20.あの日の優しさ
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家に戻り、貰った酒瓶は座敷の文机に置いた。小さな瓶はどこか可愛らしい。
今夜はさすがに遅い。明日、試しに開けてみようか……。
夢主は机上の酒を眺めた。一人の夜を楽しく過ごす術を持っても良いだろう。
斎藤が戻るのは明日か明後日か。呑んでいる最中に帰ればきっと笑ってくれる。帰らなければ、用意した布団にそのまま寝てしまえば良い。
夢主は翌晩、貰った酒で一人晩酌を試みた。
比古が焼いてくれた猪口と、寝間に布団を用意し、あとは何もいらない。月を肴にしたいが寒い夜風を避け、用心の為にも雨戸を締め切った。
酒瓶を開けると、部屋の中に優しい香りが広がった。
「ふふっ、なんだかいけない事をするみたい。でも酔ってもどうせ寝ちゃうだけだから」
一度に流し込まなければ酒の香りと舌に残る甘さを楽しめる。
少しずつ酔いが回るふわふわした感覚は嫌いではなかった。
「妙さん、一さんじゃなくて私の為に用意してくれたのかな、男の人が飲むにしては……甘い香り……」
恐る恐る酒を口に含むと、柔らかい味が広がった。
やはりこの酒は女が飲みやすい仕上がりだ。夢主は味を確かめようと、ついつい猪口を傾けた。
「はぁ……美味しい……妙さんは舌が肥えてるんだなぁ……一さんが戻ったら香りくらい一緒に楽しめるのに……驚くかな、きっと笑ってくれるよね」
ふふふっと笑いが込み上げ、次第に顔に締まりがなくなっていく。
一人晩酌が病みつきになりそうだ。誰に迷惑を掛けるでもなく寂しさも紛れ、心地良い感覚と共に眠気がやって来る。
「ふぁ……妙さんにお礼、言わないと……」
酒の他にも牛鍋を馳走になり、人力車も体験させて貰った。考えてみれば妙には世話になりっぱなしだ。
礼をどうすべきが酔った頭でぼんやり考えていると、気が散っていたのかいつの間にか目の前に斎藤が立っていた。
「あれぇ、ぇへへ~おかえりなさぁぃ、はじめさぁん……」
「今戻った。……夢主、酔ってるな……大丈夫か、ほら火熨斗だぞ、アイロンとやらだ」
「ひのし……あいろん!文明のリキれすねぇ~文明と言えばきょう、人力車にのったんれすよ……じんりき……おもしろかったれす……」
「人力車?」
斎藤は火熨斗が入った箱を見せながら屈んだ。
眉間に皺を作っているが心配そうに顔を覗き、ご機嫌一色の夢主に対し「ふぅ」と安堵の息を吐いた。
「大丈夫そうだが、話が出来んな。……そう言えば夢主」
いつだったか、話が成り立たない夢主に剣気をぶつけ、無理矢理正気を取り戻させた時があった。
このまま寝かせても良いが久しぶりに試してみるかと、華奢な肩をしっかり掴んで固定し、短く剣気を放った。
ハッと放たれた気に貫かれた夢主は、驚いて背筋を伸ばした。
「……っん、一さん……」
「全く、少しは落ち着いたか。一人で何をしている」
「酔って……いたんです……一人晩酌。いけませんか……」
「機嫌良く呑む事を悪いとは言わんが」
斎藤が返事に困った時、浴びた剣気の名残で夢主の背筋がぞくぞく震え、体がぶるっと動いた。
「大丈夫か」
「はぃ、一さんの剣気に震えただけです……なんかちょっと懐かしい」
気は取り戻しても未だ赤い顔をにこりと傾げ、ふふっと笑った。
酒に酔う夢主は何度も見てきたが良いものだ。斎藤は目の前の幸せそうな酔い姿を眺めた。
「懐かしいか」
「はぃ……ずっと前に、出会った頃に……一さんの部屋を訪れた夜、覚えていませんか」
「あぁ、覚えているさ。腰を抜かしたか」
覚えていると懐かしさで二人は笑った。
それは初めて二人で縁側に座り月を見上げた、ぎこちなく照れ臭い夜だった。
今夜はさすがに遅い。明日、試しに開けてみようか……。
夢主は机上の酒を眺めた。一人の夜を楽しく過ごす術を持っても良いだろう。
斎藤が戻るのは明日か明後日か。呑んでいる最中に帰ればきっと笑ってくれる。帰らなければ、用意した布団にそのまま寝てしまえば良い。
夢主は翌晩、貰った酒で一人晩酌を試みた。
比古が焼いてくれた猪口と、寝間に布団を用意し、あとは何もいらない。月を肴にしたいが寒い夜風を避け、用心の為にも雨戸を締め切った。
酒瓶を開けると、部屋の中に優しい香りが広がった。
「ふふっ、なんだかいけない事をするみたい。でも酔ってもどうせ寝ちゃうだけだから」
一度に流し込まなければ酒の香りと舌に残る甘さを楽しめる。
少しずつ酔いが回るふわふわした感覚は嫌いではなかった。
「妙さん、一さんじゃなくて私の為に用意してくれたのかな、男の人が飲むにしては……甘い香り……」
恐る恐る酒を口に含むと、柔らかい味が広がった。
やはりこの酒は女が飲みやすい仕上がりだ。夢主は味を確かめようと、ついつい猪口を傾けた。
「はぁ……美味しい……妙さんは舌が肥えてるんだなぁ……一さんが戻ったら香りくらい一緒に楽しめるのに……驚くかな、きっと笑ってくれるよね」
ふふふっと笑いが込み上げ、次第に顔に締まりがなくなっていく。
一人晩酌が病みつきになりそうだ。誰に迷惑を掛けるでもなく寂しさも紛れ、心地良い感覚と共に眠気がやって来る。
「ふぁ……妙さんにお礼、言わないと……」
酒の他にも牛鍋を馳走になり、人力車も体験させて貰った。考えてみれば妙には世話になりっぱなしだ。
礼をどうすべきが酔った頭でぼんやり考えていると、気が散っていたのかいつの間にか目の前に斎藤が立っていた。
「あれぇ、ぇへへ~おかえりなさぁぃ、はじめさぁん……」
「今戻った。……夢主、酔ってるな……大丈夫か、ほら火熨斗だぞ、アイロンとやらだ」
「ひのし……あいろん!文明のリキれすねぇ~文明と言えばきょう、人力車にのったんれすよ……じんりき……おもしろかったれす……」
「人力車?」
斎藤は火熨斗が入った箱を見せながら屈んだ。
眉間に皺を作っているが心配そうに顔を覗き、ご機嫌一色の夢主に対し「ふぅ」と安堵の息を吐いた。
「大丈夫そうだが、話が出来んな。……そう言えば夢主」
いつだったか、話が成り立たない夢主に剣気をぶつけ、無理矢理正気を取り戻させた時があった。
このまま寝かせても良いが久しぶりに試してみるかと、華奢な肩をしっかり掴んで固定し、短く剣気を放った。
ハッと放たれた気に貫かれた夢主は、驚いて背筋を伸ばした。
「……っん、一さん……」
「全く、少しは落ち着いたか。一人で何をしている」
「酔って……いたんです……一人晩酌。いけませんか……」
「機嫌良く呑む事を悪いとは言わんが」
斎藤が返事に困った時、浴びた剣気の名残で夢主の背筋がぞくぞく震え、体がぶるっと動いた。
「大丈夫か」
「はぃ、一さんの剣気に震えただけです……なんかちょっと懐かしい」
気は取り戻しても未だ赤い顔をにこりと傾げ、ふふっと笑った。
酒に酔う夢主は何度も見てきたが良いものだ。斎藤は目の前の幸せそうな酔い姿を眺めた。
「懐かしいか」
「はぃ……ずっと前に、出会った頃に……一さんの部屋を訪れた夜、覚えていませんか」
「あぁ、覚えているさ。腰を抜かしたか」
覚えていると懐かしさで二人は笑った。
それは初めて二人で縁側に座り月を見上げた、ぎこちなく照れ臭い夜だった。