20.あの日の優しさ
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ふふっ、あれはちょっと恥ずかしかったです……でも、あの時一さんが掛けてくださった言葉、とっても嬉しかったですよ」
「言葉」
さて何を話したか、一語一句を思い出そうと記憶を辿る。
忘れられない壬生での夜。握り飯と茶が美味い、涼しい夜だった。夢主が沖田の病を気に掛け、泣きながら眠った夜だ。
その夜を迎えるまでに夢主が越えた三夜、様々な想いだっただろう。
「私がしてしまった事……初めて会うみんなに、軽率な事を言って警戒させちゃったの……怒ってくれたり、酷いことされて苦しんでた私を……慰めてくれたり……一さん、優しかったです」
斎藤は、んんっと喉を鳴らして、照れくさそうだ。酒で火照る夢主には負けるが、鋭い顔が微かに色付いた。
視線を戻すが口を開かない斎藤を、夢主は緩んだ目で真っ直ぐ見上げた。酔うと涙が浮かんでくるのか、すぐに瞳が揺れ始める。
「優しくて、この人がいてくれて良かったって……思えたんです」
淡く染まった顔で微笑む姿に、斎藤は今すぐ全て包み込んでしまいたい衝動が沸き起こった。
この衝動は今に始まったものではない。儚い笑顔を見るたびに感じてきた衝動だ。
「俺がもし、あの時……お前を抱いていたらどうなった」
「あの時……」
一夜ずつ、男達の部屋を回れと命ぜられたあの時、斎藤の部屋で初めての夜を迎えた日。
堪え切れずに己の欲に従ってしまっていたならば、二人の関係はどうなっていたのか。斎藤は答えを恐れながら静かに訊ねた。
「わかりません、それでも惹かれてしまったかも……しれません。やっぱり好きになったと思います。でも、そしたら私は幸せには……なれなかったかも……」
斎藤の表情がますます気まずそうに変わっていく。
もしあの夜、体を求められれば拒めなかっただろう。昔の自分の思いを確認した夢主は、小さく頷いた。
「ふふっ、一さん変な顔……。だって自分を襲った人を好きになってしまったら、きっと自分の事も一さんの事も許せなくて、苦しんだと思うんです。だからあの時、一さんが何もしないって言ってくれて心が軽くなって……心から嬉しかったから……」
「夢主……」
気まずさを通り越した斎藤は、今の望みを素直に示そうと、そっと腰を落とした。
「……ありがとうございます」
「阿呆ぅ」
しっかりと抱きしめ、囁いた。今更そんな事を言うとは全く阿呆だ。
言わせた己も愚かしい。斎藤は力強く夢主を抱きしめた。ずっと抱きしめていたかった。
「俺が何度もお前に触れたいと望んだ事は知っていただろう」
小さく頷いて尚、夢主は幸せそうに笑った。
「それでも一さんは私の気持ちを大事にしてくれました……申し訳なくて、嬉しくて……その度にどんどん大好きになっちゃったんですよ、ふふっ」
「フンッ、手を出そうという男に惚れるとは全く警戒心がないな」
「でも出さなかったじゃありませんか、最後まで……約束を守ってくれましたから……」
「やれやれ、今夜はいつになく優しくしてやりたい気分だ」
「一さっ……」
「今更逃れられんぞ、と言いたいがな。酔ったお前を抱いた時、随分と苦しそうだったからな。今日は止めておくさ」
「一さん……大丈夫ですよ、酔いはもう……でも、だからって私からは……言えません……」
「ハハッ、そうだな。ならば様子を見ながら、いいのか」
今夜は優しく抱いてやる……耳元で囁くと、既に酔いが回る夢主はそれだけで過剰な反応を示した。
微かに頷いて応じるが、体中を震えが走り、足の指先まで小さく震えた。
「これでは嫌でも優しく扱わざるを得んな」
斎藤は笑いを潜めて夢主をゆっくり布団に横たわらせた。
本当に大丈夫か、見下ろすと夢主はそのまま眠ってしまいそうな微睡の中にいる。
「眠っても構わんのだぞ」
問われた夢主は横たわったまま小さく首を振って微笑んだ。
「阿呆が……どうなっても知らんぞ……」
指を絡めて手を握り、そっと唇を落とした。
夢主の蕩ける体をゆっくりと愛でる優しい夜は更けていった。
「言葉」
さて何を話したか、一語一句を思い出そうと記憶を辿る。
忘れられない壬生での夜。握り飯と茶が美味い、涼しい夜だった。夢主が沖田の病を気に掛け、泣きながら眠った夜だ。
その夜を迎えるまでに夢主が越えた三夜、様々な想いだっただろう。
「私がしてしまった事……初めて会うみんなに、軽率な事を言って警戒させちゃったの……怒ってくれたり、酷いことされて苦しんでた私を……慰めてくれたり……一さん、優しかったです」
斎藤は、んんっと喉を鳴らして、照れくさそうだ。酒で火照る夢主には負けるが、鋭い顔が微かに色付いた。
視線を戻すが口を開かない斎藤を、夢主は緩んだ目で真っ直ぐ見上げた。酔うと涙が浮かんでくるのか、すぐに瞳が揺れ始める。
「優しくて、この人がいてくれて良かったって……思えたんです」
淡く染まった顔で微笑む姿に、斎藤は今すぐ全て包み込んでしまいたい衝動が沸き起こった。
この衝動は今に始まったものではない。儚い笑顔を見るたびに感じてきた衝動だ。
「俺がもし、あの時……お前を抱いていたらどうなった」
「あの時……」
一夜ずつ、男達の部屋を回れと命ぜられたあの時、斎藤の部屋で初めての夜を迎えた日。
堪え切れずに己の欲に従ってしまっていたならば、二人の関係はどうなっていたのか。斎藤は答えを恐れながら静かに訊ねた。
「わかりません、それでも惹かれてしまったかも……しれません。やっぱり好きになったと思います。でも、そしたら私は幸せには……なれなかったかも……」
斎藤の表情がますます気まずそうに変わっていく。
もしあの夜、体を求められれば拒めなかっただろう。昔の自分の思いを確認した夢主は、小さく頷いた。
「ふふっ、一さん変な顔……。だって自分を襲った人を好きになってしまったら、きっと自分の事も一さんの事も許せなくて、苦しんだと思うんです。だからあの時、一さんが何もしないって言ってくれて心が軽くなって……心から嬉しかったから……」
「夢主……」
気まずさを通り越した斎藤は、今の望みを素直に示そうと、そっと腰を落とした。
「……ありがとうございます」
「阿呆ぅ」
しっかりと抱きしめ、囁いた。今更そんな事を言うとは全く阿呆だ。
言わせた己も愚かしい。斎藤は力強く夢主を抱きしめた。ずっと抱きしめていたかった。
「俺が何度もお前に触れたいと望んだ事は知っていただろう」
小さく頷いて尚、夢主は幸せそうに笑った。
「それでも一さんは私の気持ちを大事にしてくれました……申し訳なくて、嬉しくて……その度にどんどん大好きになっちゃったんですよ、ふふっ」
「フンッ、手を出そうという男に惚れるとは全く警戒心がないな」
「でも出さなかったじゃありませんか、最後まで……約束を守ってくれましたから……」
「やれやれ、今夜はいつになく優しくしてやりたい気分だ」
「一さっ……」
「今更逃れられんぞ、と言いたいがな。酔ったお前を抱いた時、随分と苦しそうだったからな。今日は止めておくさ」
「一さん……大丈夫ですよ、酔いはもう……でも、だからって私からは……言えません……」
「ハハッ、そうだな。ならば様子を見ながら、いいのか」
今夜は優しく抱いてやる……耳元で囁くと、既に酔いが回る夢主はそれだけで過剰な反応を示した。
微かに頷いて応じるが、体中を震えが走り、足の指先まで小さく震えた。
「これでは嫌でも優しく扱わざるを得んな」
斎藤は笑いを潜めて夢主をゆっくり布団に横たわらせた。
本当に大丈夫か、見下ろすと夢主はそのまま眠ってしまいそうな微睡の中にいる。
「眠っても構わんのだぞ」
問われた夢主は横たわったまま小さく首を振って微笑んだ。
「阿呆が……どうなっても知らんぞ……」
指を絡めて手を握り、そっと唇を落とした。
夢主の蕩ける体をゆっくりと愛でる優しい夜は更けていった。