23.博覧会の誤解
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「一さんたら……」
「構わんだろう」
行儀が悪い、咎める妻の視線をものともせず、澄ました顔で部屋に入った。
布団に夢主を下ろした斎藤は、両手をついて夢主の上から離れようとしない。
「一さん……」
「お前を運んだ事は数知れんが、そのままこうした事はあったかと思ってな」
「こうするって言うのは……」
「フン、今更言わせたいか」
暗がりの中でニヤリと瞳を光らせる斎藤に、夢主は小さく何度も首を振った。
真っ赤な顔で困っているが、戸惑いよりも期待が大きい事をきっと見抜かれているだろう。その通りだと言わんばかりの強い眼差しに、息を止めた。
「昼間の詫びに、今後……やきもちなんざ起きないくらいに……」
「はじめさん……」
すっ、と近付く夫の顔をおもむろに手で止めた。ピクリと反応して動きを止めた斎藤に、夢主は一つ質問をした。
「やきもちなんて……確かにちょっとチクッときましたけど……一さんなら、もし私がどなたかと歩いてたら、一さんどうなさるんですか」
「お前が、男とか」
「はい」
斎藤は面倒臭い質問をしてきたもんだと顔をしかめた。
その場で相手を張り倒すだろうか、その気持ちはあっても制服姿でそれは出来まい。するとしても腕をひねり上げる程度か。
「そうだな、そのまま見送ってやるさ。何か理由があるかもしれんだろう。お人好しのお前だ、ただの道案内かもしれんし、騙されているのかもしれんだろ」
「騙されてって……私そんなに馬鹿じゃありません」
「馬鹿じゃないのは認めるが、優しすぎて騙され兼ねん。ま、お前を騙した男は俺がしっかり処理してやるさ」
処理……まさかその場で斬り捨ててしまうのか、悲しそうに夢主は斎藤を見上げた。
「冗談だよ、処理と言っても殺しはしないさ。そうだな、捕らえて連れて行くか」
「吃驚しました……いくら一さんでもそんな事しませんよね……」
夢主が心の底から安堵して、斎藤はまた顔を歪めた。
そもそも斬るにしても理由があっての事だ。
「俺を何だと思っているんだ、全く」
「たまに怖い人、真面目だけど……ほんのたまに、切れちゃう警官さん……」
「フッ、面白い見解だな。怖いか」
「普段は怖くありませんけど……でも一さんだって自分を見失う時はあるでしょう」
手を離すとまた顔が寄って来る。斎藤の長い前髪が触れそうになり、夢主は再び手を上げて止めた。
もう少し、話がしたかった。
「そんな事はない。ないさ……」
己の顔に触れる夢主の手を除けて、斎藤はそっと唇を落とした。
「お前はあると思うか」
斎藤は己自身を顧みて、思い浮かんだ心当たりを振り払おうと夢主に訊ねた。
問われた夢主も幾つかの心当たりがあり、苦笑いを見せた。
我を忘れて仲間に殴りかかった姿を見た事がある。異様に昂ぶった夫に、どこか乱暴に抱かれた夜もあった。
それでも己を抑えようと自分に抗う苦しげな瞳を見せ、触れる肌は優しかった。
「正直……あると思います。でも、一さんなら大丈夫です。私も……大丈夫です」
夢主は手を伸ばし、今度は斎藤の頭を抱えるように引き寄せた。
「一さんは優しいし、怖くありません。とっても強いから……もし何かに我を忘れてしまっても、ほんの一瞬ですよ。だから大丈夫です。大丈夫ですから……」
「ククッ、お前に慰められるとはな」
「ふふっ、そんなつもりなかったんですよ、一さんが変なこと訊くから」
「変な質問が多いのはお前の方だろう」
「一さんの言う通りです。全部、一さんの言う通り」
「こいつ」
全部受け入れます……大げさな言葉を繰り返す妻と、斎藤は笑いながら額を合わせた。
「全く、お前には敵わんな」
「一さんが……大好きです」
「っく……この、阿呆」
照れ臭い思いをさせられるとは思わず、斎藤ははにかんで顔を離した後、ぎろりと睨みつけた。
照れたまま、治まらない熱を瞳に込めて夢主にぶつけている。
「覚悟しろよ」
「えっ、だって今、怖い事しないって言ったばかりなのに」
「怖くないだろう、容赦せんだけだ。お前が煽ったんだぞ」
「煽ってません、一さんっ!わっ、」
まるでじゃれ合う獣のように、二人はふざけて笑い合いながら肌に触れ始めた。
触れては除けて、擽ったさを感じながら心地良い快楽に包まれていく。
いつの間にか夜は更け、静まりかえった中を小さな笑い声が響き、いつになく甘いひと時が過ぎて行った。
「構わんだろう」
行儀が悪い、咎める妻の視線をものともせず、澄ました顔で部屋に入った。
布団に夢主を下ろした斎藤は、両手をついて夢主の上から離れようとしない。
「一さん……」
「お前を運んだ事は数知れんが、そのままこうした事はあったかと思ってな」
「こうするって言うのは……」
「フン、今更言わせたいか」
暗がりの中でニヤリと瞳を光らせる斎藤に、夢主は小さく何度も首を振った。
真っ赤な顔で困っているが、戸惑いよりも期待が大きい事をきっと見抜かれているだろう。その通りだと言わんばかりの強い眼差しに、息を止めた。
「昼間の詫びに、今後……やきもちなんざ起きないくらいに……」
「はじめさん……」
すっ、と近付く夫の顔をおもむろに手で止めた。ピクリと反応して動きを止めた斎藤に、夢主は一つ質問をした。
「やきもちなんて……確かにちょっとチクッときましたけど……一さんなら、もし私がどなたかと歩いてたら、一さんどうなさるんですか」
「お前が、男とか」
「はい」
斎藤は面倒臭い質問をしてきたもんだと顔をしかめた。
その場で相手を張り倒すだろうか、その気持ちはあっても制服姿でそれは出来まい。するとしても腕をひねり上げる程度か。
「そうだな、そのまま見送ってやるさ。何か理由があるかもしれんだろう。お人好しのお前だ、ただの道案内かもしれんし、騙されているのかもしれんだろ」
「騙されてって……私そんなに馬鹿じゃありません」
「馬鹿じゃないのは認めるが、優しすぎて騙され兼ねん。ま、お前を騙した男は俺がしっかり処理してやるさ」
処理……まさかその場で斬り捨ててしまうのか、悲しそうに夢主は斎藤を見上げた。
「冗談だよ、処理と言っても殺しはしないさ。そうだな、捕らえて連れて行くか」
「吃驚しました……いくら一さんでもそんな事しませんよね……」
夢主が心の底から安堵して、斎藤はまた顔を歪めた。
そもそも斬るにしても理由があっての事だ。
「俺を何だと思っているんだ、全く」
「たまに怖い人、真面目だけど……ほんのたまに、切れちゃう警官さん……」
「フッ、面白い見解だな。怖いか」
「普段は怖くありませんけど……でも一さんだって自分を見失う時はあるでしょう」
手を離すとまた顔が寄って来る。斎藤の長い前髪が触れそうになり、夢主は再び手を上げて止めた。
もう少し、話がしたかった。
「そんな事はない。ないさ……」
己の顔に触れる夢主の手を除けて、斎藤はそっと唇を落とした。
「お前はあると思うか」
斎藤は己自身を顧みて、思い浮かんだ心当たりを振り払おうと夢主に訊ねた。
問われた夢主も幾つかの心当たりがあり、苦笑いを見せた。
我を忘れて仲間に殴りかかった姿を見た事がある。異様に昂ぶった夫に、どこか乱暴に抱かれた夜もあった。
それでも己を抑えようと自分に抗う苦しげな瞳を見せ、触れる肌は優しかった。
「正直……あると思います。でも、一さんなら大丈夫です。私も……大丈夫です」
夢主は手を伸ばし、今度は斎藤の頭を抱えるように引き寄せた。
「一さんは優しいし、怖くありません。とっても強いから……もし何かに我を忘れてしまっても、ほんの一瞬ですよ。だから大丈夫です。大丈夫ですから……」
「ククッ、お前に慰められるとはな」
「ふふっ、そんなつもりなかったんですよ、一さんが変なこと訊くから」
「変な質問が多いのはお前の方だろう」
「一さんの言う通りです。全部、一さんの言う通り」
「こいつ」
全部受け入れます……大げさな言葉を繰り返す妻と、斎藤は笑いながら額を合わせた。
「全く、お前には敵わんな」
「一さんが……大好きです」
「っく……この、阿呆」
照れ臭い思いをさせられるとは思わず、斎藤ははにかんで顔を離した後、ぎろりと睨みつけた。
照れたまま、治まらない熱を瞳に込めて夢主にぶつけている。
「覚悟しろよ」
「えっ、だって今、怖い事しないって言ったばかりなのに」
「怖くないだろう、容赦せんだけだ。お前が煽ったんだぞ」
「煽ってません、一さんっ!わっ、」
まるでじゃれ合う獣のように、二人はふざけて笑い合いながら肌に触れ始めた。
触れては除けて、擽ったさを感じながら心地良い快楽に包まれていく。
いつの間にか夜は更け、静まりかえった中を小さな笑い声が響き、いつになく甘いひと時が過ぎて行った。