23.博覧会の誤解
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「勘が鈍らんように動いてはどうだ。俺と夢主の為にもなるんだがな」
「斎藤さんの為に、でしょう。全く……本当に本当に今回限りですよ、こんな馬鹿げた仕事は!次に持ってきたら貴方とは言えただじゃ済みませんよ」
「ククッ、怖いな。だが助かるよ、頼んだぜ。必要なものはこっちで揃える。また近くなったら詳しく話そう」
「必要なものですか。前回のあれは土方さんが用意してくれたものですからね。きっと笑っていたと思いますよ。今度は見てない事を祈るばかりです」
「ククッ、天国か地獄か分からんが見てもらえばいいじゃないか」
「冗談じゃありません!笑うに決まっています。それより……あの時見に行った場所、物凄い豪邸が完成しているそうじゃありませんか」
「ほぅ、良く知っているな。吉原か」
「えぇまぁ。あそこは本当にいろんな情報が行き来しますね。例の武田観柳が住んでいるそうですよ。人もたくさん雇い入れようとしてるとか」
「何を企んでいるんだか。君も行ったらいいじゃないか、雇われに」
「冗談言わないでください!嘘でも嫌ですよ。あの男、何か胡散臭いんですから」
「フッ、やはり勘は生きているな。じゃあな、また顔を出す」
「はいはぁーい」
不満ながら応える沖田に別れを告げた。
女のように愛らしい、言われた事は何度もあるのだろう。
それ故に女の姿など受け入れ難い。だが開き直れば何とも密偵向きの特徴か。
「ま、仕方あるまいな」
仮に己が女の姿を強いられれば相手を斬ってでも断るだろう。
悪い事を頼んだな、裏口の木戸を閉める「きぃ」と小さな音が脳裏に残る沖田の顔の不満の色を強調した。僅かだが斎藤の顔に反省の色が浮かぶ。
既に日は沈んでいるが、西の空はまだ夕焼けの名残に染まっていた。
家に戻った斎藤は、夢主に全てを告げておくべきか迷っていた。
誘った本人から話してもらうべきか。何故そこまで話をつけてこなかったのだと、少し前の自分を責めた。
万一、女姿の沖田と歩く所を誰かに見られ、耳に入れば厄介な事になりかねない。
沖田から博覧会の断りが入れば、他の誰かと行くかもしれない。あの赤べこの娘などは新しい物に目がないと聞いた。券が余ると知れば喜んで同行するだろう。
博覧会場で遭遇し、沖田の変装が見破られれば彼の尊厳に傷が付く。男が女の格好をするなど、己に置き換えれば虫唾が走る。
強引に丸め込んだ手前、それだけは避けねばなるまい。
また沖田だと気付かず、女と自分が歩いていると誤った事実を目撃されては尚悪い。
予め告げておくべきか、巻き込まれる危険を考えれば二人の関係を信じて黙しておくべきか。
斎藤は黙って考え込んでいた。
「さっきから難しい顔して、どうしたんですか」
「んっ、いや、ちょっとな。夢主。お前、博覧会を知っているか」
「博覧会、知ってますよ。と言っても総司さんに聞いたからなんですけど。記憶にあるとかそういうのではないです」
「そうか。沖田君が」
「はい。なんでも入場券を手に入れたとか、見に行こうってお誘い頂きました」
突然二枚の紙切れを見せ、凄いでしょうと自慢げに誘われた博覧会。どこで手に入れたのか訊ねれば、京ではそれなりに顔が広かったんですよとおどけていた。
普段は隠れたがるのにと、思い出した笑顔を「ふふっ」と笑った。廓で手に入れたのには驚いたが。
沖田からの誘いをとうに知る斎藤は、難しい顔のままどう切り出すか考え込んでいる。
その表情に、夢主は笑顔を引っ込めた。外出の約束が喜ばしくないのか、いつも良かったなと言ってくれる夫の顔が笑わなかった。
「一さんは忙しいだろうからって二人で……一さんにお話するの遅くなってごめんなさい」
「いや、それは構わんが」
「……どうしたんですか」
押し黙って再び何かを考える斎藤に、夢主は首をひねった。
その不安げなさまに、斎藤は小さく息を吐いて口を開いた。
「斎藤さんの為に、でしょう。全く……本当に本当に今回限りですよ、こんな馬鹿げた仕事は!次に持ってきたら貴方とは言えただじゃ済みませんよ」
「ククッ、怖いな。だが助かるよ、頼んだぜ。必要なものはこっちで揃える。また近くなったら詳しく話そう」
「必要なものですか。前回のあれは土方さんが用意してくれたものですからね。きっと笑っていたと思いますよ。今度は見てない事を祈るばかりです」
「ククッ、天国か地獄か分からんが見てもらえばいいじゃないか」
「冗談じゃありません!笑うに決まっています。それより……あの時見に行った場所、物凄い豪邸が完成しているそうじゃありませんか」
「ほぅ、良く知っているな。吉原か」
「えぇまぁ。あそこは本当にいろんな情報が行き来しますね。例の武田観柳が住んでいるそうですよ。人もたくさん雇い入れようとしてるとか」
「何を企んでいるんだか。君も行ったらいいじゃないか、雇われに」
「冗談言わないでください!嘘でも嫌ですよ。あの男、何か胡散臭いんですから」
「フッ、やはり勘は生きているな。じゃあな、また顔を出す」
「はいはぁーい」
不満ながら応える沖田に別れを告げた。
女のように愛らしい、言われた事は何度もあるのだろう。
それ故に女の姿など受け入れ難い。だが開き直れば何とも密偵向きの特徴か。
「ま、仕方あるまいな」
仮に己が女の姿を強いられれば相手を斬ってでも断るだろう。
悪い事を頼んだな、裏口の木戸を閉める「きぃ」と小さな音が脳裏に残る沖田の顔の不満の色を強調した。僅かだが斎藤の顔に反省の色が浮かぶ。
既に日は沈んでいるが、西の空はまだ夕焼けの名残に染まっていた。
家に戻った斎藤は、夢主に全てを告げておくべきか迷っていた。
誘った本人から話してもらうべきか。何故そこまで話をつけてこなかったのだと、少し前の自分を責めた。
万一、女姿の沖田と歩く所を誰かに見られ、耳に入れば厄介な事になりかねない。
沖田から博覧会の断りが入れば、他の誰かと行くかもしれない。あの赤べこの娘などは新しい物に目がないと聞いた。券が余ると知れば喜んで同行するだろう。
博覧会場で遭遇し、沖田の変装が見破られれば彼の尊厳に傷が付く。男が女の格好をするなど、己に置き換えれば虫唾が走る。
強引に丸め込んだ手前、それだけは避けねばなるまい。
また沖田だと気付かず、女と自分が歩いていると誤った事実を目撃されては尚悪い。
予め告げておくべきか、巻き込まれる危険を考えれば二人の関係を信じて黙しておくべきか。
斎藤は黙って考え込んでいた。
「さっきから難しい顔して、どうしたんですか」
「んっ、いや、ちょっとな。夢主。お前、博覧会を知っているか」
「博覧会、知ってますよ。と言っても総司さんに聞いたからなんですけど。記憶にあるとかそういうのではないです」
「そうか。沖田君が」
「はい。なんでも入場券を手に入れたとか、見に行こうってお誘い頂きました」
突然二枚の紙切れを見せ、凄いでしょうと自慢げに誘われた博覧会。どこで手に入れたのか訊ねれば、京ではそれなりに顔が広かったんですよとおどけていた。
普段は隠れたがるのにと、思い出した笑顔を「ふふっ」と笑った。廓で手に入れたのには驚いたが。
沖田からの誘いをとうに知る斎藤は、難しい顔のままどう切り出すか考え込んでいる。
その表情に、夢主は笑顔を引っ込めた。外出の約束が喜ばしくないのか、いつも良かったなと言ってくれる夫の顔が笑わなかった。
「一さんは忙しいだろうからって二人で……一さんにお話するの遅くなってごめんなさい」
「いや、それは構わんが」
「……どうしたんですか」
押し黙って再び何かを考える斎藤に、夢主は首をひねった。
その不安げなさまに、斎藤は小さく息を吐いて口を開いた。