった。鎮火作業に当たる任務もあるのだろうか。
少しぐらい現場に近付いても大丈夫かもしれない。
上野の山を下りてみようと思い立つが、人々と全く逆の動きを見せる夢主は、火災を見ようと首を伸ばす人々に押され、思うように動けなかった。
「んっ、すみませっ……」
人の壁をすり抜けようとした時、押し合う人々の尻に突き飛ばされすっ転んでしまった。
「おい、何すんだよ!」
「この野郎邪魔しやがって!」
「ぁ……あの、ごめんなさい、すみません」
転んだ状態で罵声を浴び、謝りながら手元を見れば器が転がり透明な液体が広がっていた。
先程の酒盛りをする男達の席に突っ込んでしまったのだ。小さな酒瓶が倒れて中身がこぼれている。
どうしよう……事態を把握した夢主は青い顔で立ち上がり咄嗟に頭を下げた。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい!お酒は弁償いたしますから……すぐに買って……」
酒の場を荒らされて機嫌を損ねた男達、赤い顔でひそひそと囁き合っている。
この顔は何度か見た事がある、嫌な言葉を発する時の男の顔だ。厭らしく緩んだ口と夢主の体を見定めるような目。
何を言われるか予想がついた夢主は大きく腰を折って詫びた。
「すみません、今お酒を買って来ます!」
そして何か言われる前に自分から対応を伝え、逃げるように走り去った。
本当に酒を買ってくるべきだろうか、確かに悪いのはこちらだ。素行が悪そうな男達だった。このまま逃げては後々厄介事になるかもしれない。
迷う夢主だが、迷いは否応なしに打ち消された。
「待ちやがれぇええ!!」
「ぶざけんな、逃げんじゃねぇこのアマぁあ!」
女が逃げたと思った二人の男が追いかけて来たのだ。
赤い顔で据わった目、それでもしっかりした足取りで迫ってきた。
「逃げるなんて酷いじゃねぇかよ、どうしてくれんだ、宴が台無しだ」
「弁償だけで済むと思ってんじゃあねぇよな、まさかとは思うけどよ」
卑しく凄んだ声で脅しながら顔を近付けてくる。
酷い酒臭に夢主の顔が歪んだ。
「俺達から逃げられると思うなよ、俺達はなぁ、これから一旗揚げるんだ」
「馬鹿野郎、ここでそんな話してんじゃねぇよ」
言い合いを始めた男達、夢主はこの隙に逃げ出そうと一歩二歩退いた。
だがすぐ気付いた男達は更に増した怒りを叩きつける。
「おう!どこ行こうってんだ!俺達回天党をなめるんじゃねぇよ!」
「酒だけじゃ済まねぇ!分かってんだろうな!」
「回天……党」
聞き覚えのない集団名に夢主は首を傾げた。後に緋村が叩き伏せる集団だとは夢にも思わなかった。
とにかく考え事は後でいい、夢主は逃げる事だけを考えて男達の隙を探した。だが醜悪な気に気圧され動けなくなってしまった。見えない縄で縛られているようだ。