23.博覧会の誤解
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「博覧会はどうだった、面白かったか」
「はい、色んなものがあって……妙さん、とっても詳しかったです」
「そうか、流石は流行りの店の娘だな」
「はぃ……」
夢主は気のない返事をし、腰を落として口を閉じてしまった。理由は一つしかない。何か聞きたげにしているが、どこかをぼんやり眺め言い出せずにいるようだ。
信頼があるとはいえ、夫が仲睦まじげに見知らぬ女と歩く姿はさぞ苦痛だっただろう。
「夢主」
「はい」
目の前に屈んだ斎藤が呼びかけると、ようやく二人の目が合った。
「何か言いたい事があるんじゃあ……ないか」
「……それは……」
人混みの中で視線がぶつかったのは間違いない。ならば斎藤も自分とその隣の人物が目撃されたと知っている。
それなのにそんな言い方をするなんて……夢主はムッと口を閉じて視線を外した。
その仕草に斎藤は反射的にフッと笑ってしまった。
「もうっ、笑うなんて……気付いているんでしょう、私が見たって……それなのに……」
「他人のふりをしろと言ったのに忘れやがって」
「だって……姿を見つけたからつい……」
「ついでは困るんだよ」
「そんな言い方しなくても……」
「夢主」
「もういいです。どうせお仕事なんでしょう、わかっていますから。……おやすみなさい」
「おいおい」
ぷい、とむくれた夢主はそっぽを向いて布団に体を入れてしまった。顔を見せろと斎藤が肩に手を置くが、振り払うように肩を動かして布団を顔まで引っ張りあげてしまった。
すっかり拗ねてしまい手が付けられんと斎藤が困り果てた時、玄関の戸を叩く音が聞こえた。
門はもちろん戸締りをしてある。この時間に訊ねてくる者など……訪問客を察した斎藤が夢主に触れた。
「おい、お前に客人だぞ」
「私に……ですか。こんな時間に……」
「そのままで構わん、俺も行く」
渋々立ち上がり上着を羽織ろうとする夢主を止めて、玄関に向かわせた。
夫を疑いの目で見たまま、何をさせる気かと恐る恐る玄関の戸に手を掛けた。
戸を開けて現れた訪問客に驚いて後ろによろめいてしまった。
「あっ……」
昼間の女、夢主は言葉を失った。顔は頭巾で隠れて見えないが、しなやかな所作で踏み入る姿に涙が浮かびそうだ。
だが、その頭巾に見覚えがあると気付いた夢主はそっと女の顔を覗き込んだ。
「……っ総司さん!えぇっ、嘘っ!総司さん!!どうしてですか!」
「あははははっ、本当はこの姿見せたくなかったんだけどな~~ははっ」
ばぁ!とおどけて外した頭巾は、以前沖田から夢主に譲られたショールだった。
道場屋敷に残されていた物。斎藤から貰った風呂敷とよく似た色。紅桔梗に似た紫から月白に色を変える美しさは間違いない。
「どうして!!それ……」
「あははっ、実は一時的にお手伝いをしているんですよ。このショールは斎藤さんに頼んで今日だけ借りていたんです、ごめんね。いつも同じ格好では目立つでしょう」
「いつもって……一時的なお手伝い?」
「はい。斎藤さんに無理矢理こんな格好をさせられているんですよ」
「えっ、一さんに……一さんっ!」
「阿呆、誤解を生む言い回しはやめろ。確かに強引に誘ったのは認めるがな。男女組で警備に当たらねばならんのだ。本物の女より良かろう、何より君ならいざと言う時に腕が立つ」
「まぁそれは否定しませんが。警視総監の川路さん、僕の話はしていませんがこれで貸しが出来ましたね」
「フン、まぁいいんじゃないのか、川路の旦那も義理堅い人間だ。貸しの一つくらい作っておいて調度いいだろう」
幕末から戊辰、維新と考えれば貸しは一つどころではない。
二人はそう言いたげに目を合わせてニヤリと顔を歪ませた。
「はい、色んなものがあって……妙さん、とっても詳しかったです」
「そうか、流石は流行りの店の娘だな」
「はぃ……」
夢主は気のない返事をし、腰を落として口を閉じてしまった。理由は一つしかない。何か聞きたげにしているが、どこかをぼんやり眺め言い出せずにいるようだ。
信頼があるとはいえ、夫が仲睦まじげに見知らぬ女と歩く姿はさぞ苦痛だっただろう。
「夢主」
「はい」
目の前に屈んだ斎藤が呼びかけると、ようやく二人の目が合った。
「何か言いたい事があるんじゃあ……ないか」
「……それは……」
人混みの中で視線がぶつかったのは間違いない。ならば斎藤も自分とその隣の人物が目撃されたと知っている。
それなのにそんな言い方をするなんて……夢主はムッと口を閉じて視線を外した。
その仕草に斎藤は反射的にフッと笑ってしまった。
「もうっ、笑うなんて……気付いているんでしょう、私が見たって……それなのに……」
「他人のふりをしろと言ったのに忘れやがって」
「だって……姿を見つけたからつい……」
「ついでは困るんだよ」
「そんな言い方しなくても……」
「夢主」
「もういいです。どうせお仕事なんでしょう、わかっていますから。……おやすみなさい」
「おいおい」
ぷい、とむくれた夢主はそっぽを向いて布団に体を入れてしまった。顔を見せろと斎藤が肩に手を置くが、振り払うように肩を動かして布団を顔まで引っ張りあげてしまった。
すっかり拗ねてしまい手が付けられんと斎藤が困り果てた時、玄関の戸を叩く音が聞こえた。
門はもちろん戸締りをしてある。この時間に訊ねてくる者など……訪問客を察した斎藤が夢主に触れた。
「おい、お前に客人だぞ」
「私に……ですか。こんな時間に……」
「そのままで構わん、俺も行く」
渋々立ち上がり上着を羽織ろうとする夢主を止めて、玄関に向かわせた。
夫を疑いの目で見たまま、何をさせる気かと恐る恐る玄関の戸に手を掛けた。
戸を開けて現れた訪問客に驚いて後ろによろめいてしまった。
「あっ……」
昼間の女、夢主は言葉を失った。顔は頭巾で隠れて見えないが、しなやかな所作で踏み入る姿に涙が浮かびそうだ。
だが、その頭巾に見覚えがあると気付いた夢主はそっと女の顔を覗き込んだ。
「……っ総司さん!えぇっ、嘘っ!総司さん!!どうしてですか!」
「あははははっ、本当はこの姿見せたくなかったんだけどな~~ははっ」
ばぁ!とおどけて外した頭巾は、以前沖田から夢主に譲られたショールだった。
道場屋敷に残されていた物。斎藤から貰った風呂敷とよく似た色。紅桔梗に似た紫から月白に色を変える美しさは間違いない。
「どうして!!それ……」
「あははっ、実は一時的にお手伝いをしているんですよ。このショールは斎藤さんに頼んで今日だけ借りていたんです、ごめんね。いつも同じ格好では目立つでしょう」
「いつもって……一時的なお手伝い?」
「はい。斎藤さんに無理矢理こんな格好をさせられているんですよ」
「えっ、一さんに……一さんっ!」
「阿呆、誤解を生む言い回しはやめろ。確かに強引に誘ったのは認めるがな。男女組で警備に当たらねばならんのだ。本物の女より良かろう、何より君ならいざと言う時に腕が立つ」
「まぁそれは否定しませんが。警視総監の川路さん、僕の話はしていませんがこれで貸しが出来ましたね」
「フン、まぁいいんじゃないのか、川路の旦那も義理堅い人間だ。貸しの一つくらい作っておいて調度いいだろう」
幕末から戊辰、維新と考えれば貸しは一つどころではない。
二人はそう言いたげに目を合わせてニヤリと顔を歪ませた。