23.博覧会の誤解
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翌年、桜のつぼみがほころび始める頃、東京の湯島聖堂大成殿で日本初の博覧会が開催された。
博覧会といっても最新の産業機械が並ぶわけではなく、どちらかといえば古の技、伝統技術による品々を集めた展示会だ。
湯島聖堂は神田川の近く、夢主と斎藤の家からも遠くない場所に位置する。元は徳川幕府の学問所であり、現在は文部省が置かれている。
付近に住まう旧幕臣達には懐かしく、庶民は足を運びやすい立地。
入場料は手を出しやすい二銭というから人が集まった。
整備されたばかりの郵便制度で東京から箱根まで一銭で書状を出せる事を考えれば、その安さが分かるだろう。
夢主も町の人々と同じくその場に足を運んでいた。
同行者は好奇心旺盛な妙。行くからには早く行こうと妙は店から離れる時間をやりくりして抜け出した。
揃って弾む心で会場に足を踏み入れ、迫力に圧倒されるよう場内を見回している。
「それにしても夢主ちゃん、本当にありがとうなぁ、話を聞いてからずっと行きたい思てたんよ」
「楽しみでしたよね!入場券、私も頂き物の頂き物なので、本当に気を使わないでくださいね」
もともと入場券を用意してくれたのは沖田だった。馴染みの人に貰ったと話すがどこか怪しく、質問を重ねると馴染みの人とは馴染みの楼主と判明したのだ。
入手先を聞いた時は顔をしかめたが、博覧会に興味を持った夢主はすぐに一緒に行くと頷いた。
所が、その誘ってきた沖田が今度は突然行けないと言い出した。
期間は一日二日ではない。どうにか時間が取れないか相談したが何やら理由があるようで、「ごめんね」と爽やかな笑顔を困らせるだけだった。
言えない事情を察し、譲ると言われた券をありがたく頂戴して唯一の友人である妙を誘ったのだ。
「一番奥にな、凄い大っきな鯱があるんやて!東京にはおらへんオオサンショウウオもいるらしいんよ」
「妙さん詳しい……」
「もう話沢山仕入れてきたもの!!何だってあるんよ!錦絵に焼き物に、剥製!迫力が凄いそうよ、ちょっと怖いけど来たからには見んとなぁ」
「ふふっ、そうですね、全部見て帰りましょう!」
「もちろん、全部見るわよ!」
博覧会が開かれてからまだ一週間も経っていないが、既に噂は町に広まり人出は凄い。
妙は店の客から情報を仕入れており、まるで見知った場所のように夢主を引っ張った。
場内の通りを行く人々は見慣れた袴姿の者が多いが、中には洋装姿で行く者もいる。頭に髷を乗せた者が依然多数派だが、散切り頭も増えていた。
通りの先に飛び出た金色の大きな尻尾が見える。あれが金の鯱だろう、思わず二人は首を伸ばした。
「えらい人だかりやなぁ、流石は一番の人気役者やね」
「本当に凄い人気ですね……ちょっとざわざわしていますよ」
「そうねぇ、誰かお偉いはんでも来てるんやろうか」
人気の展示物を囲む人々がちらちら振り返ったり、じっと同じ方向を目にしている。
同じく目を凝らしていた妙がハッと顔を上げ、大きな声を上げた。
「文部省のお偉いはんが出てきたんやわ!見てぇ、周り強そうな人が囲んではるで!」
「本当だ……警官のみなさんでしょうか」
場内を視察して歩く人物の周りを囲む警官達。夢主はつい警官達の顔を確認してしまった。
夫の姿を探すが、その中にはいない。
「いない……」
「どうしたん、夢主ちゃん」
「いえっ、ちょっと……なかなかお目に掛かれませんから、お偉いさんなんて!じろじろ見ちゃいました。あんまり見ない方がいいですよね」
我ながら不躾で恥ずかしいと肩をすぼめて見せた。
くすくすと笑う妙の肩越しに、見慣れたその姿は飛び込んできた。
博覧会といっても最新の産業機械が並ぶわけではなく、どちらかといえば古の技、伝統技術による品々を集めた展示会だ。
湯島聖堂は神田川の近く、夢主と斎藤の家からも遠くない場所に位置する。元は徳川幕府の学問所であり、現在は文部省が置かれている。
付近に住まう旧幕臣達には懐かしく、庶民は足を運びやすい立地。
入場料は手を出しやすい二銭というから人が集まった。
整備されたばかりの郵便制度で東京から箱根まで一銭で書状を出せる事を考えれば、その安さが分かるだろう。
夢主も町の人々と同じくその場に足を運んでいた。
同行者は好奇心旺盛な妙。行くからには早く行こうと妙は店から離れる時間をやりくりして抜け出した。
揃って弾む心で会場に足を踏み入れ、迫力に圧倒されるよう場内を見回している。
「それにしても夢主ちゃん、本当にありがとうなぁ、話を聞いてからずっと行きたい思てたんよ」
「楽しみでしたよね!入場券、私も頂き物の頂き物なので、本当に気を使わないでくださいね」
もともと入場券を用意してくれたのは沖田だった。馴染みの人に貰ったと話すがどこか怪しく、質問を重ねると馴染みの人とは馴染みの楼主と判明したのだ。
入手先を聞いた時は顔をしかめたが、博覧会に興味を持った夢主はすぐに一緒に行くと頷いた。
所が、その誘ってきた沖田が今度は突然行けないと言い出した。
期間は一日二日ではない。どうにか時間が取れないか相談したが何やら理由があるようで、「ごめんね」と爽やかな笑顔を困らせるだけだった。
言えない事情を察し、譲ると言われた券をありがたく頂戴して唯一の友人である妙を誘ったのだ。
「一番奥にな、凄い大っきな鯱があるんやて!東京にはおらへんオオサンショウウオもいるらしいんよ」
「妙さん詳しい……」
「もう話沢山仕入れてきたもの!!何だってあるんよ!錦絵に焼き物に、剥製!迫力が凄いそうよ、ちょっと怖いけど来たからには見んとなぁ」
「ふふっ、そうですね、全部見て帰りましょう!」
「もちろん、全部見るわよ!」
博覧会が開かれてからまだ一週間も経っていないが、既に噂は町に広まり人出は凄い。
妙は店の客から情報を仕入れており、まるで見知った場所のように夢主を引っ張った。
場内の通りを行く人々は見慣れた袴姿の者が多いが、中には洋装姿で行く者もいる。頭に髷を乗せた者が依然多数派だが、散切り頭も増えていた。
通りの先に飛び出た金色の大きな尻尾が見える。あれが金の鯱だろう、思わず二人は首を伸ばした。
「えらい人だかりやなぁ、流石は一番の人気役者やね」
「本当に凄い人気ですね……ちょっとざわざわしていますよ」
「そうねぇ、誰かお偉いはんでも来てるんやろうか」
人気の展示物を囲む人々がちらちら振り返ったり、じっと同じ方向を目にしている。
同じく目を凝らしていた妙がハッと顔を上げ、大きな声を上げた。
「文部省のお偉いはんが出てきたんやわ!見てぇ、周り強そうな人が囲んではるで!」
「本当だ……警官のみなさんでしょうか」
場内を視察して歩く人物の周りを囲む警官達。夢主はつい警官達の顔を確認してしまった。
夫の姿を探すが、その中にはいない。
「いない……」
「どうしたん、夢主ちゃん」
「いえっ、ちょっと……なかなかお目に掛かれませんから、お偉いさんなんて!じろじろ見ちゃいました。あんまり見ない方がいいですよね」
我ながら不躾で恥ずかしいと肩をすぼめて見せた。
くすくすと笑う妙の肩越しに、見慣れたその姿は飛び込んできた。