23.博覧会の誤解
夢主名前設定
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「分かったよ。なんとか探してみるが……外部の者ではいかんのか」
「外部の者?大事な任務に素性の分からん者を使う訳にはいかん」
「アンタも良く知る男なんだがね。詳しくは、本人が嫌がるから話しはせんが。煩く詮索しない約束をするならとっておきの男が一人いるぞ。腕は間違いなし、女形にもぴったりの男だ」
「お前が人を推すなど珍しいな。余程の男と見たが、とにかく一度署内の人間で候補者を確認しろ」
「あぁ、分かったさ。だがどうなっても知らんぞ」
「お前に指図するつもりはない。好きにしろと言いたいが、まずは一度候補者の様子を見てからだ。適任者がいるかもしれんだろう。いいな」
「見るだけだな」
「斎藤!」
「任務はしっかりこなすさ。十人の選抜と、男女組の男は俺が入る。それでいいだろう。要人の横を歩いて目立ちたくはないんでな」
全くこれが警視総監と一警官の会話なのか。はたから見れば、見る者が顔を青くするやりとりだ。
斎藤は一切遠慮せず意見を述べ、部屋をあとにした。
「全く、いつもながらあの男は!」
部屋に残された川路は一人本音を吐き出した。
それでも、最も頼りにしている男には違いなかった。
西の空を赤く染め、今にも日が沈もうとしている。
斎藤は適任者は奴しかいないだろうと、頭から離れない張本人を訪れていた。
剣腕は文句なし、己に比べ随分と小さく、女に近いしなやかな体。上手く化けるだろう。
「お帰りなさい斎藤さん」
「フン、君の家に帰ったわけではないがな」
「ははっ、また屁理屈を。僕に何か御用ですか」
「勘は鈍っていないか、好都合だ」
わざわざ家主を探すように歩いてきた姿に、何かあると悟った沖田。
ニヤリと近付く斎藤の鋭さに似た目付きを、そのままお返しした。
「ひとつ、仕事を手伝って欲しい」
「またですか。前回のはなかなか面倒でしたよ、何しろ変装というのが……まさか、また」
「まぁ近いが違うな」
変装ではない、女装だ。これもまた屁理屈だろう。
目の前の小柄な姿に女物の着物を重ね、ククッと思わず声に出そうな笑いを抑えて斎藤は話を続けた。
「言い難いんだが沖田君、女の格好をして欲しい」
「はあっ、女?冗談じゃありませんよ、なんだってまた!この前の洋装だって随分と苦労したんですから!」
「事情があってな。今回は協力してもらう前提で事情を話すぞ、博覧会が行われることは知っているだろう」
「えぇ、知っていますよ。僕も斎藤さんに話そうと思ったんです。夢主ちゃんと行こうかと」
「何、博覧会にか」
優位に話を進めようとしていた斎藤の顔から一瞬で余裕が消えてしまった。
沖田が使えないのは困る。更に妻がその場に居合わせても嬉しくはない。
「そうですよ、博覧会だなんて好きそうでしょう夢主ちゃん。例の楼主が入場券をくれたんです」
廓で貰ったと正直に話してしまい、夢主に渋い顔をされた。
だが博覧会の内容を聞いてすぐに興味を持ち、自分が行かなければ誰と行くのか不安になり沖田の誘いに乗ったのだ。
「だから今回は無理ですよ。楽しみにしていますから」
「確かに無理だな。君が断れば女形の代わりに夢主をつれて行く」
「まさかっ!」
もちろん妻を帯同するわけがない。
しかし沖田を連れ出すには多少揺さぶりが要るようだ。他に適任者が見つからない任務だ、彼を逃せまい。
「仕方なかろう、自然に振舞える男女組の配置が必要なんだ。あいつに仕事を知らせる気はないから安心しろ」
「安心しろって、何か起きたらどうするんです!」
「その時は待機するよう告げて、俺が騒ぎを抑えに入るさ」
「待機させるって、冗談じゃありません。そんな危ない状況になるかもしれないのに一緒に行くだなんて!」
「仕方なかろう、いないのだから」
君以外、意味深な視線を送り、眉を浮かせて誘いをかけた。
厭らしい表情にむっとする沖田だが、返せる返事は一つしかない。素直に応じる気になれず、大きな溜息を吐いた。
「初めから夢主ちゃんを連れて行く気はないのでしょう。違いますか」
「さぁて。男女組を配置しろと言われているのは事実だ。俺はこんなだから女にはなれんだろう」
「ぐっ……」
斎藤の女姿など。思い浮かべて吹き出しそうになった沖田は、緩む頬を堪えて真面目に睨みつけた。
「外部の者?大事な任務に素性の分からん者を使う訳にはいかん」
「アンタも良く知る男なんだがね。詳しくは、本人が嫌がるから話しはせんが。煩く詮索しない約束をするならとっておきの男が一人いるぞ。腕は間違いなし、女形にもぴったりの男だ」
「お前が人を推すなど珍しいな。余程の男と見たが、とにかく一度署内の人間で候補者を確認しろ」
「あぁ、分かったさ。だがどうなっても知らんぞ」
「お前に指図するつもりはない。好きにしろと言いたいが、まずは一度候補者の様子を見てからだ。適任者がいるかもしれんだろう。いいな」
「見るだけだな」
「斎藤!」
「任務はしっかりこなすさ。十人の選抜と、男女組の男は俺が入る。それでいいだろう。要人の横を歩いて目立ちたくはないんでな」
全くこれが警視総監と一警官の会話なのか。はたから見れば、見る者が顔を青くするやりとりだ。
斎藤は一切遠慮せず意見を述べ、部屋をあとにした。
「全く、いつもながらあの男は!」
部屋に残された川路は一人本音を吐き出した。
それでも、最も頼りにしている男には違いなかった。
西の空を赤く染め、今にも日が沈もうとしている。
斎藤は適任者は奴しかいないだろうと、頭から離れない張本人を訪れていた。
剣腕は文句なし、己に比べ随分と小さく、女に近いしなやかな体。上手く化けるだろう。
「お帰りなさい斎藤さん」
「フン、君の家に帰ったわけではないがな」
「ははっ、また屁理屈を。僕に何か御用ですか」
「勘は鈍っていないか、好都合だ」
わざわざ家主を探すように歩いてきた姿に、何かあると悟った沖田。
ニヤリと近付く斎藤の鋭さに似た目付きを、そのままお返しした。
「ひとつ、仕事を手伝って欲しい」
「またですか。前回のはなかなか面倒でしたよ、何しろ変装というのが……まさか、また」
「まぁ近いが違うな」
変装ではない、女装だ。これもまた屁理屈だろう。
目の前の小柄な姿に女物の着物を重ね、ククッと思わず声に出そうな笑いを抑えて斎藤は話を続けた。
「言い難いんだが沖田君、女の格好をして欲しい」
「はあっ、女?冗談じゃありませんよ、なんだってまた!この前の洋装だって随分と苦労したんですから!」
「事情があってな。今回は協力してもらう前提で事情を話すぞ、博覧会が行われることは知っているだろう」
「えぇ、知っていますよ。僕も斎藤さんに話そうと思ったんです。夢主ちゃんと行こうかと」
「何、博覧会にか」
優位に話を進めようとしていた斎藤の顔から一瞬で余裕が消えてしまった。
沖田が使えないのは困る。更に妻がその場に居合わせても嬉しくはない。
「そうですよ、博覧会だなんて好きそうでしょう夢主ちゃん。例の楼主が入場券をくれたんです」
廓で貰ったと正直に話してしまい、夢主に渋い顔をされた。
だが博覧会の内容を聞いてすぐに興味を持ち、自分が行かなければ誰と行くのか不安になり沖田の誘いに乗ったのだ。
「だから今回は無理ですよ。楽しみにしていますから」
「確かに無理だな。君が断れば女形の代わりに夢主をつれて行く」
「まさかっ!」
もちろん妻を帯同するわけがない。
しかし沖田を連れ出すには多少揺さぶりが要るようだ。他に適任者が見つからない任務だ、彼を逃せまい。
「仕方なかろう、自然に振舞える男女組の配置が必要なんだ。あいつに仕事を知らせる気はないから安心しろ」
「安心しろって、何か起きたらどうするんです!」
「その時は待機するよう告げて、俺が騒ぎを抑えに入るさ」
「待機させるって、冗談じゃありません。そんな危ない状況になるかもしれないのに一緒に行くだなんて!」
「仕方なかろう、いないのだから」
君以外、意味深な視線を送り、眉を浮かせて誘いをかけた。
厭らしい表情にむっとする沖田だが、返せる返事は一つしかない。素直に応じる気になれず、大きな溜息を吐いた。
「初めから夢主ちゃんを連れて行く気はないのでしょう。違いますか」
「さぁて。男女組を配置しろと言われているのは事実だ。俺はこんなだから女にはなれんだろう」
「ぐっ……」
斎藤の女姿など。思い浮かべて吹き出しそうになった沖田は、緩む頬を堪えて真面目に睨みつけた。