27.幸せの景色
夢主名前設定
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夜が明けると夢主は早起きの夫に起こしてもらい、寝巻のまま庭下駄に足を入れ、白い息を吐きながら梅の木まで飛び出していった。
「一さん、凄いです!本当に香ります!」
「フフッ、そいつは良かったな」
「良かったなじゃなくて、一さんも来てください!」
俺は早く着替えたいと顔に出すが、あまりに嬉しそうな妻の誘いを断われず「やれやれ」と漏らして庭に下りた。
冷たい朝にも関わらず、ほくほく顔で早く早くと手招きする夢主の隣へ立つと、なるほど、僅かな酸味か何かを含んだ清香が漂っている。
甘いばかりの花よりも好みの香りだ。斎藤は一年ぶりに嗅ぐ梅の香を懐かしく思った。
「いい香りだな」
「はい、本当に朝は良く香るんですね、朝からいい気持ちです。教えてくださってありがとうございます」
「礼にはおよばぬ、だな」
「ぁ……っ」
夢主が応えるより早く、斎藤は体を引き寄せ口を吸った。
楽しい会話が響いていた庭は一瞬で静まり、爽やかな白い朝日の中で夢主の頬が染まっていく。
やがて口が離れ、斎藤は夢主の閉じ切らない唇の上を親指でそっとなぞった。
「やはり甘い、梅の香が添えられても一緒だな」
「もぉっ!」
朝から揶揄われた夢主は一輪の梅のごとく赤い顔で声を荒げた。
斎藤はお構いなしに笑って体を離すと、一人先に庭から上がり仕事支度を始めた。夢主もいつまでもむくれていられず、渋々家に戻って朝餉の準備に取り掛かった。
「梅の実っていつ頃に採れましたっけ」
「そうだな、六月頃か」
「六月、たくさん採れるといいですね。梅干しと、日本酒に漬けてみてはどうかなって思うんですけど……一さん呑まないですよね」
「そうだな、お前と沖田君で呑めばいい。俺はどうにもいかん、最近ますます具合が悪い」
「えっ、お体ですか」
「違う。酒を飲んだ後の具合さ」
酒を含んだ後に人を斬りたい衝動に駆られる、その気持ちの具合が芳しくないのだ。
仕事でやむを得ず酒を含んだ時に気付いた。以前にも増して酷い衝動が湧き起り、抑えるのに苦労した。
「悪いな、一緒に楽しんでやれなくて」
「いいえ……一さんが苦しい思いをされるなんて……梅は全部梅干しにします!」
「別に苦しくなどないさ、悪くない衝動だ」
「もぅ……怖いこと言わないでください……」
「ま、だから俺に気を使わず好きにしろ、構わん」
俺は俺、己の感情に向き合うだけだ。
斎藤は澄ました顔で言い切った。これしきの事でお前の楽しみを減らしたりはせんと甲斐性を見せつけているつもりだ。
そこまで言ってくれるのなら日本酒に梅を漬けたものを沖田に届け、家では梅干しを作ろう。夢主はそう決めて梅の実を待つ楽しみを作った。
「一さん、凄いです!本当に香ります!」
「フフッ、そいつは良かったな」
「良かったなじゃなくて、一さんも来てください!」
俺は早く着替えたいと顔に出すが、あまりに嬉しそうな妻の誘いを断われず「やれやれ」と漏らして庭に下りた。
冷たい朝にも関わらず、ほくほく顔で早く早くと手招きする夢主の隣へ立つと、なるほど、僅かな酸味か何かを含んだ清香が漂っている。
甘いばかりの花よりも好みの香りだ。斎藤は一年ぶりに嗅ぐ梅の香を懐かしく思った。
「いい香りだな」
「はい、本当に朝は良く香るんですね、朝からいい気持ちです。教えてくださってありがとうございます」
「礼にはおよばぬ、だな」
「ぁ……っ」
夢主が応えるより早く、斎藤は体を引き寄せ口を吸った。
楽しい会話が響いていた庭は一瞬で静まり、爽やかな白い朝日の中で夢主の頬が染まっていく。
やがて口が離れ、斎藤は夢主の閉じ切らない唇の上を親指でそっとなぞった。
「やはり甘い、梅の香が添えられても一緒だな」
「もぉっ!」
朝から揶揄われた夢主は一輪の梅のごとく赤い顔で声を荒げた。
斎藤はお構いなしに笑って体を離すと、一人先に庭から上がり仕事支度を始めた。夢主もいつまでもむくれていられず、渋々家に戻って朝餉の準備に取り掛かった。
「梅の実っていつ頃に採れましたっけ」
「そうだな、六月頃か」
「六月、たくさん採れるといいですね。梅干しと、日本酒に漬けてみてはどうかなって思うんですけど……一さん呑まないですよね」
「そうだな、お前と沖田君で呑めばいい。俺はどうにもいかん、最近ますます具合が悪い」
「えっ、お体ですか」
「違う。酒を飲んだ後の具合さ」
酒を含んだ後に人を斬りたい衝動に駆られる、その気持ちの具合が芳しくないのだ。
仕事でやむを得ず酒を含んだ時に気付いた。以前にも増して酷い衝動が湧き起り、抑えるのに苦労した。
「悪いな、一緒に楽しんでやれなくて」
「いいえ……一さんが苦しい思いをされるなんて……梅は全部梅干しにします!」
「別に苦しくなどないさ、悪くない衝動だ」
「もぅ……怖いこと言わないでください……」
「ま、だから俺に気を使わず好きにしろ、構わん」
俺は俺、己の感情に向き合うだけだ。
斎藤は澄ました顔で言い切った。これしきの事でお前の楽しみを減らしたりはせんと甲斐性を見せつけているつもりだ。
そこまで言ってくれるのなら日本酒に梅を漬けたものを沖田に届け、家では梅干しを作ろう。夢主はそう決めて梅の実を待つ楽しみを作った。