23.博覧会の誤解
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
博覧会開催期間になると斎藤は毎日同じ時刻に家を出て、戻る時刻もほぼ定まっていた。
「狭い場所に一日いるのは楽なようで面倒だな。まぁお前が寝る前に帰れるのはありがたいか」
「ふふっ、お家からも近いですもんね。朝は警視庁にも行かれるのですか、帰りはさすがにそのままですよね」
「あぁ。帰りは日替わりで別の人間を報告に行かせている。朝ばかりは俺が行かねばならんがな。お前、明日行くんだったか」
「はい、赤べこの妙さんと一緒に。総司さんの代わりに一緒に行ってくれるんです。とっても楽しみ……どんな展示があるのかな……一さんは警備しながら見ていますよね、どうですか」
「フン、それはお前が自分の目で確かめて来い。お前にはなかなか興味深いだろう」
「わかりました」
楽しみを奪うような無粋な真似はせん、斎藤はニッ目を細めた。
目の前で夢主はあれこれ想像を膨らませて楽しそうだ。
「それから分かっていると思うが、俺を見つけても」
「話しかけたりしません、わかってますよ」
二人だけの秘密の約束。夢主はにこりと首を傾げた。可笑しな気分だが、見かけても他人のふりをする。何かの遊びのつもりでいれば良いだろう。
妙も斎藤の顔は知らないはずだ。赤べこが小間物屋だった頃一度遭遇しそうになったが、妙の父が見知らぬ男から娘を遠ざけようと取った行動のおかげで、鉢合わせずに済んでいた。
しかし博覧会へ遊びに出向いた当日、夢主は約束を忘れ咄嗟に呼びかけそうになってしまった。
機転が利く斎藤がそつなく回避した為、二人の関係が周りに知られずにやり過ごせた。
だが、任務中の夫の横を歩く見知らぬ女に衝撃を受けた。まさかそれが沖田だという発想は微塵もない。
斎藤は斎藤で、目を合わせ声を掛けようと手を上げた妻の姿に渋い顔を見せそうになり、慌てて顔を逸らした。
表面上はとても冷静を保っているが、良く知る相棒には見透かされていた。
「斎藤さん」
「何だ、話しかけるな」
「夫婦者なんでしょう、だったら笑顔で顔を寄せてくださいよ」
女物の着物を身につけ頭巾で頭を覆った沖田が、着物の袖で口元を隠してひそひそと話し掛けた。
「なかなか、仕草までさまになっているじゃないか」
「伊達に吉原で学んでいませんでしょう、それより今、斎藤さん動揺しましたね。夢主ちゃんですか」
沖田は満更でもなく、女らしいしなやかな動きを見せて斎藤を揶揄った。
顔を伏せており確認は出来ないが、明らかに伝わってきた動揺の原因を言い当てた。
斎藤は音にならない舌打ちをした。腹が立つが見事な勘と観察眼は褒めるしかない。
「その名を今は出すな」
「ふふっ、図星でしたか。知りませんよ、帰って夢主ちゃんが泣いてても。ちゃんと誤解を解いてあげてくださいね、可哀そうです」
「フン、言われるまでもない。あいつはこれくらいの事で……」
「事で?」
「俺を疑ったりは……せん。ただ少し、塞いでいるかもな」
「そうですね、貴方がいけないんですよ、妙な仕事を受けてくるから」
「仕方あるまい、意味はある。内外にこの国の技術やらを訴え、民衆はお祭り気分で騒げる。維新とやらで振り回された人々には調度いい憂さ晴らしだろう」
ほら、と斎藤が顎で示した周囲を見回せば、確かに皆楽しそうに笑っている。
興奮して話を弾ませ、そこに欝々とした空気はない。
「お喋りはここまでだ。聞かれるぞ」
「はぁ~い、旦那様」
沖田の笑顔の一言に、斎藤は眉間に限界まで深い皺を刻んで睨みつけた。
その夜、戻った斎藤は昼間の自らの言葉通り、元気がない妻を目にした。
「戻ったぞ、夢主」
「一さん……お帰りなさい」
玄関で出迎えて静々と夫の後ろを歩く夢主。
座敷に入ると、元々寝入ろうとしていた部屋に灯りはなかった。
斎藤は構わず寝支度を整え始め、夢主は黙ったまま着替えを手伝い、寝巻を渡した。
「狭い場所に一日いるのは楽なようで面倒だな。まぁお前が寝る前に帰れるのはありがたいか」
「ふふっ、お家からも近いですもんね。朝は警視庁にも行かれるのですか、帰りはさすがにそのままですよね」
「あぁ。帰りは日替わりで別の人間を報告に行かせている。朝ばかりは俺が行かねばならんがな。お前、明日行くんだったか」
「はい、赤べこの妙さんと一緒に。総司さんの代わりに一緒に行ってくれるんです。とっても楽しみ……どんな展示があるのかな……一さんは警備しながら見ていますよね、どうですか」
「フン、それはお前が自分の目で確かめて来い。お前にはなかなか興味深いだろう」
「わかりました」
楽しみを奪うような無粋な真似はせん、斎藤はニッ目を細めた。
目の前で夢主はあれこれ想像を膨らませて楽しそうだ。
「それから分かっていると思うが、俺を見つけても」
「話しかけたりしません、わかってますよ」
二人だけの秘密の約束。夢主はにこりと首を傾げた。可笑しな気分だが、見かけても他人のふりをする。何かの遊びのつもりでいれば良いだろう。
妙も斎藤の顔は知らないはずだ。赤べこが小間物屋だった頃一度遭遇しそうになったが、妙の父が見知らぬ男から娘を遠ざけようと取った行動のおかげで、鉢合わせずに済んでいた。
しかし博覧会へ遊びに出向いた当日、夢主は約束を忘れ咄嗟に呼びかけそうになってしまった。
機転が利く斎藤がそつなく回避した為、二人の関係が周りに知られずにやり過ごせた。
だが、任務中の夫の横を歩く見知らぬ女に衝撃を受けた。まさかそれが沖田だという発想は微塵もない。
斎藤は斎藤で、目を合わせ声を掛けようと手を上げた妻の姿に渋い顔を見せそうになり、慌てて顔を逸らした。
表面上はとても冷静を保っているが、良く知る相棒には見透かされていた。
「斎藤さん」
「何だ、話しかけるな」
「夫婦者なんでしょう、だったら笑顔で顔を寄せてくださいよ」
女物の着物を身につけ頭巾で頭を覆った沖田が、着物の袖で口元を隠してひそひそと話し掛けた。
「なかなか、仕草までさまになっているじゃないか」
「伊達に吉原で学んでいませんでしょう、それより今、斎藤さん動揺しましたね。夢主ちゃんですか」
沖田は満更でもなく、女らしいしなやかな動きを見せて斎藤を揶揄った。
顔を伏せており確認は出来ないが、明らかに伝わってきた動揺の原因を言い当てた。
斎藤は音にならない舌打ちをした。腹が立つが見事な勘と観察眼は褒めるしかない。
「その名を今は出すな」
「ふふっ、図星でしたか。知りませんよ、帰って夢主ちゃんが泣いてても。ちゃんと誤解を解いてあげてくださいね、可哀そうです」
「フン、言われるまでもない。あいつはこれくらいの事で……」
「事で?」
「俺を疑ったりは……せん。ただ少し、塞いでいるかもな」
「そうですね、貴方がいけないんですよ、妙な仕事を受けてくるから」
「仕方あるまい、意味はある。内外にこの国の技術やらを訴え、民衆はお祭り気分で騒げる。維新とやらで振り回された人々には調度いい憂さ晴らしだろう」
ほら、と斎藤が顎で示した周囲を見回せば、確かに皆楽しそうに笑っている。
興奮して話を弾ませ、そこに欝々とした空気はない。
「お喋りはここまでだ。聞かれるぞ」
「はぁ~い、旦那様」
沖田の笑顔の一言に、斎藤は眉間に限界まで深い皺を刻んで睨みつけた。
その夜、戻った斎藤は昼間の自らの言葉通り、元気がない妻を目にした。
「戻ったぞ、夢主」
「一さん……お帰りなさい」
玄関で出迎えて静々と夫の後ろを歩く夢主。
座敷に入ると、元々寝入ろうとしていた部屋に灯りはなかった。
斎藤は構わず寝支度を整え始め、夢主は黙ったまま着替えを手伝い、寝巻を渡した。