27.幸せの景色
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斎藤は仕事の行き帰りに念の為、いや通り抜けのついでだが、沖田のもとに顔を出して回復具合を見守っていた。
「どちらがいいんでしょうね」
「何がだ」
今夜の帰り道も顔を見せてくれた斎藤に縁側に腰掛けてもらい、沖田は布団の中から不意に訊ねた。
斎藤越しに見える景色は深い藍色に染まった空。
何の気なしに夜空を見上げていた斎藤は、室内に顔を向けて訊き返した。
「これからの出来事を知ってただ見守る人生と、何も知らずにただ向かっていく人生……」
要は斎藤の生き方の自分の生き方と……
そう聞こえた斎藤はフンと鼻をならした。
「俺には生きる道は一つしかない。君も君で好きにすればいい」
「簡単に言ってくれますね~」
「違うのか」
「違いませんけど……」
以前の夢主と同じように、沖田は時折自分の存在に迷っていた。歴史から消えていたい。だが自分の生き方を曲げたくはない。
存在を消しながら、思いを貫く。難しい生き方だ。
今は周りの支援もあり、夢だった子供相手の道場を細々ながら営んでいる。真面目で優秀な弟子達はどんどん腕を上げている。
幸せを感じる日々に、ふと淋しさを覚える時があった。自分は贅沢だな、そう思うのだ。
「君が死んでいなければいけない理由は確かに分かる。だが身の上を隠したままでも動きたいように動けばいい」
「穏やかな暮らしに憧れていたんですけど……何というか、夢主ちゃんに話を聞いても誰にも語らず飲み込む。何も出来ない。なかなかもどかしいですね、こんな思いをかつては一人で抱えていたなんて、夢主ちゃんを心から尊敬しますよ」
「フン」
妻を褒められ嬉しい半面、己には出来ない生き方を沖田がしている。羨ましくはないが、己の関わらぬところで理解し合う二人を妙な気分で見守るしかない。
この男でなければ許せなかったかもしれんな、そんな事を考えてしまい、斎藤は沖田から視線を外した。
「あっ、知っていますか、僕が死んでなきゃ駄目なのか迷ってたら夢主ちゃんが僕に話してくれたこと」
「あいつが。知る由もない。君もおかしな事を聞いて困らせるなよ」
「ふふっ、すみません。でも面白いんですよ、僕には生きていて欲しいけど、僕が生きていると広まったら、これからの時代で生まれない物語が山のように出てくるからやっぱり駄目ですって、涙目で謝りながら訴えていましたね、はははっ」
「物語」
「えぇ、何でも僕を題材にした涙を誘う物語が、先の世では山のようにあるそうです。嬉しいですね~」
「フッ、馬鹿馬鹿しい。しかし、だから死んでいろとは随分だな」
ククッと笑いをひそめ、涙を浮かべてまで訴える夢主を想像した。余程気に入りの話でもあったのか。
平和な行く末を変えたくない思いは強いのだろうが、夢主の事だから沖田の話も嘘では無いのだろう。
「まぁ、それだけではなく後に与える影響があるって事でしょう。僕自身もそんな物語が消えてしまうのは悲しいですしね」
「ほぅ、そうなのか」
「だって、そんな物語のおかげで夢主ちゃんは僕達を知ってくれていたんですよ、そうでなければあの時、逃げ出していたかも……いいえ、あの場にやって来なかったかも。では、もしその物語が消えてしまったら」
「消えたら」
「どう、なるんでしょうね……」
そんな事が分かるかよと、斎藤は眉間に深い皺を刻んだ。
「夢主ちゃんの記憶、消えちゃったり……しませんよね」
「阿呆臭い。それに先の記憶が無くなれば、あいつは気が楽になるだろう」
「それだけで済むでしょうか……考えられないような事が実際に起きたんですよ、あれから今も続いている……もしかしたら突然消えちゃうなんて」
「考えられん。確かに初めの頃はそんな事も考えたが。あれから何年経つ」
「そうですね……でも歪みが溜まって限界に近付いたら、なんて考えませんか。変えちゃいけない出来事が変わり過ぎてしまったら」
「考えん」
今更失って堪るか。
斎藤は苛つく気持ちを沖田に押し付け、睨んだ。
「ちっ、君が余計な事を言うからこっちまで気になってきた。この話は終いだ」
早く顔が見たい。
斎藤は急く気持ちを誤魔化す為に、煙草を嫌う沖田の前で一本取り出し火をつけた。
「あぁっ!」
「うるさい、この一本は君のせいだ」
布団の中で座る沖田に届かぬ煙を吹きかけるようフゥッと強く息を吐き、斎藤は裏の木戸を出て行った。
「どちらがいいんでしょうね」
「何がだ」
今夜の帰り道も顔を見せてくれた斎藤に縁側に腰掛けてもらい、沖田は布団の中から不意に訊ねた。
斎藤越しに見える景色は深い藍色に染まった空。
何の気なしに夜空を見上げていた斎藤は、室内に顔を向けて訊き返した。
「これからの出来事を知ってただ見守る人生と、何も知らずにただ向かっていく人生……」
要は斎藤の生き方の自分の生き方と……
そう聞こえた斎藤はフンと鼻をならした。
「俺には生きる道は一つしかない。君も君で好きにすればいい」
「簡単に言ってくれますね~」
「違うのか」
「違いませんけど……」
以前の夢主と同じように、沖田は時折自分の存在に迷っていた。歴史から消えていたい。だが自分の生き方を曲げたくはない。
存在を消しながら、思いを貫く。難しい生き方だ。
今は周りの支援もあり、夢だった子供相手の道場を細々ながら営んでいる。真面目で優秀な弟子達はどんどん腕を上げている。
幸せを感じる日々に、ふと淋しさを覚える時があった。自分は贅沢だな、そう思うのだ。
「君が死んでいなければいけない理由は確かに分かる。だが身の上を隠したままでも動きたいように動けばいい」
「穏やかな暮らしに憧れていたんですけど……何というか、夢主ちゃんに話を聞いても誰にも語らず飲み込む。何も出来ない。なかなかもどかしいですね、こんな思いをかつては一人で抱えていたなんて、夢主ちゃんを心から尊敬しますよ」
「フン」
妻を褒められ嬉しい半面、己には出来ない生き方を沖田がしている。羨ましくはないが、己の関わらぬところで理解し合う二人を妙な気分で見守るしかない。
この男でなければ許せなかったかもしれんな、そんな事を考えてしまい、斎藤は沖田から視線を外した。
「あっ、知っていますか、僕が死んでなきゃ駄目なのか迷ってたら夢主ちゃんが僕に話してくれたこと」
「あいつが。知る由もない。君もおかしな事を聞いて困らせるなよ」
「ふふっ、すみません。でも面白いんですよ、僕には生きていて欲しいけど、僕が生きていると広まったら、これからの時代で生まれない物語が山のように出てくるからやっぱり駄目ですって、涙目で謝りながら訴えていましたね、はははっ」
「物語」
「えぇ、何でも僕を題材にした涙を誘う物語が、先の世では山のようにあるそうです。嬉しいですね~」
「フッ、馬鹿馬鹿しい。しかし、だから死んでいろとは随分だな」
ククッと笑いをひそめ、涙を浮かべてまで訴える夢主を想像した。余程気に入りの話でもあったのか。
平和な行く末を変えたくない思いは強いのだろうが、夢主の事だから沖田の話も嘘では無いのだろう。
「まぁ、それだけではなく後に与える影響があるって事でしょう。僕自身もそんな物語が消えてしまうのは悲しいですしね」
「ほぅ、そうなのか」
「だって、そんな物語のおかげで夢主ちゃんは僕達を知ってくれていたんですよ、そうでなければあの時、逃げ出していたかも……いいえ、あの場にやって来なかったかも。では、もしその物語が消えてしまったら」
「消えたら」
「どう、なるんでしょうね……」
そんな事が分かるかよと、斎藤は眉間に深い皺を刻んだ。
「夢主ちゃんの記憶、消えちゃったり……しませんよね」
「阿呆臭い。それに先の記憶が無くなれば、あいつは気が楽になるだろう」
「それだけで済むでしょうか……考えられないような事が実際に起きたんですよ、あれから今も続いている……もしかしたら突然消えちゃうなんて」
「考えられん。確かに初めの頃はそんな事も考えたが。あれから何年経つ」
「そうですね……でも歪みが溜まって限界に近付いたら、なんて考えませんか。変えちゃいけない出来事が変わり過ぎてしまったら」
「考えん」
今更失って堪るか。
斎藤は苛つく気持ちを沖田に押し付け、睨んだ。
「ちっ、君が余計な事を言うからこっちまで気になってきた。この話は終いだ」
早く顔が見たい。
斎藤は急く気持ちを誤魔化す為に、煙草を嫌う沖田の前で一本取り出し火をつけた。
「あぁっ!」
「うるさい、この一本は君のせいだ」
布団の中で座る沖田に届かぬ煙を吹きかけるようフゥッと強く息を吐き、斎藤は裏の木戸を出て行った。